海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、同規模の装置との比較では世界最高水準の性能を有する海中探査機用の高性能小型慣性航法装置(画像1)を開発したことを発表した。慣性航法装置(Inertial Navigation System:INS)は、ジャイロスコープおよび加速度計を用いて移動体の角速度と加速度を検出し、これを演算処理することで絶対位置を産出する装置のこと。海中探査機においては目標航路および目標地点へ自身の位置を制御するための重要な航行用の機器となる。開発は、JAMSTECの石橋正二郎技術研究主任らの研究グループと、日本航空電子工業によって行われた。
今回のINSの特徴は、高度にモジュール化された小型のリングレーザージャイロと最新の電子機器により構成されている点。多様な広報演算手法やアライメント手法を適用した従来にない各種新機能が盛り込まれており、海中探査機の性能向上が期待されているとしている。
また、これまでは海中探査機用のINSは海外製品を利用してきたのだが、冒頭で述べたように国産の装置である点もポイントとなっている。
開発は2004年4月からスタートし、2008年3月に試験機(画像2)が完成。2009年8月からは試験機による技術検証を経て搭載機の開発が始まり、2011年9月に搭載機が完成、平成23年(2011年)度内に新型探査機を用いた機能・性能試験(結合試験)も実施の予定だ。
国産INSとして初めて搭載された新機能は、「GPS/DVL(ドップラー速度計)/音響測位ハイブリッド」、「DVL Dead Reckoning出力」、「地上/船上/海底/ストアヘディングアライメント」、「センサRawデータ出力」、「ハイブリッドゲイン設定」など。
GPS/DVL/音響測位 ハイブリッド機能は、GPSおよびDVL、そして音響測位の各システムとINSの出力値をそれぞれ組み合わせることにより、高精度な航法演算を提供するというもの。環境への依存性を考慮した、安定した位置精度を補償する機能だ。
DVL Dead Reckoning出力機能は、INSの姿勢情報とDVLの速度情報のみを使用し、高精度な航法演算を提供。DVLの出力精度が補償される環境において効果的な機能である。
地上/船上/海底/ストアヘディングアライメント機能は、地上、船上、海底それぞれに探査機がある状態において、INSのアライメント(初期整定演算)を実施するとともに、最短1分でアライメントを収束させる機能(ストアヘディングアライメント)を提供。
センサRawデータ出力機能は、慣性航法演算を施す以前の、各センサの計測値を出力もの。ユーザが独自の航法アルゴリズムを設計・適用するのにも有効だ。
ハイブリッドゲイン設定機能は、ハイブリッド航法時の各内部演算ゲインを動的に設定するもの。探査機が搭載する機能やその性能に応じた汎用性の高いハイブリッドシステムを提供可能だ。
そのほか、自動/手動状態遷移変更機能、ミスアライメント設定機能、GPS/DVL/音響測位設置位置アライメント機能、アライメント時間設定機能、通信速度変更機能、瞬断補償機能なども備えている。
今後、同INSは海洋資源探査や海洋環境調査に資する新型の各海中探査機へ搭載されることが予定されている。それら探査機の開発も行われていると同時に、現在は機能確認および性能確認を含む探査機制御システムとの結合試験を実施中だ(画像3)。そして平成23年度末には、同INSを搭載した新型の海中探査機による初の海域試験も予定されている。
また、同INSの省スペース性を活かして、従来は搭載が難しかった小型海中探査機への適用も想定されている。具体的には、11月30日まで名称募集中の新型無人探査機(画像4)にも搭載する方向で話が進行中だ。
そのほか、外界とのコミュニケーションが困難な環境における移動体の位置・姿勢検出の手段として、海中だけでなく航空機や鉄道試験機などさまざまな移動体への適用も期待されているとした。
スペックは以下の通り。
試験機
サイズ:185mm×185mm×240mm以下 質量:8.5kg以下 位置精度:0.7 Nm/hr CEP
搭載機
サイズ:168.5mm×168.5mm×159.0mm以下 質量:6.4kg以下 位置精度:0.5 Nm/hr CEP
位置精度は、No aiding(純慣性航法)において
Nm:Nautical Mile(海里:1海里=1852m)、hr:hour、CEP :Circular Error Probability(平均誤差半径)
試験機と搭載機との性能差は、探査機が1時間で約5.5km航走した場合において、試験機では目標地点との誤差が約1.3kmだったものが、搭載機では約0.9kmに軽減される