米IBMは12月29日、人々の働き方、生活、遊び方を一変させる可能性を持った5つのイノベーション「Next 5 in 5」を発表した。Next 5 in 5の発表は今年で5回目となる。以下、5つのイノベーションを紹介しよう。

センサーで情報発信する「市民科学者」

米IBM 会長サミュエル・J・パルミサーノ氏

今日、人々は電話や自動車、財布など、何かしらセンサーが組み込まれたデバイスを携帯していることから、同社は一般市民自身が「センサー」だとしている。さらに、Twitterのつぶやきからもデータが収集され、科学者に周辺環境のリアルタイムな情報が伝えられるようになるという。

センサーから収集したデータは地球温暖化対策や絶滅危惧種の保護、世界の生態系を脅かす侵入動植物の追跡などに利用することができる。5年後には、「市民科学者(citizen scientist)」というカテゴリーが生まれ、既存の単純なセンサーを使って研究に役立つ大量のデータ・セットを提供していくことになると予想されている。

例えば、地震活動を検知するセンサーとしてPCをネットワークに接続するなど、適切に活用すれば、地震後の影響の素早い測定に役立ち、緊急時出動員の対応の迅速化や、人命救助にもつながる可能性がある。

同社は一般市民が飲料水の水質改善や騒音公害の報告などを目的とした有益なデータを提供できる携帯電話アプリケーション「Creek Watch」を提供している。同アプリケーションでは、住民が小川や河川の写真を撮影し、関連する3つの簡単な質問に答え、データは地域の水資源管理団体が利用できるよう自動的に配信される。

チャットでも使えるようになる「3D」

今後5年間で、「映画のような3Dインタフェースが実現し、友人のホログラム(3次元立体画像)とリアルタイムで双方向通信ができるようになる」と、同社では予測している。映画やテレビの3D化に加え、3Dカメラやホログラフィ・カメラも携帯電話向けに高性能化・小型化が進んでおり、これからはまったく新しい方法で、写真のインタラクティブ操作やWebブラウジング、友人とのチャットが行えるようになるという。

例えば、現在ビデオ・チャットを「3Dテレプレゼンス」と呼ばれるホログラフィ・チャットへ進化させる研究が行われている。同技術は人間の目が周囲の状況を視覚化する時と同様の仕組みで、対象物からの散乱光を利用して対象物の画像を構築する。

IBMリサーチでは、3Dデータを視覚化する新たな手法の開発に取り組んでいる。この技術が実現すれば、建物からソフトウェア・プログラムに至る、あらゆる設計図の内部から、エンジニアがインタラクティブな3Dの地球儀上で疾病の拡大をシミュレーションしたり、ツイッター上で話題になっている世界のトレンドを視覚化したりできるようになる。

空気で充電できるバッテリー

今後5年間で、「トランジスタと電池技術が進歩し、デバイスの連続使用可能時間は現在の約10倍になる」という予測示されている。さらには、小型のデバイスではバッテリーそのものが必要なくなるかもしれないという。

現在使用されている重いリチウムイオン電池に替わり、空気を高エネルギー密度の金属と反応させることで、長時間の利用を妨げている主要な原因を解消できるバッテリーの開発が進められている。これが成功すれば、電気自動車から家電製品まで幅広い用途に使用できる軽量かつパワフルな充電式電池が実現する。

さらに、同社は電子機器の基本的なビルディング・ブロックであるトランジスタを見直し、トランジスタ1個当たりのエネルギー容量を0.5ボルト未満に抑えることを目指している。エネルギーの必要量をここまで低減できれば、一部のデバイスではバッテリーが完全に不要となるかもしれないという。

その結果、エネルギー・スカベンジングと呼ばれる技術を用いて充電するバッテリー不要の電子機器が実現する。この技術は一部の腕時計で実用化されており、それらはねじを巻くのではなく、腕の動きによって充電が行われる。同じコンセプトで携帯電話などを充電することが可能になるというわけだ。

パーソナル化された通勤経路

5年後には、先進の解析技術によって、目的地に最短時間で移動できるパーソナル化された推奨ルートを利用できるようになるという。これは、適応性を備えた交通システムが移動パターンや行動を直観的に把握し、今までにない柔軟性を備えた移動時の安全とルート情報を提供することで実現される。

同社の研究者は、異なる輸送ルートによる移動結果を予測する新しいモデルの開発を進めている。これが実現すれば、従来の交通情報、交通渋滞の中で現在地を示すだけの事後装置、交通遅延で所要時間を予測するWebベースのアプリケーションではカバーできなかった新しい情報を提供できるようになる。

新しいシステムでは普段の移動パターンから目的地を判断し、利用可能なさまざまなデータや予測モデルを統合して最適のルートを割り出す。具体的には、センサーから得られた現在の混雑状況に関するリアルタイムの情報などを予測解析と組み合わせ、最寄りの公共交通機関までのルートのほか、電車が定刻通りに到着するか、駅に駐車スペースがあるかなどを分析し、目的地へ向かう最適な方法が提示される。

都市生活のエネルギー源になるコンピュータ

今後、コンピュータやデータセンターから放出される余分な熱やエネルギーが、暖房や冷房などに利用可能になるという。世界のデータセンターに集められたエネルギーが都市生活のために再利用されるというわけだ。

現代のデータセンターで消費されているエネルギーのうち、冷却に使用されているエネルギーは最大で50%程度で、熱の大半は利用されずに大気中に排出されている。同社が開発したオンチップ水冷システムをはじめとする新技術では、コンピュータのプロセッサ群から放出される熱エネルギーを効率的にリサイクルし、オフィスや家庭に温水を提供することができる。

この技術を搭載したコンピュータを用いたスイスの実験プロジェクトでは、二酸化炭素の年間排出量を最大で30トン、これまでの85%削減できると予想されている。ヒート・シンク内のマイクロ流体キャピラリーが新たなネットワークでコンピュータ・クラスタの各チップ表面に取り付けられ、半導体材料の数ミクロンまで水を通すことが可能になる。