京都大学(京大)は10月24日、SiCを用いて世界最高となる2万Vの電圧に耐えうるスイッチング素子、バイポーラトランジスタの試作に成功したと発表した。

成果は、同大 工学研究科 須田淳准教授、木本恒暢教授、同博士課程修了 三宅裕樹氏、同修士課程学生 奥田貴史氏、同修士課程学生 丹羽弘樹らによるもの。詳細は、10月に刊行された米国電気電子学会(IEEE)の論文誌「Electron Device Letters(EDL)」11月号に掲載された。

電力の送電、変電設備には、2万Vを超える超高耐圧の半導体素子が必要となるが、現在使用されているSiでは材料の性質(物性)に起因する制約により、6000~8000V程度の耐圧が限界となっている。SiCは、Siより絶縁破壊や熱に強いという特長を有しており、次世代の超高耐圧半導体素子材料として注目されている。

超高耐圧の素子が要求される応用の一例としては、紀伊水道の海底ケーブルを用いた高電圧直流送電(HVDC)や、東日本(50Hz)/西日本60Hz)の周波数変換が挙げられる。このような電力変換システムでは、10万~30万Vの電圧が扱われる。また、住宅近隣の電柱を介する架線(配電系統)でも6600Vの電気が使われており、これを100~200Vに変換する場合には、2万Vの電圧に耐える半導体素子が必要となる。従来は、このような超高耐圧の素子は存在しなかったため、耐圧数千V級の素子を多段階に接続することで、電力変換を行ってきた。しかし、この方法では、設備が非常に大きくなるほか、電力変換時の損失が大きい、変換器の信頼性が低下するなどの問題があった。

これらを解決するために、近年、Creeやロームといった半導体材料、デバイスベンダのほか大学や研究機関などでSiCを用いた超高耐圧素子の研究開発が進められてきたが、その耐圧は1万V程度に留まっていた。

研究は、SiCバイポーラトランジスタの技術・知見に、最先端研究開発支援(FIRST)プログラム「低炭素社会創成へ向けた炭化珪素(SiC)革新パワーエレクトロニクスの研究開発」のもとで開発が進められてきており、先行して2012年6月には、整流素子(PINダイオード)であるダイオードについて、2万Vの壁を突破したものの、電力変換回路を構成するために必要なスイッチング素子については実現できていなかった。

そこで今回、長年基礎研究を進めてきたバイポーラトランジスタの技術・知見とSiC高耐圧化技術を組み合わせ、高電圧印加時の電界集中を緩和する構造、および表面保護技術を集約することで、2万V以上の耐圧を示すバイポーラトランジスタを単独素子で実現した。これにより、2012年6月に発表した耐圧2万Vの整流素子と合わせ、高耐圧パワーエレクトロニクスを構成するために必須である整流素子とスイッチング素子両方の技術の実証に成功したこととなる。

研究グループでは、実用化には、さらなる素子の性能向上や製造技術の確立、SiC超高耐圧素子の性能を引き出す回路技術の確立などが必要だが、今回の成果は次世代の高機能、低損失な電力ネットワーク実現に向けた大きな一歩となったとコメントしている。また、さらなる低損失化により、日本だけでも原子力発電所1~2基分の電力を節約できると期待されることから、小型/低損失の超高耐圧電力変換器が実現できれば、将来のスマートグリッドの構築に寄与できるものともコメントしている。

図1 トランジスタの断面構造模式図

図2 トランジスタの特性。ベース(Base)端子の電流(IB)によりコレクタ(Collector)端子の電流をオン/オフ制御することが可能(図左部分)。トランジスタがオフ状態を2万V以上まで維持し、素子は破壊しない