氷点下の寒冷環境にすむ生物は、自分の体や細胞が凍らないようにする特殊なタンパク質(不凍タンパク質)を作っている。産業技術総合研究所の生物プロセス研究部門の津田栄主任研究員や合成生物工学研究グループの近藤英昌主任研究員らは、北海道大学や理化学研究所、カナダのクイーンズ大学と協力して、寒冷地に生息するキノコが生産する不凍タンパク質の立体構造を明らかにし、同タンパク質が氷の結晶に吸着して成長を阻害するメカニズムを解明した。
このキノコは80年ほど前に、北海道の石狩平野で発見された「イシカリガマノホタケ」。積雪下の牧草類や小麦などの植物の上で生育する代表的な好冷性生物だという。研究チームは、このキノコが生産する不凍タンパク質(Tis不凍タンパク質)の単結晶を作成し、大型放射光施設SPring-8を用いたX線結晶構造解析法によって立体構造を決定した。
その結果、Tis不凍タンパク質は、これまで知られている魚類や野菜などの不凍タンパク質とは異なり、6段の「らせん階段」のような独特の分子骨格をもっている。下の段になるほど膨らんでいるので、全体は洋ナシのような形をしている。
さらにTis不凍タンパク質の表面の一部は平面になっており、複数の溝(みぞ)ができている。その溝の中にいくつもの水分子が不規則に並んで埋もれていて、この平面部分が氷の表面に接することで、溝の水分子がそのまま氷の一部となり、Tis不凍タンパク質と氷が強く結びつくことなどが分かった。
不凍タンパク質は、0℃以下となる環境温度の低下によって細胞内にできはじめた氷の粒子の表面に強く吸着して、氷が大きく成長するのを抑制し、細胞が凍るのを防いでいる。Tis不凍タンパク質は、六角柱をした氷の結晶の側面だけでなく上下面にも吸着するので、氷の結晶の成長を強力に抑制し、魚類の不凍タンパク質の約5倍の不凍能力をもつという。
イシカリガマノホタケは大量培養が可能なので、これまでの不凍タンパク質よりも安価にTis不凍タンパク質を生産することが出来る。今回の研究成果により、食品や細胞を安定的に冷凍保存する技術の進展が期待されるという。
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