東北大学は、新たに開発した「パレイドリアテスト」を用いて、「レビー小体型認知症」患者における「パレイドリア」という錯視・幻視を短時間に誘発することに成功したと発表した。

成果は、東北大 大学院医学系研究科 高次機能障害学分野の森悦朗教授、西尾慶之講師、内山信大学院生らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、英科学誌「Brain」電子版に掲載された。

パレイドリアとは、壁のしみや雲の形がヒトの顔や動物の姿に見える現象を指し、古くから「幻視」との関連性が指摘されてきたものだ。また幻視はレビー小体型認知症の中核症状の1つ。レビー小体型認知症は、アルツハイマー病に次いで多いとされる認知症を来す認知症性疾患だ。幻視、パーキンソン症状、認知機能の変動を中核的症状とする。

なお、レビー小体型認知症といっても常に幻視が観察されるわけではないため、短い診察時間では見過ごされてしまうことが問題となっていた。研究グループは、これまでもレビー小体型認知症や類縁疾患のパーキンソン病における視知覚障害について研究テーマとして取り組んできており、今回短時間での幻視観察する方法を考案した次第だ。

今回の研究で開発された「パレイドリアテスト」という検査方法では、レビー小体型認知症患者から直接幻視と類似した症状のパレイドリアを誘発することに成功。

試験の結果、34名のレビー小体型認知症患者の全員においてパレイドリアを誘発したのである。それに対し、アルツハイマー病患者では34名中4名に認められるのみだった。「パレイドリアテスト」を用いることで、高い精度でレビー小体型認知症とアルツハイマー病の鑑別が可能となった形だ。

パレイドリアテストの内容は、画像1や2のような画像を患者に見せ、そこに何が見えるかを説明してもらうという、負担のあまりかからないシンプルな検査方法だ。レビー小体型認知症の患者の場合は、花の写真の中に「動物の顔」や「ヒトの顔」、ネクタイの写真に「ほっかむりをした女性の姿」などを見出す。

今回の研究で認められたパレイドリアの80%以上は、ヒトやそのほかの動物の顔や姿に関するものだった。これはレビー小体型認知症の幻視の大部分がヒトや動物に関するものであることとよく一致している。

またパレイドリアテストは従来の神経心理検査や面接法では「幻視なし」とされていたレビー小体型認知症患者からもパレイドリアを誘発することができた。このことからパレイドリアテストは、幻視が出現する一歩手前の状態、もしくは幻視の発現に関わる病態を検出していると考えられるという。

パレイドリアテストによって、認知症患者から直接的に幻視と類似する症状を誘発でき、鑑別診断や早期診断・早期治療の実現、治療効果の正確な評価、幻視の病態の解明などが期待されると、研究グループはコメントしている。

パレイドリアテストとパレイドリアの例。レビー小体型認知症患者の場合、画像1(左)の風景画像の白丸内の花が、ヒトや動物の顔に見えることがある。また、画像2のネクタイの画像は頬被りした女性などに見える