基礎生物学研究所(基礎生物研)は3月6日、葉が作られる初期の過程において、表と裏の間の中間領域で働く2つの遺伝子「PRS」と「WOX1」を見出し、両遺伝子が葉の横方向への成長を引き起こしていることを明らかにした。成果は、基礎生物学研の岡田清孝所長と中田未友希研究員らを中心とする研究グループによるもので、詳細な研究内容は米科学専門誌「The Plant Cell」オンライン版に2月29日に掲載された。

葉は光を受けてCO2を吸収し、栄養分を作り出す光合成を効率よく行うための重要な要素だ。葉は、多くの植物で平たい形をしている。表側と裏側に違いがあるが、これらは多くの光を集めて効率のよい光合成を行うための大事な特徴である。

葉の元となる原基は、もともとは丸い形をしているが、成長過程で表裏方向へはあまり細胞が増えず、横方向に増えることで伸長し、葉の平たい形ができあがる仕組みだ。

近年のシロイヌナズナなどのモデル植物を用いた分子遺伝学的な研究から、表側と裏側それぞれの性質を決める一連の遺伝子群が、表裏の違いを生み出すだけでなく、横方向への成長にも関わることがわかってきた。しかしながら、横方向への成長を引き起こす詳しい仕組みは未解明だったのである。

今回、研究グループは花の形を決める遺伝子として知られていた遺伝子であるPRSの、葉における役割に着目した。そしてPRSと、PRSによく似たWOX1(両遺伝子は、共に「WUSCHEL-RELATED HOMEOBOX」と呼ばれる遺伝子ファミリーに属し、構造的にも機能的にもよく似た転写因子をコードしている)の両方を壊して機能を失わせると、葉の横方向への成長が阻害され、葉が細くなることを発見した(画像1・2)。

PRSとWOX1の両遺伝子の機能が失われたシロイヌナズナ(画像1・左)では、正常な株(画像2)に比べて葉の横方向への成長が抑制され、葉が細くなる

詳しく調べると、両遺伝子は将来的に葉の表になる領域と裏になる領域に挟まれた中間領域で働いていることがわかった(画像3)。また、WOX1遺伝子を、葉の裏側で強制的に働かせると、本来成長が起こらない場所であるにもかかわらず成長が引き起こされることが確認されたのである(画像4)。

画像3。葉が形成されるごく初期の段階(左図)で、将来の葉の表側になる領域(黄色)と葉の裏側になる領域(青)の間の中間領域(ピンク)において、PRSとWOX1が働き、葉の横方向への成長を促していること(矢印)、その結果、葉が平たい形に成長すること(右図)が明らかになった

画像4。WOX1遺伝子を葉の裏側で強制的に働かせると、矢印で示した部分で異所的な成長が起こり、突起状の構造が形成された

これらの実験結果から、両遺伝子が表側と裏側の中間領域で働くことにより、葉の横方向への成長を引き起こしているという仕組みが明らかになった。また、葉の形成の初期段階において、両遺伝子が働いている表側でも裏側でもない領域は、表側とも裏側とも区別される中間領域は、新たな領域と定義できることも判明したのである。

今回の成果により、シロイヌナズナにおいて葉が平たい形に成長するメカニズムが明らかとなった。このメカニズムは、ほかの植物の葉においても同じように働いていると考えられ、地球上に存在するさまざまな形の葉の成り立ちを理解する基盤となることが期待されるという。

また、園芸植物や作物などの品種改良を行う上でも、今回得られた知見は役立つと考えられると、研究グループはコメントしている。