IT産業のスタートアップは、資金を集めてベータ版を公開し、初期ユーザーからのフィードバックを取り入れ、知名度を上げながら製品を完成させる。そのテクノロジスタートアップの手法を、Todd Sattersten氏が新著「Every Book Is a Startup」(すべての本はスタートアップ)の執筆・製作・出版に採用した。

出版産業において書籍の電子化が進む一方で、書籍出版ビジネスには電子化に対応した変化が見られない。Every Book Is a Startupは、テクノロジスタートアップの世界で証明済みのコンセプトやテクニックを出版ビジネスに適用することを指南する内容だ。実際にSattersten氏は、Every Book Is a Startup自体の執筆・出版に「Release early, Release often (すばやく、頻繁に)」といったスタートアップの手法を取り入れている。

まず「Black Swans and Long Tails」と「Help the Heroes」という2つのコアとなるアイディアだけをまとめたバージョンが電子版で発売された。出版社はO'Reilly Media。価格は4.99ドルだ。Sattersten氏は読者からのフィードバックや要望を集めながら、内容を改訂し、さらに書き進めていく。読者とのやり取りのために、カスタマーサポートサービスGet Satisfactionに専用ページも用意している。内容が増えていくほどにEvery Book Is a Startupの電子版の価格は上がっていくが、購入後は無料でアップデートを受けられる。つまり最初に4.99ドルで購入した読者は、5ドル弱で作品づくりに最初から関わり続けられ、そして最終版を手にできる。ちなみに完成したらプリント版が24.99ドル、プリント+電子版が27.49ドルになる。

今はネットを通じて、情報が瞬く間に広まっていく。執筆・出版・流通に1-2年を要していたら、本の種類によっては時間とともに陳腐化のリスクが高まる。また最初にぺージ数やレイアウトの枠が決められていると、作者の創作の足かせにもなり得る。Sattersten氏のEvery Book Is a Startupプロジェクトは出版ビジネスを時代に合わせて改革する試みだという。