科学技術振興機構低炭素社会戦略センター(小宮山宏センター長)は25日、政府が公表したエネルギー・環境に関する3つの選択肢について、それぞれ世帯にどのくらいの経済的負担が生じるかを検討した結果を発表した。

6月末に政府が公表した3つの選択肢は、2030年に電力に占める原子力発電の依存度を、0%、15%、20-25%にした場合を挙げ、それぞれ家庭の電気料金負担や国内総生産(GDP)などへの影響を試算している。

低炭素社会戦略センターの検討によると、太陽光発電の導入、天然ガスへの燃料転換、物流の効率化など温暖化対策のみを行った場合は、どの所得階層でも経済負担を余儀なくされるのに対し、省エネ対策を取り入れることで逆に経済的に得するという結果になった。

温暖化対策としては、0.7キロワットの家庭用燃料電池や、住宅のヒートポンプ給湯システムをそれぞれ570万世帯に普及することや、各産業が年当たり1%のエネルギー節約努力を続けることなども含まれている。これら温暖化対策に伴って必要となる再生可能エネルギー買取制度や温暖化対策税などで各家庭に生じる新たな負担は、年間所得500-550万円の世帯で、原子力発電依存度ゼロの場合、年約7.9万円、同15%の場合、年約6.5万円、同20-25%の場合、年5.4-5.9万円となった(いずれも2030年時点で)。

一方、「2015年以降の全ての新築住宅を政府の基準を満たす高気密、高断熱の次世代省エネ住宅とし、2030年までに全住宅の約48%を次世代省エネ住宅とする」「ハイブリッド車や電気自動車、プラグインハイブリッド車など、2030年までに全自家用車の5割を次世代自動車にする」「自動車の燃費基準や電気機器など特定機器の性能を、現在商品化されている製品のうちエネルギー消費効率が最も優れているもの(トップランナー)に改善する」といった省エネ取り組みを取り入れた場合の試算結果も示している。

それによると同じく年間所得500-550万円の世帯に対する経済的影響は、原発依存度ゼロの場合、年約13万円、同15%の場合は、年約14.1万円、同20-25%の場合は年約5.4-5.9万円の得になるという結果になった。

低炭素社会戦略センターは、「日本がどの選択肢を採用した場合でも、低炭素社会と国民生活の豊かさを両立させるためには、家庭における省エネ対策の推進が最も効果が高いといえる」と言っている。

エネルギー・環境に関する3つの選択肢について政府は、国民の声を聞くという目的で意見聴取会を各地で開いている。電力会社社員が意見表明したことに対する批判や、政府が3つの選択肢に絞ったこと自体に対する批判が、原子力発電推進に批判的な側から政府に寄せられる一方、「政府が提示したシナリオでは、省エネ、再生可能エネルギーの導入についてあまりにも楽観的な想定となっている」(米倉弘昌日本経済団体連合会長)といった原子力発電所推進側からの批判も聞かれる。

電力会社10社が会員の電気事業連合会は20日、3つの選択肢に対する疑問を呈する一方で「原子力発電比率で言えば、(原子力発電依存率)20-25%シナリオが必要な水準」とする見解を公表している。

【関連リンク】
ニュース【太陽光・風力の導入可能量、中小水力・地熱より大】
ニュース【世界の風力発電容量2億3,800万キロワットに】