情報通信研究機構(NICT)が10月30日、1710年頃に尾形光琳が製作した「八橋図屏風」(メトロポリタン美術館所蔵)の内部状態をテラヘルツ波を用いたイメージング技術を用いて調査した結果、絵の具で描かれた花や橋の部分の下を含む、屏風全面に金箔下地が施され、その金箔の上に銅系を中心とした顔料で彩色されていることを明らかにしたと発表した。同成果は10月1日にメトロポリタン美術館で開催された美術史研究者向けのワークショップで発表された。

テラヘルツ波は、X線透過撮影や赤外線~紫外線の反射測定では困難な 絵画の下地層の状態を非破壊非接触で観測できることから、これまでにもルネッサンス期の板絵や壁画の構造調査などに利用されてきた。

尾形光琳作 「八橋図屏風」(c)メトロポリタン美術館

今回の調査は、メトロポリタン美術館と共同で2012年3月に実施。調査の結果、花や橋が描かれた絵の具の下の部分にも金箔があり、屏風全面に金箔下地が施されていることが明らかになった。

左が屏風のテラヘルツイメージング結果。尾形光琳の「八橋図屏風」では、花、葉、茎、橋の絵画層のある部分も背景の金箔と同様の反射が得られ、金箔下地が存在することが判明した。右が2011年度過去の測定例である「柳橋水車図屏風」(作者不詳。16世紀末~17世紀初。東京国立博物館所蔵)。木の幹や波の下には金箔が存在せず反射が得られないことと比較すると差が明らかであることが見て取れる

また、使われている絵の具は、顔料の粒度が細かいものから粗いものへ重ねられており、その厚さは約0.6mmほどであることも判明したほか、断面の観測から、表面部分に金箔の欠損があっても、内部の紙には影響が及んでいないことが判明した。

屏風の内部構造の非破壊での観察。テラヘルツ波によるイメージングにより、既存の非破壊検査技術では不可能であった屏風内部の紙の層構造を観測することに成功した。これにより例えば、表面部分に金箔の欠損があっても内部の紙には影響が及んでいない様子や、下張りの紙の重なりや端部の処理を明瞭に観察することが可能となった

一方、光琳が同じテーマで描いた国宝「燕子花図屏風」(1701年頃制作、根津美術館所蔵)は、近年の修復時に 燕子花の花の下に金箔は無いことが報告されていることから、少なくとも同一作者でありながら、これら2作品では下地構造が異なるという事実が確認されたこととなる。

なおNICTでは、今後も、国内外の機関とのコラボレーションにより、八橋図屏風以外にも同技術を適用し、今まで明らかにされてこなかった文化財の歴史や価値を明らかにすることを目指していくとするほか、八橋図屏風の映像を、2012年11月8日~10日に開催される「けいはんな情報通信フェア2012」にて、200インチ裸眼立体ディスプレイを用いて紹介する予定としている。

けいはんな情報通信フェア2012にて展示予定のコンピュータグラフィクスによる「八橋図屏風」の200インチ裸眼立体像のイメージ