細田守監督

細田守監督の最新作『おおかみこどもの雨と雪』の製作発表記者会見が13日、東京・有楽町の東宝本社にて行われ、監督・脚本・原作を手がけた細田守とエグゼクティブプロデューサーの奥田誠二が登壇した。

『時をかける少女』(2006)で青春を、『サマーウォーズ』(2009)で結婚と大家族の絆を、そして最新作となる『おおかみこどもの雨と雪』では"母と子"をテーマに描く。 脚本とキャラクターデザインは前作に引き続き、自身も一児の母である『八日目の蝉』の奥寺佐渡子 と『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行がぞれぞれ務める。そしてこれまで細田作品のプロデュースを行ってきた元マッドハウスの齋藤優一郎が、細田と共に「スタジオ地図」を設立し企画、制作にあたっている。

細田監督は「『サマーウォーズ』をたくさんの方に見ていただけて、次作を作るチャンスを得られたことに感謝しています。今回は人間の女性が狼男と恋に落ち、結婚をして子どもを産みます。半分人間、半分狼の子どもをどう育てていくか、という物語。主人公は"はな"という名のお母さんです。前2作に続いて生き生きとしたバイタリティ溢れるものを描きたい」と挨拶。

ここからは記者からの質疑応答へ。その内容を詳しくお伝えしよう。

――親子をテーマに据えた理由は

結婚して子どもをもうける友人夫婦が何組もいて、彼らの子どもをかわいがっている顔がすごく素敵だったんです。親が子どもを見る目の優しさをそのまま映画にしたい、と思ったのがきっかけでした。

――なぜ人間ではなく「おおかみこども」?

動物の子どもだったら楽しいんじゃないか、それが人間の子どもと同じ形になったらよりいっそう可愛さが伝わるんじゃないか、と考えました。野生の狼は日本では絶滅してしまいましたが、もしどこかで違う形で生き残っていたら、という仮定を子どものバイタリティを描く比喩として表現しました。「おおかみこども」という名称についてはいろいろ考えました。狼男、狼女、狼少年、全てしっくりこない。 動物のように生き生きとしている子ども、ということから「おおかみこども」を思いつきました。平仮名だといっそうかわいいでしょう(笑)。

――子どもたちの年齢は?

お姉ちゃんの雪が5歳、弟の雨が4歳。小学校に上がる前ですね。

――ロケハンに東京、富山とあるが

物語は東京から始まるんですが、都会ではおおかみこどもを育てられない、ということで都市じゃないところに引っ越すんです。それをどこにしようか、と考えてスタッフの出身地を次々回ってロケハンしたんですが、富山に行ったときに「あ、はな(母親)はここに来るんじゃないかな」と感じました。僕が富山出身ということもあり土地勘もありました。

――『時をかける少女』のタイムリープ、『サマーウォーズ』の仮想空間OZのような、現実世界と対比するような部分はあるのか

ファンタジックな部分としましては、子どもたちの姿が人間だったり狼だったりとコロコロ変わります。表情や気持ちが変化するように姿も変わるということを頻繁に繰り返すんですが、変身してもかわいいし、戻ってもかわいいんです(笑)。ポスターは半獣の状態ですね。僕にはまだ子どもはいないんですが、かわりに犬を飼っていて、本当に犬ってかわいいんですよね。物言わずして気持ちが通じているような素敵な動物なんですが、もし彼らが喋れたらこんなことを言っているんじゃないか、というファンタジー要素は詰まっています。

作品ポスター。"半獣"の雪と雨がはな(母親)に抱っこされている

――子どもではなく母親が主人公というのは

貞本さんと、ずっと「お母さんを理想的に、凛とした背筋の伸びた女性に描きたい」ということを話していました。 全2作では現実的に今を生きている女子高生や、日本の親戚のあり方のリアルな部分を探るところから入っていきましたが、今回は"理想のお母さん像"を作ることにこだわりました。お母さんが主人公の映画はそんなに多くない。大概はおおかみこどもの方を主人公にしますよね。でも育てるお母さんを主人公にしたかった。 僕には子どもを育てるお母さんたちが聖母のように見えるんですよ。

――日本だけではなく世界中から期待されていることにプレッシャーは?

次回作も作らせてもらえるのは監督としては幸運なことです。心構えとしてはあまり変わらないですね。頑張って楽しんでもらえるものを作りたい、というそれだけです。ただ、規模が大きくなるとドキドキはしますね。校了責任というか(笑)。

『時をかける少女』(左)、『サマーウォーズ』(右)の2作品は細田監督の名を世界中に知らしめた。特に『サマーウォーズ』はモントリオール ファンタジア映画祭 最優秀アニメーション賞などの国内外の賞を総なめに
(C)「時をかける少女」製作委員会 2006 (C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

――スタジオ地図とは

「スタジオ地図」とホームページに書いてあったら、そこをクリックすると地図のPDFがダウンロードできるかと思ってしまいますが(笑)、スタジオの名前です。この作品を作るにあたって、最適な場所を求めた結果、小さくても起ち上げた方がいいんじゃないかということで作りました。

公開された美術ボード

――東日本大震災が作品に与えた影響は

絵コンテを作っている最中、スタジオで初めて打ち合わせをしたときにあの震災が起こりました。その瞬間から日本がガラリと変わってしまった。あれほど大きなことが作品制作に影響しないわけがないんです。しばらく何も手につきませんでしたね。あの日からどうやって生きていくかということを考え続けています。今回の作品は母が子どもをどう育てるかというお話ですが、1人は育てられない、1人では生きていけない……そう強く感じたことが作品に色濃く投影されています。親子の他にもたくさんの登場人物がいます。本当に大切なものは何だろう、ということをこの映画を通して一緒に考えて行けたら、と思っています。

――キャストは決まっているのか

今ちょうどオーディションの真っ最中です。前2作ともオーディションをして役に合う方を探していったので今回も方法は同じです。有名・無名関係なく俳優、声優、舞台、子役、あらゆるところから来ていただいてます。「わっ!」という(くらい有名な)人もいますよ。順次決まっていきますので、随時お知らせしたいと思います。

奥田誠二エグゼクティブプロデューサー(右)とフォトセッション

『おおかみこどもの雨と雪』は現在作画が行われている。2012年5月に完成、7月に公開を予定している。