京都大学(京大)は1月31日、チンパンジーが道具使用「テクニック(技法)」を観察によって学習し、他者が見せる効率のよいテクニックへと方略を改善させることを明らかにしたと発表した。

成果は、京大 霊長類研究所の山本真也特定助教、京大 野生動物研究センターの田中正之准教授、英ケント大学のTatyana Humle講師らの国際研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間1月31日付けで米国科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

今回、霊長類研究所で行った実験で観察された道具使用は、ストローでのジュース「吸い」と「浸し釣り」の2つだ。どちらも同じ道具(シリコンチューブ)を使い、同じ場所(壁にあいた直径1cmの穴)で同じ(ジュース)に対して行われる「テクニック」だが、効率が大きく異なる(「吸い」:容器内の50ccを30秒以内、「浸し釣り」:1試行10分間で最高でも20cc)。

ちなみに「浸し釣る」とは、ストローチューブをジュース容器に抜き挿しし、先に付いたジュースをなめる行動のことである。

画像1。この写真のチンパンジーは、この後、ストローを引き出して先端をなめる「浸し釣り」を見せた

9個体を個別にテストしたところ、4個体は「吸う」テクニックを、残る5個体は「浸し釣る」テクニックを見せた。そこで、この「浸し釣る」5個体を「吸う」モデルとペアにしたところ、最終的にすべての個体がより効率のよい「吸う」テクニックを観察して学習した(4個体はチンパンジーモデルを見て、1個体はヒト実験者が「吸う」のを見て学習)。

この研究の先行研究と異なるポイントは、(1)単純な模倣戦略(刺激強調)では説明できないテクニックの社会学習、(2)効率のよいテクニックへの改善、の2つだという。

社会学習によるテクニックの改善は、ヒトに特有であると考えられている累積文化進化の基盤として重要な役割を果たすと考えられる。テクノロジーの発展に見られるように、ヒトでは、ベースとなる行動からよりよい技法が編み出され、それが個体間に広まって文化が発展していく。このような累積文化進化の認知的基盤をチンパンジーが持っていることが示唆された形だ。