広島大学 大学院総合科学研究科の入戸野宏 准教授らの研究グループは、幼い動物のかわいい写真をみた後は、注意を必要とする作業の成績がよくなることを実験によって確認したと発表した。同成果は、2012年9月27日に発行された科学誌「PLOS ONE」オンライン版で公開された。

今回の研究では、大学生132名を対象として3つの実験が行われた。幼い動物(子犬や子猫)の写真7枚を好きな順番に並び換えるという作業を1分半行わせたところ、「手先の器用さを必要とする課題(実験1)」や「指定された数字を数列から探して数える課題(実験2)」の成績が、写真を見る前と比べて、それぞれ44%、16%向上したという。

幼くない動物(犬と猫)の写真を並び換えた大学生では成績向上は生じず、おいしそうな食べ物の写真を並び換えることも効果はなかった。そこで実験3として、かわいい写真を見ることが注意の範囲に与える効果の検討が行われた。ヒトは通常対象の細部よりも全体に注意を向けるので、全体的な特徴の方がすばやく処理される。しかし、かわいい写真を見た後には細部が注目されるようになり、細部と全体の処理に要する時間に差がなくなることが確認されたという。

"かわいい"という感情には対象に接近して詳しく知ろうとする機能があるために、このような細部に注意を集中するという効果が生じたと考えられると研究グループでは説明している。また、"かわいい"は、キャラクターや商品として生産されるとともに、日本のポップカルチャーを代表するキーワード(kawaii)として世界に拡がりを見せているが、かわいいと何がよいのかについては、これまで学術的な説明がなされてこなかった。今回の結果は、かわいいものを見ると気分が良くなるだけでなく、行動も変わることを示すものであり、この知見が、かわいいものが普及する心理的背景を説明する1つのヒントとなることが期待できるともコメントしている。