東京大学(東大)などで構成される研究グループは6月1日、肝臓の再生においては、肝臓を構成する肝細胞が大きくなることが重要であること、および肝細胞が特殊な細胞分裂を行うことを明らかにした。同成果は東京大学分子細胞生物学研究所の宮岡佑一郎 助教(当時)、同 江波戸一希 博士課程2年、同 加藤英徳 博士課程2年、同 宮島篤 教授、ならびに東京医科歯科大学難治疾患研究所の荒川聡子 助教、同 清水重臣 教授らによるもので、「Current Biology」オンライン版に掲載された。

肝臓は哺乳類においては例外的に高い再生能力を持つ臓器で、マウスでは肝臓の70%を切除しても一週間程度で元の重量と機能を回復する。これまでの研究では、肝重量の大部分を占める肝細胞が分裂してその数を増やすことで肝再生が行われると考えられてきたが、実際にそれを直接的に検証した研究報告はなかった。

研究グループでは、マウスのごく一部の肝細胞に目印となるタンパク質を作成。この細胞が分裂すると、目印となるタンパク質を作る細胞が2つになり、この2つの細胞が隣り合って存在することになるため、この目印を頼りに肝細胞が肝再生において何回分裂するかを測定した。この結果、肝再生では肝細胞が平均して約0.7回分裂することが判明したが、これは失われた70%の肝重量を再生するために必要な細胞分裂の回数が平均約1.6回であるというこれまでの予想を下回るものであった。

そこで、肝細胞の分裂による数の増加に加えて肥大が重要であると考え、肝臓の切片上で肝細胞の核と輪郭を可視化し、その画像をもとにコンピュータによる肝細胞の大きさの測定を行った結果、肝細胞が肝再生において約1.5倍に肥大することを見出した。これは、肝臓の70%を切除した後の肝臓の再生においては、分裂による細胞数の増加(約1.6倍)と細胞の肥大(約1.5倍)がほぼ同程度に貢献していることを意味する結果であるという。

また、切除する肝重量を70%から30%に減らした場案、肝細胞は分裂せず、肥大のみによって肝臓が再生することも判明。この結果により、肝臓はまず肝細胞の肥大によって再生し、肥大だけでは不十分である場合にのみ分裂してその数を増やすということが示唆されたことから、肝再生では肥大が重要であるということが確認されたとしている。

さらに、肝細胞の20~30%程度は2つの核を持つことなどの特殊な性質にも着目し、肝細胞の細胞周期の観察を詳細に行った。その結果、肝再生において肝細胞の大部分はS期に入るにもかかわらず、M期には入りにくく、結果として肝細胞の倍数性が増加することや、再生後の肝臓では2つの核を持つ肝細胞の割合が通常の肝臓よりも減少すること、および2つの核を持つ肝細胞の細胞分裂においては、2つの核から凝集した染色体が細胞の中央に集まり、それらが細胞の両極に分配されることによって1つの核を持つ娘肝細胞が2つ生み出されることを明らかにした。

肝細胞の核(青色)と輪郭(緑色)を可視化したもの。肝再生後の肝細胞(右)は、平常時の肝細胞(左)に比較して大きくなっていることが確認された

肝臓だけがなぜこのように強い再生能力を持つのかそのものについては未だに謎だが、研究グループでは今回の肝細胞の肥大の重要性が、その謎を解き明かす鍵となるのではないかとしており、今後はこの肥大も含めた肝臓の特殊な性質を司る分子メカニズムを追究していくことで、肝臓の再生能力の謎に迫れることが期待されるという。また、現在重篤な肝疾患に対する最終的な治療法に生体肝移植があるが、レシピエント(移植を受ける患者)のみならずドナー(移植の提供者)にも危険が伴うことから、今回の肝再生の実験モデルから肝再生を司るメカニズムをより深く知ることで、将来的にはより安全で効率的な肝移植の開発に繋がることが期待されるとコメントしている。