海洋研究開発機構(JAMSTEC)とハワイ大学海洋地球科学技術研究科は、オントンジャワ海台における地球史上最大の火山活動の原因を解明したと共同で発表した。JAMSTEC地球内部ダイナミクス領域の鈴木勝彦主任研究員、マリア・テハダ研究員らの研究グループが、ハワイ大学とフィリピン大学と共同で研究を行った成果で、論文はオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

オントンジャワ海台は、前期白亜紀の約1億2000万年前に起きた、地球史上最大といわれる火山活動によって形成された玄武岩溶岩で作られた巨大火山だ。南太平洋の海底の広大な面積をカバーしており、その面積は地球の約1%に相当する(画像1)。日本の国土面積と比較すると、実に約14倍もの広さを持つ。そして、その溶岩の体積は2000万km3に及び、これは富士山の溶岩の5万倍に当たるというスケールの大きさだ。

画像1。オントンジャワ海台の火山活動が起きた1億2000万年前と現在の世界地図

そして、オントンジャワ海台の大規模な火山活動によって大気中に大量に噴出された二酸化炭素などの温室効果ガスは、地球の温暖化を引き起こしたと考えられている。そして、この激しい温暖化によって極域の氷床が溶けてしまい、冷たい海水が海底に流れ込むことによって起きる海洋大循環を止めてしまったという。

その結果、酸素に富んだ海水は海底に届くことがなくなり、海底の酸素が欠乏する状況を作り出し、生物の大絶滅を招いたとされる(例えば、海に住む放散虫の約40%が絶滅したといわれている)。これは、「海洋無酸素事変」と呼ばれる、白亜紀末の恐竜絶滅に匹敵する地球環境変動イベントだ。

オントンジャワ海台の火山活動が起きたメカニズムについては、海底掘削によって得られた火山岩の化学組成、同位体組成を分析する、あるいは、オントンジャワ海台の地球物理学的調査によって構造を調べるなどの取り組みが、これまでなされてきた。

その結果、マントル下部からの熱いマントルの大きな上昇流によって、上昇したマントルおよび暖められたマントルが大規模に溶けてマグマを形成し、それが地表に吹き出したという説と、巨大な隕石が落下した結果、そのエネルギーによって火山活動が引き起こされたという説などが提案され、研究者の間でも長い間見解がまとまらない状況が続いていたのである。

このオントンジャワ海台の火山活動について、合理的な解明がなされることは、地球を揺るがすような大規模な火成活動に対して、地球環境がどのように応答するのかといった疑問の解明を促し、現世の地球の生態系を含めた環境変動への対応方策を科学的に構築する上で重要な課題だ。

研究グループでは、中央イタリアの「ゴルゴアセルバラ(Gorgo a Cerbara)」で採取した約1億2000万年前の堆積岩を分析。この堆積岩は、白亜紀に太平洋に接して拡がっていたテチス海西部の深海で堆積したもので(画像1)、当時の環境を記録していると考えられている。

すでに研究グループの今までの研究により、海洋無酸素事変の始まる直前に、オントンジャワ海台が形成された際に、溶岩と一緒に海洋にはき出され、海洋循環に乗ってテチス海に拡がった白金族元素が、この堆積岩の中に記録として残っていることを確認済みだ。

そこで、この堆積岩の白金族元素「オスミウム」の濃度と同位体比を測定し、白金族元素の割合の年代変化を調べ、オントンジャワ海台の活動の直前、あるいは活動中に海で堆積した堆積物が、隕石の白金族元素の割合を示すのかどうか、それとも、マントルが溶けた時の白金族元素の割合を示すのかの調査が行われた(画像2)。

画像2のグラフの見方は、下が古く、上に行くほど新しくなっている。火山活動が盛んになると、火山から放出された低い同位体比を持つオスミウムによって、堆積岩中のオスミウム同位体比は下がる。研究グループのこれまでの研究により、(1)オントンジャワ海台は、この時代に2度にわたる大きな活動をしている。(2)1度目の火山活動によって堆積岩のオスミウム同位体比が下がり、この活動によって大気に放出された二酸化炭素などの温室効果ガスによって急速な温暖化が進み、それによって海洋無酸素事変が起きた。(3)オントンジャワ海台の2度目の火山活動(1度目より規模が大きい)が続いている間、海洋無酸素事変も続いていたことがわかっている。以上の結果は、オントンジャワ海台の火山活動と海洋無酸素事変とに密接な関係があることを示している。

画像2。今回分析した堆積岩中のオスミウム(白金族元素の1つ)の同位体比の時間変化

隕石に含まれる白金族元素の割合と、地球上の岩石に含まれる白金族元素の割合は大きく異なる。また、白金族元素の濃度が高い隕石が落下すれば、衝突後に巻き上げられた隕石物質によって、地表には高濃度の白金族元素が降り注ぐ。降り注いだ白金族元素は海底に堆積し、隕石の白金族元素が堆積物に記録されるというわけだ。

今回の研究では、この白金族元素の特徴に着目し、ゴルゴアセルバラで変質が少ない状態で残されているオントンジャワ海台活動期の海底堆積物の白金族元素と同位体の分析を行った。もし、白亜紀末のように巨大隕石が落下し、それがオントンジャワ海台の火成活動のきっかけとなったのであれば、オントンジャワ海台活動前の堆積物に隕石の白金族元素が観察されるはずという考えだ。

採取された堆積物中の白金族元素の割合は、オントンジャワ海台の活動前から活動中にわたって、隕石の割合とはまったく異なり、マントルが溶けることによって形成される白金族元素の割合を示すことが判明した(画像3)。これは、地球史上最大のオントンジャワ海台火山活動が、隕石の落下ではなく、地球の内部活動によって生じたものであることを科学的に示すものであり、隕石落下が環境変動の主因となり恐竜が絶滅した白亜紀末のイベントとは対照的な結果となったというわけだ(画像3)。

それと同時に、海洋無酸素事変は、隕石とは無関係に、オントンジャワ海台の大規模な火山活動による環境変動によって起きたイベントであることも明らかになったのである。

画像3のグラフの黒四角は隕石落下の際に堆積した堆積岩のデータだ。これらのサンプルでは、イリジウムとパラジウムの図上で、隕石の領域に位置し、隕石衝突によって飛び散った白金族元素が堆積岩の中に含まれていることがわかる。一方、今回研究対象とした堆積岩(赤のひし形)はすべて火山岩の領域に位置し、隕石の領域には一切入っていない。この結果から、オントンジャワ海台の火山活動は、隕石衝突によって引き起こされたのではなく、地球内部のマントル活動の大きな変化によって、引き起こされたことが明らかとなった。

画像3。今回得られたゴルゴアセルバラの堆積岩のイリジウムとパラジウム(どちらも白金族元素)の濃度のデータ

今回の研究成果は、大気中の二酸化炭素の増加による温暖化のメカニズムを理解し、その環境変化に地球自身がどのように応答してきたかを知り、現在起きている温暖化を含めた環境変動について、合理的・効果的な対応方策の構築に寄与するものと考えられると、研究グループではコメント。今後さらに、一連の出来事の関連を明らかにし、環境大変動を起こすイベントに対する理解をさらに深めていくことが求められるとも述べている。