凸版印刷は6月7日、京都大学との共同研究により、紙にタングステンを高密度で充填した放射線を遮蔽する機能を持った「タングステン機能紙」(画像1)を開発することに成功し、6月中旬よりサンプル出荷を開始することを発表した。

画像1。ロールさせて持ち運べる取り扱いの良さが特長のタングステン機能紙

なお、京都大学は今回のに関連した発表を、2012年9月2日~7日に開催される「第12回放射線遮蔽国際会議」にて行う予定だ。

現在、医療分野では放射線が広く活用されているが、その放射線に対する遮蔽は、鉛板の使用が中心だった。鉛板は加工が困難なことや、その鉛廃棄物は環境への影響が懸念されることから、より環境にやさしい代替の製品が求められていた。

一方、医療分野以外では、東日本大震災の復興作業で、現場の作業員が防塵服を着用しているが、現在の防塵服単体では、通常は放射線遮蔽機能がないため、作業時間が短く、作業効率が低下するという課題があった。

タングステンは金属の内で最も融点が高く、X線やγ線などの放射線を遮蔽する機能を持つことを利用し、それを機能紙に高密度に充填したことにより、タングステン自体の特長を維持したまま加工性の向上を実現したのである(画像2)。

画像2。タングステン機能紙は、ハサミできることも可能なほど加工性に優れている

特長は、同機能紙は断裁や折りたたみ、フィルムをはじめとするほかの材料への貼り合わせといった加工が容易という点が1つ。また、鉛フリーであることから、屋内・屋外問わず、人が触れるような用途でも活用可能だ。これらの特長を活かすことで、以下のような応用も可能である。

医療分野としては、以下のような形だ。

  • 射線検査室及び放射線治療室の壁、扉、カーテンなど
  • 放射線の遮蔽が困難な手術室、病室での簡易遮蔽材、
  • 核医学検査室での汚染された床の遮蔽材、医薬品輸送箱などへの応用

被災地・復興作業としては、以下のような用途が考えられている。

  • 放射線環境下での作業員保護や汚染された物質、廃棄物の簡易遮蔽
  • 被災地の体育館など、広域避難場所を新築する際の建装材
  • 既築建造物の壁や扉、天井への貼り合わせ

主な仕様は、形状が幅約500mm、厚さが約0.3mmのロール形状である。遮蔽性能は、画像3のグラフの通りだ。

画像3。タングステン機能紙のX線遮蔽性能表。機能紙3枚で暑さは0.9mm、7枚だと2.1mm

なお、性能評価に関しては、京大 大学院医学研究科の平岡眞寛教授、門前一特定准教授の手によって実施されており、その結果、従来の鉛板と比較して、同等の放射線遮蔽効果を有することが確認されている。

また今後の目標としては、医療業界や建築業界などに向けて製品のサンプル出荷を行い、新たな用途や使用方法などの検討を進めていくという。また、京都大学との協力を継続し、さまざまなニーズにマッチした研究・開発を推し進めていきたいとしている。