富士通研究所は8月31日、場所によって利用できるアプリを自動で制御できる、スマートフォン向けアプリケーション実行基盤技術を開発したと発表した。2012年度中の実用化を目指す。

同研究所が開発したのは、会社、移動中、自宅など、場所によって利用できるスマートフォン上のアプリを自動で制御しようというもの。昨今、従業員個人のスマートデバイスを業務で利用するBYOD(Bring Your Own Device)が注目されているが、ビジネス用途では、セキュリティの懸念から、導入に踏み込めない企業も多い。そこで同研究所は、会社内にいるときには業務アプリのメニュー画面が表示されるが、会社の敷地外に出ると、そのメニューが自動的に消去され、個人用のメニューに切り替わるという技術を開発した。

企業向けスマート端末ソリューション

社内にいるときのメニュー

社外に出たときのメニュー

富士通研究所 ヒューマンセントリックコンピューティング研究所 主管研究員 司波章氏

同研究所が目指すは、ヒューマンセントリックなITの活用だ。富士通研究所 ヒューマンセントリックコンピューティング研究所 主管研究員 司波章氏はヒューマンセントリックコンピューティングを、「さまざまな人の活動に応じて、その時その場所で必要となるサービスが、環境を通じて次々と提供される世界を実現」するものだと説明した。

同氏はICT利用の変化について、「これまでは、ITは生産性の向上やビジネスプロセス変革で使われてきたが、今後は知の創造や行動支援など、ITが寄り添うかたちで人間らしい活動をサポートするようになる。現在のITでは、検索が上手な人とそうでない人で線が引かれて、デジタルデバイドが生まれている」と語った。

富士通研究所が考えるヒューマンセントリックコンピューティング

そして同氏は今後、「スマート端末」、「ソーシャルネット」、「Internet of Things(M2M)」の技術的な発展により、スマート端末のモバイル業務活用が今後いっそう加速し、コンシューマ領域とビジネス領域の融合によりビジネスチャンスが生まれるとした。

富士通研究所が今回開発した、クラウドからスマートフォンを制御して、業務サービス実行に適した実行環境を生成し、安全に実行することを可能にするセキュアアプリ実行基盤には、「コンテキストデスクトップ技術」、「セキュア実行環境技術」、「シームレスプッシュ技術」の3つの技術が利用されている。

コンテキストデスクトップ技術は、状況に応じて画面の切り替えや配信するアプリケーションの管理を行う技術。

たとえば、スマートフォンを所有した人がオフィスにいることを検知すると、そのスマートフォンの画面を業務用画面に切り替え、アプリケーションをクラウドからスマートフォンに配信し、オフィス外に出たときは消去を行う。消去は、端末から完全に削除することも、データは残しながらアクセスできなくすることもできる。

コンテキストデスクトップ技術

発表会では、場所の特定に、Wi-Fi(特定のSSIDが受信できるかどうか)で行ったが、NFCやBluetoothなども利用できるほか、GPSでも可能だという。ただ、開発基盤はレイヤで階層化されているため、場所の特定に何を利用するかは、大きな問題ではなく、時間などを組み合わせることも可能だという。

セキュア実行環境技術は、アプリケーションを安全に実行し、スマートフォンに搭載されたカメラやネットワークなどに対して利用制限を行う機能。

アプリケーションやデータは、あらかじめクラウド上で暗号化されてスマートフォンに配信される。スマートフォンでは暗号化されたアプリケーションやデータを実行メモリ上で復号化して実行する。また、必要に応じてカメラやネットワークなどに対して利用を制限することもできる。

たとえば、メモリカード内に保存されたデータを読み込んでウェブサイトにアップロードする悪意のあるコードがアプリケーション内に埋め込まれていたとしても、あらかじめ設定したWebサイト以外は利用できないようにしておくことで、その動作を防止することが可能だという。なお、アプリはHTML5とJavaスクリプトで作成する。

セキュア実行環境技術

シームレスプッシュ技術は、社内外のどちらのネットワーク環境でもシームレスにスマートフォンへのアプリケーションの配信を可能にする技術。

たとえば、スマートフォンを所有した人が社外にいた場合、まず安全な通信路(VPN:Virtual Private Network)を確保するための要求を、クラウドから一般のネットワークを用いてスマートフォンへ通知。通知を受けたスマートフォンはクラウドとVPN接続することで安全な通信路を確保する。

セキュア実行環境技術

同研究所では、これらの技術により、ユーザーが場所を意識することなくデータが自動的に保護され、状況に応じて安全に業務サービスを配信・実行することが可能になるとした。たとえば、医療現場では、病院内だけにとどまらず、事故現場や救急車の中においても、その状況に応じた病院内サービスを、データを保護しながらスマートフォンに提示することで、医療業務の効率や確実性を向上させることが可能だという。