浜松医科大学と新潟大学の研究グループは、人間の毛髪の「皮質」と呼ばれる部分にある3種類の分子が、年をとるのに従って増減することを発見した。浜松医大の脇紀彦学氏(医学科3年)、瀬藤光利 同大教授らによるもので、同成果の詳細は「PLoS ONE」に掲載された。

人間にとって毛髪は、頭部の保護のみならず美容のためにも、大切な存在であるほか、事件が起きたときの重要な物的証拠となることもある。主に髄質、皮質、キューティクルの3つの部分からなり、一番内側にある細い管のような部分が髄質、その外側にあるのが皮質、そしてさらに外側をキューティクルがそれらを覆う構造となっている。

毛髪は、加齢により光沢が失われたり、コシがなくなったりすることがあり、とりわけ髄質や皮質が光沢やコシにとって重要であることが最近判明してきた。しかし、加齢に伴い、どのような分子の変化が起こるのかを、髄質や皮質を区別しながら調べた研究はこれまでなかった。

図1 人間の髪の毛の構造

今回、研究グループでは、毛髪の断面の中にある分子がどのように分布しているかを、瀬藤教授のグループが島津製作所と共同で開発を行った、生体組織などを光学顕微鏡で観察して分析したい部位を決め、そこに含まれる分子について大気圧下で質量分析を行うことが可能な「質量顕微鏡」を用いて調査を行った。

図2 瀬藤教授のグループが島津製作所と共同して開発した質量顕微鏡

これにより、何百もの分子について、髪の毛の断面中でそれらがどのように分布しているかを一度に知ることができるようになったほか、質量顕微鏡法を用いることで、髪の毛の髄質と皮質という、細かい部分の違いを区別できることも判明した。

図3 質量顕微鏡法で髪の毛の断面中の分子を検出。上の段は従来の顕微鏡による断面像。下の段は質量顕微鏡法で検出された分子のうちの1つ(アミノアクリル酸)の像。赤い点はアミノアクリル酸が多かった部分で、青や黒の点は少なかった部分

研究グループでは同法を使い、20歳前後の人間の髪の毛と50歳前後の人間の髪の毛を比較。その結果、数多くの分子の中で、ホスフォエタノールアミンという分子が加齢にともなって増えることを示したほか、一方で、ジヒドロウラシルとDHMAという分子が加齢にともなって減ることも確認した。これらの分子の量は、髄質では変化しておらず、皮質で変化していたという。

図4 ホスホエタノールアミンは加齢にともない髪の毛の皮質で増えていた。ジヒドロウラシルとDHMAは加齢にともない皮質で減っていた。上の段は20歳前後の髪の毛で、下の段は50歳前後の髪の毛。赤い点はアミノアクリル酸が多かった部分で、青や黒の点は少なかった部分

今回の研究により、加齢により髪の毛の皮質の中で量が増える分子と減る分子のそれぞれが発見されたこととなる。減る分子として見つかったジヒドロウラシルとDHMAは油としての性質を持っており、シャンプーやコンディショナにこれらを混ぜて補うことで、加齢による髪の毛の変化を抑えられる可能性があるという。

また、今回の知見から、髪の毛が警察調査などで使われる際により詳しい情報を得られるようになることも期待できるとしており、今後、さらに分子がどうして増えたり減ったりしているのかを明らかにすることができれば、加齢に伴って髪の毛が痛んでいくことの仕組みがより明らかになり、最終的には体の中で起こっていることは髪の毛の中に反映されることから、体全体の老化の仕組みを明らかにすることに繋がることも期待できると研究グループでは説明している。