大阪市立大学・複合先端研究機構の神谷信夫教授と岡山大学大学院自然科学研究科の沈建仁教授らの研究グループは、光合成において光エネルギーを利用し、水を分解して酸素を発生させる反応の謎を解明した。同研究成果は、英国の総合学術雑誌「Nature」(オンライン版)にResearch Articleとして掲載された。

光合成は、太陽の光エネルギーを利用して、有機物の燃え残りと言える二酸化炭素(CO2)からブドウ糖を作り出す過程。ブドウ糖は、人間を含め、ほとんどすべての地球生命体が、呼吸によりエネルギーを取り出している栄養源。16種の膜貫通タンパク質と3種の膜表在性タンパク質によって構成され、総分子量350kDa(ダルトン)の超分子複合体である「光化学系II複合体(PSII:図1)」は、太陽からの光を受けることで水を分解して酸素分子を発生させ、同時に電子を発生させている。

図1 光化学系II複合体の全体構造。2個の単量体からなる2量体構造を取っており、2個の赤丸の場所に酸素発生中心がある

ここで発生する電子は、CO2をブドウ糖まで変化させるために利用される。これまでPSIIの酸素発生反応は、4個のマンガン原子(Mn)と1個のカルシウム原子(Ca)が複数の酸素原子(O)により結びつけられた金属・酸素クラスタ上で進行しているとされてきたが、同クラスタの正確な化学組成と詳細な原子配置は明らかになっていなかった。

今回、研究グループは、PSIIの結晶の質を従来比で向上させることに成功。大型放射光施設「SPring-8」を利用し、X線結晶構造解析を行った。その結果、同クラスタはMn4CaO5の組成を有し、全体として歪んだ椅子の形をしており、1つのMnとCaにそれぞれ2個の水分子が結合していることが明らかになった(図2)。

図2 酸素発生中心の詳細な化学構造。紫色はマンガン原子、黄色はカルシウム原子、赤は金属原子を結ぶ酸素原子、オレンジ色は酸素発生にかかわる水の酸素原子

これら4個の水分子のいずれかは、Mn4CaO5クラスタから発生する酸素分子の中に取り込まれるものと考えられると研究グループでは説明している。

また、今後、同クラスタ構造を模倣した触媒が開発されることで、触媒まで太陽の光エネルギーを伝達する部分と、その触媒が水から作り出す電子を用いて水素分子やメタノールを合成する部分を組み合わせることが可能になり、人工光合成を実現できるようになると研究グループでは説明しており、これにより、エネルギー問題や環境問題、食料問題を解決する足がかりができるものとの期待を述べている。