東京大学(東大)大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻のロバート・ゲラー教授の研究グループは、「第二安定領域」という今まで知られていなかった計算科学における現象を発見したことを発表した。同発見は、地震波伝播計算の新しい手法開発の研究途上で得られたもので、今後の地球内部構造や資源開発の研究に進展をもたらすことが期待されるという。同成果は、英国の地球物理専門誌「Geophysical Journal International」のWebサイトに掲載される予定である。

この新たな計算科学的現象は、同研究グループが開発した、"高精度化した有限差分法"を用いた地震波伝播の数値シミュレーションにて現れたという。

有限差分法は一定の時間間隔(タイムステップ:Δt)で時間進行することにより地震波の伝播を計算する手法であり、現在の時刻(t)と1ステップ前(過去:t-Δt)の地震波を用いて、1ステップ先(未来:t+Δt)の地震波を計算する。一般的には、有限差分法のアルゴリズムでは、計算に用いる時間間隔Δtが大きくなると、手法の詳細によって若干異なるものの、ある一定の時間間隔(上限Δt1)を超えた場合計算が急に安定から不安定に変化し、この"0≦Δt≦Δt1"の範囲は安定領域と呼ばれている。

しかし、研究グループが開発した手法では、安定領域を越えて時間間隔をさらに増やし、ある特定の値(Δt2)を超えると、計算は急に不安定からまた安定に変わる。さらに時間間隔を大きくし、ある特定の限界(Δt3)を超えると、もう一度計算が不安定になる。この"Δt2≦Δt≦Δt3"の領域はこれまで存在を知られておらず、研究グループでは「第二の安定領域」と命名した。また、定数Δt1、Δt2、Δt3は媒体の弾性定数、密度および空間格子間隔による。

なお、同誌に掲載される研究成果は、単純な均質媒体におけるものだが、第二安定領域の存在は、計算科学における新しく、魅力的で、まったく予期されなかった発見であり、この成果は、弾性定数や密度が均質でない媒体における新しい計算手法の安定性の検証に役立つと期待されると研究グループでは説明している。