国立天文台は2月6日、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」を用いた観測によって、我々の天の川銀河(銀河系)周辺に存在する4つの暗い矮小銀河たちが、120億歳以上という古い年齢の星のみで構成されていることを明らかにした。研究は北京大学との共同研究チームによるもので、成果は「The Astrophysical Journal」の1月10日号に掲載された。

銀河系などの大型銀河は、過去に小さな銀河たちが衝突や合体を繰り返すことで形成され、成長してきたと考えられている。現在の銀河系の周囲には、その時代を生き残ったいくつもの矮小銀河が軌道運動しており、銀河系形成をひもとくカギをにぎる天体として重要視されている具合だ(画像1)。

「こぐま座矮小銀河(UMi)」や「ろ座矮小銀河(Fornax)」などの9つは、昔からよく知られていた比較的明るい矮小銀河だが、2005年以降、「スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)」によって新たに10以上の矮小銀河が銀河系の周りに発見された。これらの銀河は大型望遠鏡で撮影した画像を見てもわからないほど星の密度が低く(画像2)、等級(明るさ)と色を比べた「色-等級図」上の星の分布を詳しく解析することではじめて見つかったほどだ。

なお色-等級図とは、星は進化段階や含まれる金属元素(ヘリウムより重い元素)の量などに応じて明るさや表面温度が異なることを利用した、星の集団の年齢や金属元素の量を決めるグラフのこと。通常の可視光による観測なら、星の明るさを縦軸に、表面温度を横軸に取った「ヘルツシュプルング・ラッセル図」(HR図)と呼ばれるグラフが使われるが、実際の観測では2つの観測波長(今回の観測では中心波長550nmの「Vバンド」と810nmの「Icバンド」)間の等級差が温度に相当するので、HR図に代わって色-等級図が用いられる。色-等級図上での星の分布を、恒星進化の理論的な予測と比較することで、銀河や球状星団など星の集団について、平均の年齢や金属元素の量などの性質を見積もることができるというわけだ。

画像1。銀河系周辺の鳥瞰図。銀河系の円盤の面を水平面に取り、従来知られていた矮小銀河を赤と青で、新発見の暗い矮小銀河を緑で示し、またマークの大きさで各銀河の絶対等級(元々の明るさ)を表した。暗い矮小銀河はSDSSの観測が行われた範囲内でしか見つかっていないが、SDSSの観測が及んでいない方角にも数多くの暗い矮小銀河が存在していると予想されている

画像2。Suprime-Camで撮像した「うしかい座I」矮小銀河の疑似カラー画像。VおよびIcバンドで得られたデータを青と赤に、VとIcバンドから擬似的に作ったデータを緑に割り当てている。この画像全体にうしかい座I矮小銀河は広がっているが、星がとてもまばらなため、手前の銀河系の星や背景の遠くの銀河に紛れてしまい、銀河としての構造が見えていない

矮小銀河の新たな発見によって、銀河系の周りに無数の暗い矮小銀河が存在する可能性が示唆されることとなった。しかし、既存の観測データでは、個々の銀河がいつ、どのような環境のもとで生まれ、その後銀河系の成長とともにどのような進化を遂げてきたのかなどを見極めるには不十分である。というのも、矮小銀河の年齢の決め手となる星々は大変暗く、大型望遠鏡による高感度の観測が不可欠になるためだ。そのうえ暗い矮小銀河の中には、大きく広がった星の分布を持つものもあり、それらの空間構造を明らかにするには、より広い領域を網羅する観測が必要だった。

研究チームは銀河系周辺に新しく見つかった4つの暗い矮小銀河、「りょうけん座I」矮小銀河(画像1・中CVnI)、「りょうけん座II」矮小銀河(同CVnII)、「しし座IV」矮小銀河(同LeoIV)、「うしかい座I」矮小銀河(同BooI)についてすばる望遠鏡のSuprime-Camで観測。それぞれの銀河に含まれる星の色-等級図(画像3)を調べた。

画像3。うしかい座I矮小銀河の星の色-等級図(左)と空間分布(右)。色-等級図では、うしかい座I矮小銀河に属する星たちが、水色の線で示した最も古い年齢の等時曲線と同様の分布をしている。色-等級図から選んだうしかい座I矮小銀河の星の空間分布(右)を調べると、画像2の画像では見えなかった銀河の構造をはっきりと見ることができる

そして色-等級図上の星の分布と、恒星進化理論に基づく「等時曲線」(画像3・左図の曲線)や古い球状星団における星の分布との比較から、暗い矮小銀河の星は最も古い球状星団と同じほど古く、また古い星しか存在しないことを明らかにしたというわけである。なお等時曲線とは、同じ時期に同じ元素組成のガスから生まれた星々の集団は、恒星進化の理論的な予測では、色-等級図上で一本の曲線上に分布し、その曲線のことをいう。

例外として、暗い矮小銀河の中でも比較的明るいりょうけん座I矮小銀河には古い星に加えて年齢のわずかに若い星が存在し、さらにその若い星は中心部に集中している様子も認められた。つまり、最も暗い矮小銀河には最も古い星しか存在せず、それよりほんの少し明るい矮小銀河には、古い星のほかにそれらより少し後に生まれた星が中心部に集中して存在したというわけだ。

この結果は、宇宙初期に質量の小さな銀河では星形成が起こってもすぐにガスが失われて星を作り続けられなかったことと、それより少し重い銀河ではもう少しだけ長く星形成活動が続いていたことを示している。

また銀河の星の空間分布を調べたところ、広がりがとても小さなものから明るい矮小銀河と同じ大きさのものまであり、ゆがんで引き延ばされたような形状も多く見られた。これは私たちの住む銀河系の潮汐力の影響を強く受けているためと考えられている。

今後、暗い矮小銀河を含むさまざまな明るさの矮小銀河と銀河系の星々の性質をより詳しく比較し、また理論モデルと比較することで、矮小銀河だけでなく銀河系の形成、進化の過程に迫ることができると、研究グループはコメントしている。

大型望遠鏡を使えば、銀河系の近くにある銀河を1つひとつの星に分解して見ることが可能だ。しかし地球からの距離が近い分、銀河は天球上に大きく広がって見えるという問題もある。例えば、今回観測したりょうけん座I矮小銀河は、肉眼ではとても見えないが、満月9つ分よりも大きく空に広がっているので、銀河全体を調べるには広い視野を見渡すことができるカメラが必要だ。

さらに暗い矮小銀河は星が少ないので、詳しく調べるためには非常に暗い星まで捉える高い集光力が欠かせなくなる。今回の観測では、広い視野を誇るすばる望遠鏡のSuprime-Camが、暗い矮小銀河の性質を明らかにするうえで、威力を発揮した形だ。

間もなく完成する次世代広視野カメラ「Hyper Suprime-Cam」では、さらに広い範囲を1度に撮影することができる。そのため研究グループでは、今回研究された暗い矮小銀河たちよりさらに暗い銀河や矮小銀河が、銀河系の潮汐力で崩れていく過程で作られる構造「恒星ストリーム」が発見されることも期待されているとした。なお下の動画は、北京大学で研究を主導してきたKavli 天文・天体物理学研究所の岡本桜子氏による解説だ。