漫画が家にたまりすぎるとブックオフなどに持っていく人は少なくないでしょう。買い取り査定をしてもらうと「えっ? これぐらいにしかなりませんか」なんてことはありませんか。だいたい大した金額にはなりませんが、レアな漫画であれば高値が付くのでしょうか?
もし、高価に取引される漫画があるとすれば、どんなものがあるのでしょうか。また、いくらぐらいになるものでしょうか。まんだらけ 取締役の辻中雄二郎さんにお話を伺いました。
高値が付く漫画家3人とは!?
――お金の話で恐縮なのですが、高値で取引される漫画にはどんなものがあるのでしょうか?
まず人気のある作家さんがいらっしゃいます。その作家さんの作品は高価になることが多いです。もちろん作品によりますが。
――その作家さんは誰ですか?
水木しげる先生、手塚治虫先生、藤子不二雄先生の3人でしょうね。この3人の作品を欲しいと思う人は多いですね。
水木しげる先生の『妖奇伝』は300万円!
――なるほど。水木しげる先生の作品でレアなものというと、どんなものがあるのでしょうか?
『妖奇伝』という全2巻の作品があります。これは、水木しげる先生の貸本時代の作品でゲゲゲの鬼太郎の最初の作品になり、2冊そろいで出てくることはめったにないですね。弊社でもこの10年間で一度しか扱ったことがなかったと思います。
――『妖奇伝』はいくらぐらいの値が付くのでしょうか?
販売価格は美本セットで300万円でしょうか。レアなのには理由があって、水木先生自身は「2巻の表紙の絵が怖すぎて子供が買ってくれなかった」とおっしゃってます。返品で大変だったなんて話が『ゲゲゲの女房』にもあったはずです(笑)。
藤子不二雄先生の『UTOPIA 最後の世界大戦』は500万円
――藤子不二雄先生は今でも『ドラえもん』が世代を超えて読み継がれたりする人気作家ですが、どんな作品が高価になるのでしょうか?
ビンテージ漫画の中でも一番有名で高額なものが足塚不二雄名義のSF漫画『UTOPIA 最後の世界大戦』です。足塚というペンネームは手塚治虫先生の「足元にもおよびたい」という藤子不二雄先生の少年時代の想いが具現化したものです。藤子不二雄A(※)先生が『まんが道』の中で、「これが僕たちの初めての単行本」と紹介したこともあってよく知られています。
(※藤子不二雄A先生のAは、マルの中にAと表記)
――なるほど。高額ということは部数も少なかったのでしょうか?
いえ、そんなことはないでしょう。当時、再版もされた作品ですから。これは弊社社長の古川益三が「高値で買い取ります」と宣言したエポックメイキングな漫画なのですよ。
――それはどういうことでしょうか?
中古漫画の取引価格は、「神保町」が一つの権威で、そこで価格が付くのはやはり「手塚治虫の作品」でした。でも、古川は、それだけではないだろうと「トキワ荘」世代の人たちの漫画にも注目したんですね。1980年代前半のころです。当時、『UTOPIA 最後の世界大戦』を50万円で買い取りして販売価格は100万円としました。
――現在ではいくらで販売されるのでしょうか?
美本なら500万円はするでしょう。弊社ではこの10年間で2回販売しています。
――なぜそんな価格が付くのでしょうか?
この本は古川が90年代に『なんでも鑑定団』に出演した時に紹介したことでさらに有名になり、それから市場に10冊以上は出てきたんです。
――あったんですね。
あったんですよ(笑)。ここがスゴイのですが、それでも値段は下がらなかったんですよ。常に欲しい人がいるわけです。普通レア本でも10冊も出てきたら値段は落ちるはずなんですが『UTOPIA 最後の世界大戦』は違いました。
――藤子不二雄先生のファンはすごいですね。例えば『ドラえもん』は高値が付いたりしますか?
てんとう虫コミックスの『ドラえもん』なら初版で美本全45巻セットで50万円します。その中でも10巻までが高値で取引されます。背表紙の巻数表記の色が、各巻で異なっているのが初版の特徴です。弊社では1巻の初版美本ならば5万円で販売します。
手塚治虫先生の『新宝島』は初版美本なら500万円
――手塚先生の作品で高価なものと言いますと、どのようなものでしょうか?
手塚先生の場合はいろいろ条件が付くんですよ。
――と言いますと?
手塚先生の作品は数が多く再販も多いので、同じタイトルでも条件が付きます。一番高価なのは『新宝島』の1947年1月30日発行の初版本でしょう。美本であれば、販売価格は500万円になると思います。
――『新宝島』は私でもタイトルだけは知っています。有名な作品ですよね。
はい。手塚先生自身が40万部印刷されたとおっしゃっています。多すぎるという人もいますが、私はその部数に信憑性があると思っています。1月30日、4月20日、6月1日、7月25日……と刷りを重ねていますが、1回の刷りが10万部であれば十分に届きますから。
――初版以外の発行日のものになると価格はどうなるのでしょうか?
それは数がぐっと多くなってしまうので価格は80万円くらいになるんですよ。
――難しいものなんですね。
手塚先生の謎の作品『モモーン山の嵐』
――手塚先生の他の作品はいかがでしょうか?
手塚先生の場合にはミステリーがあるんですよね。
――ミステリー……どういうことでしょうか。
見つかってない作品と言いますか……。手塚先生自身で作った自分の作品リストには掲載されていたのに「発見されてない」作品があるんですよ。『モモーン山の嵐』というのがリストにあったんですね。
――『モモーン山の嵐』。ないんですか?
先生の日記にも「出版社に原稿を届けた」と出てくるんです。
なのに本が1冊も発見されていないし、誰も見たことがないんですよ(笑)。
――それは不思議ですね。
手塚先生はなにせ多作な方でしたので、そういったことが起こるんですね。2006年に、今までリストにしか載っていなかった幻の『ハンスと金の髪の毛』がなんとアメリカのメリーランド大学から出てきたなんてことがありました。
――えっ、なぜアメリカにあったんですか?
連合国軍最高司令官のマッカーサーの下で戦史室長をしていたゴードン・W・プランゲが占領下の日本で検閲した出版物を大学に移送したものから見つかったんです。
――そんなことがあるんですね。
あるんです。でも『モモーン山の嵐』はその中にもなかった(笑)。
――もし出てきたらどのくらいの価値があるんでしょうか。
古川でしたら1,000万円は出すのではないでしょうか。下手したら億の価格が付くかもしれませんね(笑)。
最近の単行本は高値が付くか?
――少年ジャンプの黄金期、1980年代の単行本などはいくらでしょうか。そのころ漫画を読んでいた人は多いと思いますが。
例えば、『ジョジョの奇妙な冒険』や『ドラゴンボール』でも、当時の初版単行本が美本でセットになっていれば高値が付くと思いますが……。でも、評価されるのはこれからだと思います。「この価格で売れるんだ」というのが分かってから皆さん探し始めるので……。
――やはり需要と供給のバランスなんですね。
そうですね。『ワンピース』などもこれからでしょう。
――例えば『こちら葛飾区亀有公園前派出所』などはいかがですか?
『こち亀』は、1巻から6巻までの作者名が「山止たつひこ」名義のもの、初版で美本であればセット販売価格で1万円前後ぐらいでしょうか。
漫画の世界でも、やはりレアなアイテムは高価になってしまうようですね。しかし、1冊で400万円、500万円とは驚きの価格です。
(写真提供 : 株式会社まんだらけ)
(高橋モータース@dcp)
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