宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月8日、デジタル/アナログ・ハイブリッド風洞システム「DAHWIN(Digital/Analog-Hybrid Wind Tunnel)」が完成したことを発表した。

航空機の設計・開発には風洞実験(EFD)がよく用いられる。これはライト兄弟の時代から基本的な使われ方は変わらず、飛行機の高性能化を実現しようとすると、時間も手間もコストもかかることとなり、例えばスペースシャトルでは約10万時間の試験が行われたと言われている。一方、近年はコンピュータの性能向上により、モデルを作り、スーパーコンピュータ(スパコン)で数値流体力学(Computational Fluid Dynamics:CFD)解析を行う、という手法も登場してきた。

EFDの最大の特徴は、実際に空気の流れを確認することが可能な点だが、相対的に見れば設備の建設コスト、運用コスト、計測装置のある場所のデータしか入手できず、得られる情報が限定的になること、そして、模型を支持する装置や風洞壁などが存在するために、実際に空を飛ぶ際と条件が違ってしまうといった課題があった。一方のCFDを用いた解析を行う場合、設備が不要なため低コスト、かつあらゆる部分の情報を得ることができるというメリットがあるものの、モデリングデータを用いる際に、別の物理モデルを用いると別の結果がでることもあり、実機で行った際と結果が異なる可能性があるという課題があった。

航空機・宇宙機を設計開発する際に用いられている昔ながらの風洞実験(EFD)

コンピューティング性能が向上したことにより用いられるようになってきた数値シミュレーション(CFD)

DAHWINの考え方は、この両者の良いところを組み合わせることで、より高い精度で航空機・宇宙機の開発を実現しようというもので、2m×2mの還音速風洞(アナログ側)とJAXAの保有するスパコン「JAXA Supercomputer System(JSS)」(デジタル)を融合させることで実現される。実際に、同システムを活用すると、ネットワーク経由でEFDとCFDのデータを同時に確認することが可能になり、どこに居ても設計開発を行うことが可能となる。また、CFDを風洞実験前(事前CFD)に行うことで、模型の設計効率化やCFDの理論データを風洞実験の実測データを比較することが可能となる。これを実現するためにJAXAでは高速演算が可能な独自の高速CFD「FaSTAR」ならびに自動格子生成ソフト「HexaGrid」を開発、これにより、風洞実験データと事前CFDデータのリアルタイム比較を可能とした。

EFDとCFDの良い面を組み合わせようというのがDAHWINのコンセプト。これまでにそういう取り組みは世界的に見てもほとんど存在しなかったそうだ。その理由としては、EFDとCFDのデータフォーマットが異なる点やEFDとCFDのエンジニアが別チームであることが多いことなどが挙げられる。今回、JAXAではDAHWINの開発にあたり、EFDとCFDのデータフォーマットの統一を実現しており、そういった意味でもエポックメイキングなシステムと言える

さらに、CFDデータの活用により、風洞壁、支持装置の影響のない風洞データを得ることが可能となったり、風洞データをベースにCFDを改良していくことで、従来よりも高い精度による演算解析の実現なども将来的には可能となると説明している。

なお、DAHWINは2013年3月に完成したが、すでにJAXAの開発プロジェクトの一部に適用がなされている。例えば2013年8月に飛行実験が予定されている静粛超音速実験機「D-SEND#2」に適用されていたり、国際宇宙ステーション(ISS)に荷物を運ぶ無人補給機「こうのとり(HTV)」)の再突入カプセル型「HTV-R」、三菱航空機が開発を進めている次世代国産旅客機「MRJ」などにも活用されているという。これらの実験では、風洞でのデータ取得と、CFDデータのリアルタイム比較が可能であるため、実験結果とCFDのデータを比較して、おかしいところがないかどうかのチェックなどを容易に行うことが可能となったという。また、風洞実験データで得られた実際の模型での翼のたわみなどをCFDにフィードバックすることが可能となり、より風洞試験に近い条件のCFDを行うことが可能となったという。

なおJAXAでは、DAHWINを活用することで、10~15年程度で、実際の空の条件を数値データとして活用できるところまでソリューションの進化を目指していきたいとしている。

DAHWINにより実現される各種の機能