北海道大学・北方生物圏フィールド科学センターの山本潤・助教らの研究グループが、イカが水面から飛び出して着水するまでの一連の様子を連続写真で撮影することに成功した。詳細なイカの飛行行動を明らかにしたのは世界でも初めて。研究結果をまとめた論文はドイツの科学雑誌「マリン・バイオロジー(Marine Biology)」に5日掲載された。
イカの飛行は2011年7月25日、北海道大学水産学部付属の練習船「おしょろ丸」で千葉県の東方約600キロメートルの北西太平洋を実習航海中に観察された。船首波で驚いたと考えられる約100匹のイカの群れが2回水面から飛び出し、着水までの様子を北海道大学大学院水産科学院(修士課程2年)の村松康太さんと国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科の研究員で、鯨類研究家の関口圭子博士が撮影した。
これらのイカは「アカイカ」か「トビイカ」とみられ、連続写真を解析した結果、飛行行動は、次の4段階に分類できることが分かった。
- 飛び出し:外套膜(がいとうまく)内に吸い込んだ水を「漏斗(ろうと)」と呼ばれる噴出口から水を勢いよく吐き出して、水面から飛び出す。このときの姿勢は、水の抵抗を小さくするように、ヒレを外套膜に巻き付け、腕もたたむ。
- 噴射:水を漏斗から噴射し続けて空中でも加速し、さらに揚力を得るために、ヒレと腕、腕の間にある保護膜を“翼”のような形にする。空中の飛行速度は8.8-11.2メートル毎秒に達する。
- 滑空:水の噴射が終わると、腕とヒレを広げた状態で滑空する。ヒレや腕と保護膜の“翼“を使い、体を進行方向に向かってやや持ち上げた姿勢(ピッチ・アップ)で、バランスを取る。外套膜は緊張状態を保ち、体の前後(ヒレと腕)にかかる揚力に耐えて、空中姿勢を安定させている。
- 着水:ヒレを外套膜に巻き付けて腕をたたみ、進行方向に対してやや下がった姿勢(ピッチ・ダウン)を取る。これにより着水時の衝撃を小さくさせている。
イカは海中では、捕食者などの接近を感じた際に、漏斗から水を何度も噴出し、できるだけ早く危険から逃避する。特に筋肉が発達した外洋性の数種類のイカは、勢いよく水面から飛び出すことが知られ、“イカが空を飛ぶ”として、世界各地で目撃されてきた。しかし単なる“水面からの飛び出し”なのか、本当に“飛ぶ”のかは不明だった。今回の研究で、イカは高度に発達した飛行行動を持つことが分かったという。