東北大学は4月17日、フィリピンの狂犬病ウイルスの遺伝的多様性とそれらの地理的分布を明らかにしたと発表した。

同成果は同大大学院医学系研究科・微生物学分野の齊藤麻理子助教、押谷仁教授らによるもの。詳細は「PLoS Neglected Tropical Diseases」に掲載された。

狂犬病は、発症すればほぼ100%が死に至る病気で、世界でも狂犬病の制圧に成功しているのは日本を含む数カ国のみである。フィリピンでも毎年200~300例の狂犬病症例が報告されており、日本への狂犬病輸入例も2006年に2件発生するなど、周辺諸国へも影響を与えようとしている。そうした中、フィリピンは2020年までに狂犬病を撲滅することを目標としており、その対策が求められていた。

中でも狂犬病ウイルスの遺伝子解析は、効率的なワクチン戦略を考えるうえでも有効であることから、今回研究グループはフィリピン国内各州の動物衛生研究所と協力して、同国各地の狂犬病動物検体を収集し、235検体の狂犬病ウイルスG遺伝子の解析を実施した。

その結果、フィリピンにおける狂犬病株はいずれも「Asian2b」というグループに属し、それは中国の株(Asian2a)から派生したものであること、ならびにフィリピン株の中では3つのメジャーグループと2つのマイナーグループに分けられることが判明した。研究グループでは、いくつかの例外はあるものの、それらのグループは海で隔てられた地域とほぼ一致しており、さらに詳細なサブグループに分類した場合でも、同じサブグループのウイルスは狭い地域内に認められたと説明する。

なお研究グループは今回の結果から、少なくともフィリピンでは一度狂犬病ウイルスが流入した後は限られた地域内でウイルスが伝播していることが推測されるほか、地域ごとに徹底したイヌへのワクチン接種の有効性が示唆されたとコメントしている。

フィリピン、ルソン地域における狂犬病ウイルスのグループ分類とその採取地域の分布。1つの○または△は1検体を表しており、色、形別にグループを示している。ルソン地域内で採取された検体は全部で14のグループに分類されたという