森永乳業は1月7日、乳由来のたんぱく質「ラクトフェリン(LF)」の摂取によるノロウイルスを含むウイルス感染性胃腸炎に対する臨床試験結果およびそのメカニズム解明に関する基礎研究を実施。その結果、ラクトフェリンがノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスの表面およびその感染部位である消化管細胞と結合し、ウイルスが消化管細胞へ感染することを抑制することで、ウイルス感染性胃腸炎の抑制や症状の緩和につながることが示唆されたと発表した。

ウイルス感染性胃腸炎は手指や食物などを介して感染し、毎年11~12月にかけて増え、年末年始には一旦減少するものの、その後再び増加し、3~4月以降に減少する傾向が見られる。代表的なものとしては、幅広い年齢層で感染し、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者では重症化することもあるノロウイルス感染性胃腸炎が挙げられ、流行期の前半で多く検出されている。また、乳幼児に多く発症するロタウイルス感染性胃腸炎は、流行期の後半で多く検出され、嘔吐、下痢、発熱などを引き起こすが、いずれも、特異的抗ウイルス薬は存在していないとされている。

今回の研究は、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者数が過去10年間で2006年に次ぐ2位の高水準となっていることを受けて、同社が約50年間にわたって研究してきたラクトフェリンの研究の中から、報告されてきたたウイルス感染性胃腸炎に対する可能性をまとめ、ラクトフェリンの活用の可能性について検討を行ったものとなっている。

1つ目の研究は2009年に報告されたもので、5歳未満の保育園児に、同社提供のラクトフェリン含有食品(LF400mg入り錠菓)を16週間摂取してもらうというもの。この結果、ノロウイルス感染性胃腸炎の発症率は、非摂取群(対照群)が45人中7人であったのに対し、摂取群(LF群)は46人中2人と有意に少ない結果となった。また、摂取群の2人の感染者においても検出強度が弱く、感染量が少ないことが示唆されたという。

LF経口摂取による保育園児のノロウイルス感染性胃腸炎の発症抑制

2つ目の研究は2007年に報告されたもので、5歳未満の保育園児に、1日あたりラクトフェリン100mgを含むヨーグルトまたは錠菓を12週間摂取してもらうというもの。この結果、ロタウイルス感染性胃腸炎の発症率に差は認められなかったものの、ロタウイルス感染性胃腸炎を発症した園児の嘔吐、下痢の頻度(回数)と期間(日数)は、摂取群(LF群)で非摂取群(対照群)に対して有意に少ない結果となったという。

LF経口摂取による保育園児のロタウイルス感染性胃腸炎の症状緩和

3つ目の研究は2010年に報告されたもので、母乳中からノロウイルス様粒子と結合する成分を探索、その結果、ラクトフェリンが検出されたというもので、詳細な調査を行ったところ、ヒト腸上皮様細胞(Caco-2細胞)にノロウイルス様粒子を添加する際、ラクトフェリンも添加すると濃度依存的にノロウイルス様粒子のCaco-2細胞への付着が抑制され、ラクトフェリンはノロウイルスと結合することで、ノロウイルスが腸上皮細胞に感染するのを抑制することが示唆されたという。

LFの推測される抗ノロウイルス作用メカニズム

そして4つ目の研究が2003年に報告された人工的に培養できないノロウイルスの代替としてin vitro試験でよく使われるネコカリシウイルスの細胞感染モデル試験。このウイルスを細胞に感染させると8割の細胞が死ぬが、ラクトフェリンと細胞を接触させた後に細胞を洗ってからこのウイルスを添加したところ、細胞死が抑制されることが確認されたが、感染させた後にラクトフェリンを添加しても細胞死は抑制されなかった。また、ラクトフェリンと接触させた細胞を蛍光顕微鏡で観察したところ、ラクトフェリンは細胞表層で検出され、ラクトフェリンが細胞表層に結合している可能性が示され、ラクトフェリンが細胞に付着することで、ウイルスの感染を抑制することが示唆された。

ラクトフェリンの推測される抗ネコカリシウイルス作用メカニズム

これらの研究報告から、同社ではLFの推測される抗ウイルス作用メカニズムを検討。その結果、経口摂取による感染性胃腸炎の症状緩和のメカニズムとして、ラクトフェリンがウイルスや消化管細胞に結合し、ウイルスの消化管細胞への感染を抑制することにより、感染性胃腸炎の発症抑制や症状緩和が見られた可能性が示されたとしている。

3つ目と4つ目の研究より推測されたLFの抗ウイルス作用メカニズム