東北大学は1月7日、セラミックスの「チタン酸ランタン」に含まれる酸素成分の割合を変化させることにより、電気の流れ方が劇的に変化するメカニズムとして、「電気が一定方向に流れる鎖状構造」が結晶内部に規則的かつ自発的に形成されることが要因であることを明らかにしたと発表した。

成果は、東北大 原子分子材料科学 高等研究機構(AIMR)の幾原雄一 教授(東京大学教授、財団法人ファインセラミックスセンター主管研究員兼任)、同・王中長 助教、スイスのIBMチューリッヒ研究所のヨハネス・ベドノルツ博士(1987年ノーベル物理学賞受賞者)らの国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月11日付けで独国科学誌「Advanced Materials」25号2巻(2013年1月11日発行)に掲載される予定だ。

セラミックスは、金属や酸素など複数の種類の原子が結びついて構成され、陶器や耐熱材料、さらには電子部品まで幅広い用途で利用されており、金属材料同様に実用的に用いられている。

しかしセラミックスが金属材料と異なる点は、まずそれに含まれる原子の種類の多さや結合状態(イオン結合性や共有結合性)に起因して、大変複雑で独特な結晶構造を持っている点だ。

また、原子の種類や割合(組成)を変えることによって、例えば、「絶縁体のように電気が流れない状態から、金属のようにスムーズに電気が流れる状態への変化」のように、金属材料では不可能な特性(電気や熱、光の伝わり方など)の自在な制御が可能になりつつあり、セラミックスは学術と工学の両面から新たな展開や領域開拓、その体系化が期待されている。

これまでセラミックスは、透明導電性やイオン伝導性、超伝導性などの優れた電気特性(電気の流れやすさ)の観点から活発に研究開発が行われてきた。この電気特性は、セラミックス特有の複雑な結晶構造のわずかな変化(歪みや欠陥など)によって著しく変化する。逆に、歪みや欠陥を意図的に制御すれば、電気特性の向上、さらには新奇な特性の発現が期待できるというわけだ。

今回の研究では、セラミックスであるチタン酸ランタンに含まれる酸素成分の割合を変化させることで結晶構造を制御し、電気の流れ方が変化する現象を発見すると共に、そのメカニズムを解明。

この現象自体はすでに知られていたが、従来の電子顕微鏡による観察技術では、「原子位置や元素分布、化学状態」までは、その性能(分解能力や元素識別能力)が低かったために観察することは困難だった。

よって今回の研究の狙いとなったのが、最先端の「超高分解能走査透過電子顕微鏡技術」とスーパーコンピュータによる大規模な構造モデル計算を併用することで、この現象のメカニズムを原子レベルで解明することだったのである。

研究グループは、ファインセラミックスセンターナノ構造研究所と共同で元素識別可能な分析装置の「電子エネルギー損失分光器」を搭載した最先端の超高分解能走査透過電子顕微鏡を用いて、酸素量を自在に制御して合成したチタン酸ランタンの単結晶の内部に電気が流れるまっすぐな通路(鎖状構造)を発見。この通路が規則的に配列することが、電気が流れる方向や流れやすさが3次元から1次元に変化する要因であることを突き止めた次第だ。

画像1は、セラミックスに含まれる酸素量の増加による結晶構造の変化を走査透過電子顕微鏡法で観察したものだ。酸素量が増加する前(画像・a)は、均一で周期的な原子配列(白色コントラストが原子位置に対応)が観察できることから、サイコロ(立方格子)を3次元に積み重ねたような単純な構造(等方性)で構成されている。

しかし、酸素量を13%程度増加させると(画像1・b)原子配列が劇的に変化して、構造が変化し歪んだ領域(青線部)と変化ない部分(赤線部)が一定の割合で交互に積まれた2次元的な構造(異方性)に変移。この酸素量による構造変化に伴って、電気の流れ方(電気伝導)も3次元的から1次元の直線的な流れ(黄矢印の一軸方向)に変化することが明らかとなったのである。

画像1。酸素量によるセラミックスの構造変化をとらえた写真。(a)は変化前、(b)は変化後

さらに、画像2に示した元素識別観察法(元素分布図)と電子構造の理論計算から、電気が流れる通路が構造変化による歪みが生じない箇所、つまり、画像2・cの赤線内部のチタン1個と酸素6個でできた八面体ユニットが紙面に対して垂直方向に鎖状につながっていて、この鎖状構造に沿って電流が流れることがわかった。

一方、大きく構造の歪みが生じる箇所では、電気がほとんど流れない状態(いわゆる絶縁体)であることも判明。結果として、画像3の模式図で示すように、構造変化後の結晶構造は、「身近にある絶縁テープで覆われた導線を規則的に無数に束ねた」かのように、「電気が流れない絶縁体」の中に「電気が流れる通路(鎖状構造)」が原子レベルで規則的に配列した特異な構造であるいえる。

電気は抵抗が小さい通路(Y方向)に沿って流れやすく、それ以外(特にZ方向)では抵抗が大きい領域を流れる必要があるために電気が流れにくいことがわかる。このことは電気の流れやすさが結晶方向でどう変化するかが調べられた実験結果(電気抵抗率の結晶方位依存性)とよく符号するという。

画像2。構造変化後のセラミックスの特異な原子配列。(a)は電子顕微鏡写真、(b)は元素識別法よる原子分布図(赤:ランタン原子、緑:チタン原子)、(c)は結晶構造の模式図

画像3。構造と電気の流れ方の関係を示した模式図

今回の成果は、構成原子の識別可能な最先端の超高分解能走査透過電子顕微鏡法とスーパーコンピュータによる大規模な原子構造計算を駆使して、構造変化したセラミックスの原子構造や化学状態を計測することに成功し、特に結晶中に電気が流れる通路が規則配列した特異な構造が発見された画期的な結果となると、研究グループはコメント。

今後、組成構造制御によるセラミックスの高性能化や多様化に関する研究のブレークスルーになることが期待されるという。また構造を自在にコントロールできれば、量子細線や高温超伝導、熱電変換など機能特性の発現も大いに期待されるとも述べている。