人と人とが交互に言葉を発すると互いの発話リズムがそろい、脳波リズムも同調してくることが、理化学研究所・脳科学総合研究センターの川崎真弘研究員(現・筑波大学システム情報系助教)や神経情報基盤センターの山口陽子センター長らの研究で分かった。「あの人とはリズム(あるいは波長)が合う」といった社会生活での感覚を脳神経科学の視点で解明しようと実験したもので、研究成果は、コミュニケーション障害の診断や治療、人との相性がよいパートナー・ロボットの開発などに応用が期待されるという。
人同士の言語コミュニケーションでは、発話リズムのほかに話の内容や文脈などの複雑な要素が含まれているので、そのまま脳活動を計測し「同調」を分析することは困難だ。そこで研究グループは、発話リズム以外の要素を取り除くために、発話の内容に意味を持たないアルファベットを交互に発声し合う手法を考案した。透明な仕切りを挟んで向かい合って座った2人に、体を動かさないまま交互にAからGまでを発声してもらい、その時の音声データからそれぞれの発話リズム(発話時間、発話間隔時間)を算出した。これを2人同時に計測した脳波データとも照合した。
日本人20ペアで実験したところ、個々の発話リズムは本来異なるにもかかわらず、互いの発話リズムが同調し、さらに脳波リズムも同調することが分かった。脳波のうち特にシータ波(ピーク周波数4-8ヘルツ)とアルファ波(同8-13ヘルツ)が増幅して同調し、脳の部位では側頭部と頭頂部の活動が関係していた。発話リズムの相関が高いペアほど、脳波リズムの相関も高かった。
また、一定のリズムで発話する機械を相手にした実験では、発話リズムは同調しなかった。発話リズムは人間同士の実験だけで同調することしたことから、人間は、機械のように正確な一定リズムよりも、同じ人間の不安定な、ノイズや変調を含んだリズムに引き込まれやすいことが分かったという。
研究グループは、今後、コミュニケーションにおける行動や感性変化の定量化が可能となれば、コミュニケーション障害の診断ツールや治療方法への応用が期待できる。例えば、高齢者と介護者の行動リズムにズレが生じても、脳波リズムを基に、発話リズムを高齢者に合わせることで、両者のコミュニケーションのストレスを軽減できるかもしれない。さらに、個人に適した発話リズムをロボットの音声リズムに導入することで、人と円滑なコミュニケーションができるパートナー・ロボットの開発なども期待できるという。
研究は、文部科学省科学研究費補助金、新学術領域研究(2009-13年度)「ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」および「人とロボットの共生による協創社会の創成」から助成を受けた。研究論文“Inter-brain synchronization during coordination of speech rhythm in human-to-human social interaction”は英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」(22日付け)に掲載された。