物質・材料研究機構(NIMS)、理化学研究所(理研)、国立成育医療研究センターの3者は6月6日に共同で、骨の再生を促進する「複合多孔質足場材料」の開発に成功したと発表した。

成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の生体組織再生材料ユニットの陳国平 ユニット長、理研 基幹研究所 伊藤ナノ医工学研究室の伊藤嘉浩 主任研究員、国立成育医療研究センターの生殖・細胞医療研究部 梅澤明弘 部長の共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、学術誌「Biomaterials」オンライン電子版に近く公開される予定だ。

けがや病気などによって骨に大きな欠損ができた場合、生体が本来持っている再生・修復能力には限界があるが、細胞が増殖するための土台である「足場」材料があると再生・修復が促進されることが知られている。そのため、足場材料を用いた骨の修復に関する研究開発が注目を集めているのが近年の動向だ。

足場材料の原料として用いられる高分子には、「コラーゲン」などの天然高分子や「ポリ乳酸」、「ポリグリコール酸」、及びそれらの「共重合体(PLGA)」などの生体吸収性合成高分子が用いられている。

無数のこれらが互いにつながり、小さい孔を持つスポンジ(多孔質)状になっていると、細胞の分布が均一になり、再生能力が大きく向上することが確認済みだ。ただし、コラーゲンはすぐれた細胞親和性を持つが、スポンジ状に加工したものは力学強度が低く、容易に変形してしまうという問題があった。

一方、乳酸とグリコール酸の共重合体のような合成高分子は、コラーゲンスポンジよりも高い力学強度を持った多孔質材料を得られる上、体内で吸収される性質も併せ持つため、再生材料として用いられている。しかし、細胞との親和性を見た場合、コラーゲンよりも低い。

そこで、天然高分子、生体吸収性合成高分子の欠点を互いに補い合い、長所を活かし合うために、研究グループは両者を複合化した多孔質足場材料を開発してきた。

また、足場材料のみでは骨欠損の再生を刺激する能力に限界があるため、骨形成の誘導能力を高める因子を導入することで、さらに高い再生を実現できる足場材料の開発に取り組んできたのである。

今回の研究では、理化学研究所および国立成育医療研究センターと共同で、細胞との親和性にすぐれたコラーゲンスポンジ、高い力学強度を持つ生体吸収性合成高分子PLGAメッシュに加え、あらたに骨への分化を誘導するタンパク質「BMP4」の3者を複合化した多孔質足場材料を世界に先駆けて開発することに成功した。

生体内には「細胞外マトリックス」(細胞の支持体)と結合して生理活性を制御し組織再生を誘導するタンパク質群が存在するが、今回開発された材料はナノ構造を有する生体内のこうした微小環境を模倣したものである。

開発にあたっては、コラーゲンスポンジとPLGAメッシュを複合化させた後、生理活性をできるだけ保持できるように工夫した方法でBMP4をさらに複合化。そして開発された複合多孔質足場材料を用いて「間葉系幹細胞」を培養し、細胞の接着や増殖についての調査が行われた。さらに、マウスへの移植実験を行い、骨分化の誘導効果も調べられたのである。

なお骨形成因子BMP4は、できるだけ生理活性が保たれるような方法で、足場材料と複合化された。一般的には、化学反応を利用した固定化方法が用いられるが、BMP4のようなタンパク質分子では固定化によって分子構造の変化を引き起こし、生理活性が失われてしまう場合がある。

そこで今回、BMP4を複合足場材料のコラーゲンマイクロスポンジに結合させるため、「コラーゲン結合ドメイン(CBD)」を融合させた人工タンパク質「CBD-BMP4」が設計された。BMP4とCBDの遺伝子どうしを遺伝子工学の方法でつなぎ合わせ、トランスジェニック・カイコ(遺伝情報を組み換えたカイコ)を用いて融合させた人工タンパク質CBD-BMP4の合成に成功したというわけだ。

一方、細胞の足場となる複合多孔質材料は、PLGAメッシュの数100μmの網目に、コラーゲンのマイクロスポンジを形成させることによって作製された。

次に、このコラーゲン/PLGA複合多孔質足場材料をCBD-BMP4の水溶液に浸漬(しんせき)することによって、CBDを介してBMP4をコラーゲンと結合させた。このようにして、コラーゲン、PLGA、CBD-BMP4の三者を複合化した多孔質足場材料が得られたのである(画像1)。

画像1。コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料のイメージ

このコラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料を走査電子顕微鏡で観察したところ、PLGAメッシュの空隙にコラーゲンマイクロスポンジがクモの巣状に形成されていることが明らかになった。

次に、今回開発されたコラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料が間葉系幹細胞の接着、増殖、骨分化を促進する効果について調べられた。同材料に間葉系幹細胞を播種し、骨分化を誘導する成分を含む培地を入れた培養プレートで培養。細胞は1時間後には足場材料に接着、均一に分布し、1日後には足場材料の空隙が細胞及び細胞外マトリックスで埋めつくされた(画像2)。

よって、コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料は、間葉系幹細胞の接着及び増殖を促進することが示されたのである。

画像2。コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料の電子顕微鏡写真(左)。中央は、分化誘導培養を開始して1時間後。右は24時間後

続いて、前述のサンプルを胸腺欠損ヌードマウスの背中皮下への移植を実施。移植4週間後にマウスの体内からサンプルを取り出し、骨分化の指標となる「アルカリホスファターゼ」の活性、カルシウムの沈着、骨分化マーカー遺伝子の発現レベルを調べ、これらの結果に基づいて骨分化の誘導効果が評価された。

まず、アルカリホスファターゼ活性測定の結果、今回の複合多孔質足場材料を用いて培養した間葉系幹細胞は高い酵素活性を示すことが判明。また、「コッサ染色法」によりカルシウムの沈着が確認された。さらに、骨分化マーカー遺伝子は骨分化に特徴的な発現パターンを示していたのである。

以上の結果から、コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料は、間葉系幹細胞の接着と増殖、細胞外マトリックス産生を促進すること、そして骨への分化を強力に誘導することが示された次第だ。

コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料は、骨再生の足場材料における新しい材料コンセプトを提供すると共に、今後、骨の再生医療に応用されることが期待されると研究グループはコメント。

また、今回開発された方法を応用することにより、骨以外にも軟骨や皮膚などさまざまな組織の再生を促進する多孔質足場材料の開発が可能と考えられるとも述べている。