歴女ブームが起こってどれくらいたつだろう。ロンブー淳をはじめ、城好きを公言する有名人も今や少なくない。城や史跡は今や、多くの観光客が押し寄せる一大人気スポットとなった。特に「観光地が少ない」ことが悩みの種の名古屋にとって、名古屋城は貴重な観光資源の一つ。有り難いブームに違いない。
武将と足軽を含めた10名の「名古屋おもてなし武将隊」
そんな名古屋城に2009年、突如として出現したのが「名古屋おもてなし武将隊」だ。三英傑(信長・秀吉・家康)を輩出した名古屋は、「武将都市ナゴヤ」を掲げて観光キャンペーンを行っている。
その観光PR隊としてとして結成された武将隊は、前述の3人に前田利家(まえだとしいえ)、加藤清正(かとうきよまさ)、前田慶次(まえだけいじ)の3武将と足軽を含めた10人で結成。名古屋城の案内はもちろん、週末の名古屋城や各地での観光PRイベントで演舞や寸劇などのパフォーマンスまで行っている。人気の「城」に「イケメン」を加えた分かりやすい図式が評判を呼び、追っかけが出るほどの大ブームとなった。
募集はハローワークにて
この「おもてなし武将隊」、結成には意外な事実があった。何と、武将隊タレントの募集はハローワークで行われたのだ。これは名古屋市の「ふるさと雇用再生特別基金事業」の一環で、事業名はその名も「『武将都市ナゴヤ』おもてなし隊事業」。
新しい仕事を作って、無職の若者に働いてもらう雇用創出事業。そこに「武将隊」という切り口を持ってきたことが斬新だった。結果、若者は仕事にありつけ、地域は観光客が増えて経済効果も上々。事業が軌道に乗れば補助金に頼らずに継続もでき(名古屋おもてなし武将隊は現在、民営化している)、まさにいいことずくめ。
この成功モデルに便乗し、伊達武将隊(仙台)、土佐おもてなし勤王党(高知)など全国で後発の武将隊も続々と出現した。名古屋に限らず、愛知県には戦国時代ゆかりの史跡が多い。なので愛知県内でも各地で「緊急雇用」ローカル武将隊が結成されている。
「グレート家康公 『葵』武将隊」は、岡崎城のある岡崎市をホームに活動。岡崎が故郷の徳川家康をメーンに、酒井忠次(さかいただつぐ)や本多忠勝(ほんだただかつ)などが集結している。また、古戦場のある長久手(ながくて)市では、長久手歴史トラベラーズ(長トラ)を結成。池田恒興(いけだつねおき)をメーンキャラに、よりローカル色を強めているが、どちらもイベントなどで引っ張りだこの大人気である。
そして昨年、ついに女性版おもてなし武将隊とでも言うべき「あいち戦国姫隊」がデビューした。武将隊のステージでは歴女たちの黄色い声が響いているが、身も心も姫になり切った彼女たちの集うところには、カメラ小僧ならぬ歴史マニアのカメラおやじが群れをなしている。
AKBに倣った? 「会いに行ける武将」
さて、ここまでは“仕掛け”の話。「おもてなし武将隊」の人気には、もう一つの理由がある。それは「武将一人ひとりの成長物語」に参加できること。ハローワークで集まった若者たちはイケメンではあるけれど、一部を除いて演劇やダンス経験は全くナシ。影の猛特訓を繰り返し、「武将」として少しずつ成長していくのである。
実際、演舞はなんとかなっても、トークは素人丸出しの武将も最初は多かった。そこでファンの一人ひとりが武将たちの成長を見守り、そのステップアップをともに喜ぶ。「私が彼を育てている」という(勝手な)感情が芽生え、ますます好きになる。この構図、何かに似てないか?
そう、まさにAKB(特に初期)のビジネスモデルそのものなのだ。AKBは「会いに行けるアイドル」をキャッチフレーズに小劇場で活動を続けた。ファンは「推しメン」を作り、普通の少女がどんどんキレイになってアイドルとして成長する様を目の当たりにした。
対象物への感情移入の度合いは、距離が近ければ近いほど大きくなるもの。ローカル活動が前提の武将隊は、この図式をうまく利用するための条件にぴたり当てはまる。「会いに行ける武将」なのである。
緊急雇用の話題でもう一つオマケ。またもや名古屋城ネタである。2012年6月から、羽織はかま姿の「門番」が名古屋城に登場してちょっとした話題になっている。実はこの「門番」すら、緊急雇用対策の一つというから愉快だ。
やはりハローワークなどでキャストの一斉募集をかけたらしい。厳しい審査を経て(?)選ばれた30代の男女4人が、今、門番役として名古屋城で大奮闘しているらしい。地元の若年雇用と観光ビジネスとを見事に組み合わせた「武将隊」の成功例、このビジネスモデルの快進撃は、東海エリアを中心にまだまだ続きそうである。