海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、宮城県および福島県東方沖の日本海溝東側(太平洋プレート側)において、震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を調査した結果、この海域の太平洋プレート内部の深さ40km付近の応力場が、東北地方太平洋沖地震後に圧縮場から伸張場に変化しており、「正断層地震活動」の活発化と関連していることが判明したと発表した。今回の海底地震観測は、東北地方太平洋沖地震後に太平洋プレート内部の地震活動が活発化していることから、2011年4月下旬から7月上旬にかけて自己浮上型海底地震計を用いて行われた。

調査・研究はJAMSTEC地球内部ダイナミクス領域の尾鼻主任研究員らよるもので、成果は米国地球物理学連合発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に1月31日付けで掲載された。

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)では、地震の発生に伴って震源域周辺の広い範囲で地震活動が活発化している。海溝東側の太平洋プレート内部でも、本震の約40分後にM7.5の地震が発生したのをはじめ、正断層型のメカニズムを持つ地震が数多く発生している状況だ(画像1)。

なお正断層型とは、断層を引き離すような力が働くことで、下側の断層が隆起して、上側の断層が沈降する場合を指す。「逆断層型」はその逆で、断層を押し込む力が働くことで、上側の断層が隆起し、下側の断層が沈降する形だ。また断層が横方向にずれる場合もあり、それは「横ずれ断層」と呼ばれる。

画像1。海底地震計の設置位置(逆三角)。星印は東北地方太平洋沖地震の本震(M9.0)と海溝東側で発生した正断層地震(M7.5)の震央を示す。破線で囲まれた範囲は、それぞれの地震におけるおおよその震源域を示す

日本海溝東側(海溝海側斜面)の太平洋プレート内部で発生する地震は震源が比較的浅いため、大規模な地震が発生した場合に大きな津波を伴うことが懸念されている。例えば三陸沖で1933年に発生し、大きな津波被害をもたらしたM8.1のプレート内正断層地震である「昭和三陸地震」は、津波地震として知られる1896年M8.2の「明治三陸地震」の震源域東側の太平洋プレート内部で発生しているという具合だ。

東北地方太平洋沖地震の発生後に太平洋プレート内部で活発化した地震活動を評価するためには、太平洋プレート内部の地震活動を正確に把握することが欠かせないのである。

東北地方太平洋沖地震の震源域東側に位置する、日本海溝東側は陸から遠く(約250km以上)離れているため、陸上観測からこの領域に発生する地震の正確な震源分布を求めることは困難だ。そこで今回の調査では、太平洋プレート内部で発生している地震の震源位置と震源メカニズムを正確に求めるため、日本海溝東側の太平洋プレート上の水深5000mから6000mの海域に自己浮上型海底地震計20台を設置し、海底地震観測を実施した。

海底地震計20台の設置は2011年4月下旬に、深海調査研究船「かいれい」による東北地方太平洋沖地震の震源域の地殻構造・海底地形調査と併せて行われ、2011年7月上旬までに深海潜水調査船支援母船「よこすか」によって全機が回収され、観測された地震波の記録から、地震の震源位置と、震源メカニズムが解析された。

約2カ月間の観測期間中に得られたデータから、約1700個の地震の震源を決定するとともに、50個の地震について震源メカニズムを決定することに成功(画像2)。その結果、太平洋プレート内部で発生している地震は、約40kmの深さまで分布しており、深さによらず正断層型の震源メカニズムを持つことが確認された。

画像2。観測結果。(A)海底地震観測により決定された地震の震央と震源メカニズム。色は震源の深さを表す。震源メカニズムの大きさは地震のマグニチュードに比例。赤い破線に沿った断面が(B)の画像。(B)海溝海側斜面の太平洋プレート内部において、深さ40km付近まで地震が発生していることがわかる。(C)断層の運動方向と震源の深さの関係。純粋な正断層の場合に-90°を示す。地震の深さによらず、正断層型の地震が発生していることがわかる

日本海溝東側(海溝海側斜面)の太平洋プレート内部の応力場は、海溝からの沈み込みに伴うプレートの折れ曲がりにより、浅部で伸張場となるのに対し深部では圧縮場であると考えられている(画像3・左上)。

東北地方太平洋沖地震の発生前に東北大学などが今回の研究の調査海域で実施した海底地震観測では、正断層型の地震の発生は深さ20kmまでに限られるのに対し、深さ40km付近では逆断層型の地震が発生していることが示されており、プレートの折れ曲がりにより生じるとされる応力場と調和的だ。一方、今回の研究で求められた震源メカニズムは、深さ40km付近まで深さによらず伸張場が卓越していることが示されている(画像3・右下)。

画像3。東北地方太平洋沖地震前後の太平洋プレート内部における応力場の比較。地震発生前は太平洋プレート内の浅部と深部で応力場が異なっていたが、地震発生後は深さ40km付近まで全体的に伸張場となっていることが示された。なお、この模式図は勘違いしやすいが、正断層と逆断層の動きを示したものではなく、太平洋プレートの動きとその中の応力場を示したものである

地震前後での太平洋プレート内部における応力場の違いは、2011年東北地方太平洋沖地震の影響により、太平洋プレート内部の深さ40km付近が圧縮場から伸張場に変化した可能性を示している点だ。このような応力場の変化が、本震発生以後の太平洋プレート内部での活発な正断層地震活動に結びついていると考えられている。

なおJAMSTECでは、今後も日本海溝東側を始め、十勝沖・房総沖など東北地方太平洋沖地震の震源域周辺の地震活動調査を実施し、2011年東北地方太平洋沖地震が周辺域に与えた影響の評価に取り組む予定だ。