放送倫理・番組向上機構(BPO)は、テレビ番組制作者666人と一般視聴者752名を対象に「テレビ番組の内容、テレビの今後と展望」についての意識調査を実施した。
地上波放送の優位は今後も続くのか
高度経済成長期から娯楽や情報源として大きな役割を果たしてきたテレビだが、ネット文化の台頭によりその座は危ういと見る意見が多勢を占めるかと思われたが、番組制作者、視聴者ともに「地上波放送の優位は揺らぐことがない」と考える人が過半数を超えた。
全体的に楽観的展望を示しているが、放送局による違いも見える。TBS、日本テレビ、フジテレビは60%超がテレビ優位に自信を持っているが、NHKとテレビ東京は42%台と、現状を厳しく受け止めていることがわかる。
視聴者の年齢格差は
「高齢者がテレビを楽しみに見ていることに変わりはない」「さまざまな人々に共通の話題を提供するテレビの役割は以前として大きい」という項目には制作者、視聴者共に賛同者が多数。「若い人たちのテレビ離れが進んでいる」に関しては制作者側の7割がそう感じている一方で、視聴者は4割弱にとどまるという意外な結果が出た。しかし、両者とも7割以上の人が「視聴者の中で高齢者の割合が拡大していく」と回答。
番組の評判と視聴率のジレンマに悩む
「番組の評判が良くても、視聴率が悪ければ悔しくなる」(84.2%)、「番組を作るときはどうしても視聴率のことを考えてしまう」(83.7%)と、8割以上が視聴率を強く意識する一方で、「番組の評判が悪くても、視聴率が良ければそれで良い」に賛同した人は12.4%と少数だった。
番組制作者の震災時の思い
昨年3月11日の東日本大震災発生時以降しばらくは各局ともに緊急報道体制がとられ、通常の番組やCMがオンエアされない状況が続いた。ドラマ、バラエティを担当する制作者たちは当時どんなことを考えていたのだろうか。以下に自由回答を抜粋する。
非常時におけるテレビの力と優位さ
- テレビ媒体の責務と役割の重要性、必要性をあらためて認識した。
- 有事の際の基幹メディアであるテレビが社会的役割を果たし、利益を度外視して緊急報道体制をとる事は、人間的にも企業としても必然。的確な作業をしていた。
- やはり情報伝達という最大の役割を果たすものとして、テレビが1番であると思う。
通常編成にいつ戻るのか
- 各局が一斉に地震ニュースをずっと報じていたが、子どものことなどを考えると通常の番組を早く放送することも必要だと思った。
各局で連携した報道体制を模索する声も
- 電力事情や原発、震災の状況などから、NHKと民放各局が協力して、総合災害報道体制を敷くということができないのかと思った。
- 緊急報道の時、各局の連携が出来ればというのが理想。子どもたちはある種の異常な光景しか映されないテレビの画面に心が病みそうだった。これだけの非常事態を国民と共有するテレビの使命として、横の連携も考えるべきだと思った。
苦悩、無力感、ジレンマ
- ニュースの重要性と、それに反比例するバラエティの無力さを再確認した。バラエティ制作者の中には「こんな時こそ被災者に笑いを」などという意見もあったが、私はそうは思えなかった。「笑いで被災者を救う」などという一部の意見は、安全圏に暮らす人間の驕り高ぶり以外の何ものでもないのではと感じた。
- ドラマ畑の僕はテレビマンとして何か役に立てなかったのかを今でも考える。報道、情報のスタッフは忙しい日々だったと思うが、制作畑は無力感でいっぱいだったと思う。僕にできる事は今後にあるのかもしれないが、あの日の事は忘れられない。
ドラマ、バラエティの役割を再確認
- 非常時のため報道が優先される事は十分理解できるが、どの局も同じものを放送しており、マスメディアとしてこれでいいのかと思った。悲痛な気持ちばかり先行して、前向きに進む気持ちがなかなか生まれないのではないかと。こういう時こそ良質のバラエティを放送し、少しでも気持ちを明るくする事こそが放送局としての役割ではなかったのか。
- いちはやくバラエティ番組を通常放送したのが、自分の担当している番組の自分の担当したVTRだった。反応が怖かったが、久々にいつものバラエティを見てホッとしたという声もあり、バラエティの意義というものを改めて考えさせられた。
- 「ドラマなど娯楽作品を制作している場合ではないのではないか?」と、自分達の足元の根幹を揺るがす程動揺したが、こんな時だからこそ、厳しい日常を一時でも忘れられるような作品を作りたいと切り替えて作ることができた。
作り手として変化、深化していく意識
- 価値観が大きく変わったことで、ドラマ作りが変わると強く思った。お客さんが何を求め何を観たいのか? 作り手が何を発信したいか? 両側面から大きく変わるという実感がある。
- 徐々に通常編成に戻る中で改めてテレビの役割を考えた。私自身、テレビ制作者である以前に普通に家族と暮らす1人の視聴者、生活者である事を再認識した。テレビがどんな時でも良くも悪くも人の心に強く影響を与える力をふまえ、今後の番組制作で「人の気持ち」を今まで以上に考えていこうと深く考えたタイミングだった。
- なかなか明るい展望を見いだせない状況の中、人々はどんなドラマを見たいのか。そこがこれから我々つくり手に問われてくると思う。けれど、戦後の復興に映画が繁栄したように、今こそフィクションだからできる、人々が求めるコンテンツがあるように思う。謙虚に今を見つめていきたい。
以上の内容を含む番組制作者と一般視聴者の見解や認識をまとめた調査結果が、2月10日、東京・千代田区の全国都市会館にて開催される公開シンポジウム「"新時代テレビ" いま、制作者たちへ」で発表される。パネリストに杉田成道氏(演出家)、宇野常寛氏(評論家)、桧山珠美氏(テレビコラムニスト)他を迎え、Ustreamでの生中継も予定されている。現在公式サイトで参加申し込み受付中。
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