東北大学は4月18日、ワイヤレスでの駆動が可能でしかも小型なので体内に完全に埋め込むことができ、なおかつ人間の心臓と同程度のポンプ能力を持つ補助人工心臓用ポンプを開発したと発表した(画像1・2)。成果は、東北大電気通信研究所石山和志教授らの3つの研究グループの協力によるものだ。

画像1(左)はポンプ全体で、画像2は内部構造写真

補助人工心臓には皮膚を貫通するチューブやケーブルが必須であり、それらを不要とするワイヤレス動作のポンプの登場が待たれているが、残念ながら、今のところ臨床応用例は存在しない。

それに対して今回の研究開発では、磁気の力を利用して完全にワイヤレスで動作するポンプを実現し、皮膚を貫通するもののない、完全埋め込み型の補助人工心臓用ポンプを実現した形だ。

このポンプは単二型乾電池程度と小型でありながら、120mmHg以上の圧力において毎分5リットル以上の流量を実現している(画像3・4)。このスペックは補助人工心臓のスペックを十分に満たすものだ。

画像3(左)はポンプ動作実験の様子。台に乗せたポンプに外部装置を近づけるだけで動作し、水を吹き出している。外部装置は駆動用バッテリで動作している。画像4は、ポンプ本体と外部装置と駆動用バッテリ

動物実験の様子。画像5(左)はワイヤレスポンプで血液循環させる実験。画像6は皮膚の外から体内のポンプを駆動する実験

第1のグループである石山教授のグループは、磁気を利用したワイヤレスでの駆動システムを開発した。電気通信研究所はこれまでにもカプセル内視鏡を体内で移動させるシステムなど「ワイヤレスで動かす技術」の開発を行ってきている。このポンプもそんな技術を基盤として開発されたものだ。

第2のグループであるアイ・アンド・ピーは、高度な射出成型技術を基盤として、複雑な形状でかつ強力な磁石の開発を担当した。この技術により、磁石材料でポンプインペラ部を作成することに成功したのである。

第3のグループである東北大加齢医学研究所山家教授のグループは、補助人工心臓への適用の可能性を検討した。山家教授は、人工心臓を初めとする人工臓器の開発研究に多くの業績を上げている。今回の開発では、動物実験を通じてこのポンプの有用性と安全性に関する検討を進めている状況だ。

心臓に疾患を持つ患者は、自然心臓の治癒までの間、あるいは心臓移植までの間、補助人工心臓の助けを借りなければならない。そのような患者の生活の障害となるのが皮膚を貫通するチューブやケーブルだ。今回の研究のポンプが臨床応用されれば、世界初の完全埋め込み型ポンプが実現する。また、小型バッテリーでも駆動できることから可搬性も良好だ。研究グループは今後、このポンプの安全性を中心にさらなる研究開発を行い、完全埋め込み型補助人工心臓を実現していくとしている。