京都大学(京大)は11月20日、太陽光のエネルギーを駆動力として利用して、二酸化炭素(CO2)を基本的な有機化合物であるアミノケトンに導入する新しい有機合成手法を開発したと発表した。

同成果は同大工学研究科の村上正浩教授、同 石田直樹 助教、同博士後期課程の島本康宏氏らによるもので、詳細は独国化学会誌「Angewandte Chemie」に掲載された。

人間の社会生活は化石資源や原子力に由来するエネルギーに依存する形で発展してきたが、化石資源の枯渇や気候変動、原子力技術に内在する危険性などの諸問題が顕在化するに伴い、それらの利用の見直しが求められるようになってきた。科学技術分野も例外でなく、自然エネルギーを有効に利用する新しい技術の開発が強く求められるようになってきた。その一方で、気候変動の原因物質とされる二酸化炭素の削減が地球規模での課題となっており、太陽エネルギーを活用して二酸化炭素を有機化合物中に取り込む手法は、環境・資源両問題の解決に貢献する手法として期待されるようになってきた。

研究チームは、太陽エネルギーを駆動力として有機化合物中に二酸化炭素を取り込む手法として、太陽エネルギーを取り込む反応(明反応)と、二酸化炭素を取り込む反応(暗反応)を連続的に行う手法を提唱。同手法は、まず太陽光を原料に照射して、高エネルギー化合物へと変換させる。この変換反応は光エネルギーを化学エネルギーに変え、高エネルギー化合物に蓄積する過程で、その後、そのエネルギーを駆動力として高エネルギー化合物に二酸化炭素を取り込むというものだ。

太陽光エネルギーを駆動力とする二酸化炭素の取り込み手法の概念図

さらに研究チームでは、モデルケースとして、温和な条件下でアミノケトンに二酸化炭素を取り込み、環状炭酸エステルを得る手法を開発した。この場合、まずパイレックス製のガラス容器にアミノケトンを有機溶媒に溶かしたものを入れ、容器内を常圧の二酸化炭素で満たし、太陽光にさらすとアミノケトンが太陽光のエネルギーを吸収して、高エネルギー中間体アゼチジノールが生成される(この反応は晴れた日のみならず、曇りの日でも、速度は低下するものの進行することが確認されている)。続いて同反応溶液に炭酸セシウムを添加して60℃に加熱すると、二酸化炭素の取り込みがおこり、炭酸エステルが83%の収率で生成されるという。ちなみに、この得られた環状炭酸エステルは、医薬品の原料や燃料添加剤としての活用が期待できるという。

左が晴れた日における反応の様子、右が曇りの日における反応の様子

アミノケトンへの二酸化炭素の取り込み。左の1がアミノケトン、中央の2がアゼチジノール、右の3が炭酸エステル

今回の成果について研究チームは、理想的なエネルギー源である太陽光を駆動力として二酸化炭素を取り込むための基礎的な方法論を提案・実証したものとしており、この手法をさらに研究していくことで、将来的には二酸化炭素の資源化のみならず、太陽光のエネルギーを駆動力とする、環境に配慮した精密物質変換が可能になる可能性があるとの期待を示しているが、今回の研究では二酸化炭素を取り込んだものの、二酸化炭素の酸化状態は変化していないため、今後は還元過程を含む反応の開発を行っていく予定としている。