情報通信研究機構(NICT)は2月7日、はっきり目覚めている時と少しウトウトしている時に、機能的磁気共鳴画像(fMRI)と脳波を同時に計測し、脳内での情報の伝達効率を複雑ネットワーク解析で分析した結果、何もしていない安静時でも、ヒトの脳では複数の領域が協調しながら活動して情報をやりとりしており、眠くなるとこれらの領域間の情報伝達が非効率的になることを明らかにしたと発表した。

同成果は、NICT未来ICT研究所の宮内哲 総括主任研究員らと九州大学医学研究院臨床神経生理学・神経内科学教室の医学系学府博士課程 上原平氏(現 九州大学病院神経内科 助教)らによるもので、詳細は英国学術誌「Cerebral Cortex」電子版に掲載された。

日常的に眠くなってウトウトしている(まどろみ状態)と、刺激を見落としたり、素早い反応ができなくなるといったことは誰でも経験しているようなことながら、実はその仕組みはよく分かっておらず、これまでの研究より、まどろみ状態でも脳の一部分は刺激に対して反応することが判明していることから、脳領域間の情報の受け渡しが悪くなっている可能性が考えられるものの、それをはっきりと証明した研究成果はこれまで報告されていなかった。

また、近年のfMRIを用いた研究から、何もしていない安静状態でも、複数の脳領域が常に同期しながら活動し、脳全体でネットワークを形作っていることが明らかになってきており、この安静状態のネットワークが刺激が入ってきた時に、脳内で素早く正確に情報の受け渡しをするために重要な役割をしていると考えられるようになってきた。

今回の研究では、fMRIを用いることで、まどろみ状態でこの安静状態のネットワークが変化しているのかどうかの解析が行われた。しかし、通常のfMRIの実験では、実験中の被験者がはっきり目覚めているのか、眠たいのかは知ることができないため、特別な脳波計測装置を用いて、fMRIと同時に脳波の計測を実施、はっきりと目覚めている状態とまどろみ状態(睡眠段階1)を区別する形で計測が行われた。

具体的には、脳全体を3780の領域に分割し、fMRIのデータから領域間の同期の強さを計算、脳全体の安静状態ネットワークがどのようなつながり方になっているかについて、複雑ネットワーク解析の手法を用いて情報伝達効率を計算し、はっきり目覚めている状態とまどろみ状態で比較を行った。

その結果、まどろみ状態では、安静状態ネットワークの情報伝達効率が低下していることが明らかになったほか、「意識」との関連が深いとされる「前頭連合野/頭頂連合野」で特に情報伝達効率が低下していることも判明し、まどろみ状態では、脳内のネットワークのつながり方が変化し、素早く正確な情報の受け渡しができにくい状態になっていることが明らかにされた。

なお、まどろみ状態や睡眠は生理的に意識が低下する状態で、脳の病気による意識の障害と共通するメカニズムがあると考えられていることから、研究グループでは今後、深い睡眠やレム睡眠での脳ネットワークの解析を進めていくことで、「なぜ意識が無くなるのか?」という謎の解決に向けた研究を進めていくとするほか、今回の知見について、危険防止の観点から、居眠り運転やうっかりミスの防止につながることも期待できるとコメントしている。

上が目覚めている時とウトウトしている時の脳波。ウトウトしているときは、脳の1~6(下の図のオレンジ色の部分)の領域間での情報伝達効率が低下していることが判明した