三洋電機と群馬県環境衛生研究所は12月17日、多剤耐性菌の一種であるアシネトバクター菌に対し、電解水との接触において短時間で99%以上の除菌効果と、電解ミストの10分間放出において99%以上の除菌効果があることを共同研究にて実証したことを明らかにした。

同社の電解水技術は「ウィルスウォッシャー」として用いられているもので、水道水など塩素(もしくは塩分)を含む水を電気分解し、「次亜塩素酸」と「OHラジカル」の2種類の活性酸素を生成、その酸化力で浄化を行うもの。業務用にはフィルタに電解水を通し、そのフィルタに空気を通すことで、ウィルスや細菌、花粉、においなどの除去を行う。また、民生用としては、直接、電解水を霧状にし、ファンなどで拡散させる「電解ミスト」方式が多く採用されている。

電解水の生成イメージ

群馬県環境衛生研究所所長の小澤邦寿氏

三洋と共同で研究を行った群馬県環境衛生研究所所長の小澤邦寿氏は、「毎年のように日本でも人間や家畜に対する感染症が流行しているが、公衆衛生学において、パンデミックなどの健康危機管理を含めた感染症をいかに制御していくかは最重要項目。特に呼吸器感染症の8~9割はウィルスによるものだが、その原因となるウィルスはおよそ1000種類程度といわれており、すべてにワクチンや坑ウィルス薬を開発することがとてもではないが不可能。そうした意味では、そういった個別対抗ではなく全体に対応する手段が必要で、ウィルスウォッシャーなどの除菌技術は有効である」と説明する。

感染症の感染経路はさまざま。呼吸器感染症の場合、その原因の大半がウィルスだが、数が多いため、それにあわせた対策、というとかなり難しいのが実情とのこと

今回、実験が行われたアシネトバクター属菌は、病院内で用いられた人工呼吸器の患者の口に当てられる「バイトブロック」と呼ばれる部分が汚染されて被害を発生させたものとして考えられる多剤耐性菌。人工呼吸器は水分を含むシステムであることもあり、ウィルスウォッシャーでも水を使用することから、安全性の確認の意味も含めて同実験が行われた。

院内感染のイメージと、人工呼吸器関連肺炎のイメージ

なお、小澤氏は院内感染について、「すべての責任を発生した医療機関に押し付けるのは間違い。もともと病院はさまざまな菌を持った人が多く訪れる場所であり、かつ弱っている人たちもいる。そういった状況下では、そうした院内感染が起きないほうが不思議。問題なのは、その被害をいかに最小限に抑えるかの取り組みを行ったかどうか」と、感染被害は起こるもので、それに対してどう(予防も含めた)対応をとるかが重要だと指摘する。

電解水の除菌効果に対する実験の検証方法は、前培養したアシネトバクター菌液と電解水を1:99の割合で混和し、10秒間接触。電解水の反応を停止させるために、0.2%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、生存した細菌数(試験菌:Acinetobacter baumannii(GTC00065))を平坂培養法で計測を行ったというもので、実験条件としては、模擬水道水(遊離残留塩素濃度0mg/l:対照)、電解水(遊離残留塩素濃度1mg/l)となっている。

結果、電解水への10秒間接触で、アシネトバクター菌の99.9%以上を除菌できることが確認されたという。

また、電解ミストによる除菌効果に対する実験は、電解水同様、前培養したアシネトバクター菌を一定量、滅菌ガーゼに付着。電解ミストユニットから30cmの位置に菌付着ガーゼをチャンバ内に設置し、電解ミストを放出後、所定時間ごとにガーゼを取り出し、SCDLP液体培地で付着菌を洗い出し、生存した細菌数を平坂培地法で計測した。実験容積は安全キャビネット内に設置された200lチャンバで、実験条件はミスト放出あり(遊離残留塩素濃度5mg/l)、ミスト放出なし(対照)での比較を行った。

電解水によるウィルス抑制の仕組み。ウィルスの感染はウィルス蛋白(スパイク)が人間のレセプターに入ることで生じる。電解水ではそのスパイクを破壊することで、レセプターへの侵入を防ぐことができる

三洋電機研究開発本部 基盤技術研究所 制御機器研究部の担当課長である野澤康平氏

この実験に対し、三洋電機研究開発本部 基盤技術研究所 制御機器研究部の担当課長である野澤康平氏は、「菌がベッドサイドや寝具に付着していることが多いものと想定し、ガーゼにミストを当てて実験を行った」と説明。結果としては、ミスト放出10分で付着菌の99%以上が除菌できたことが確認されたとする。

アシネトバクター菌に対する除菌メカニズムは、「まず、菌の膜タンパク質を次亜塩素酸が破壊、次に菌の内部にある機能性タンパク質を破壊し、菌の増殖機能を阻害、死滅させるものと考えられる」(同)とのことで、薬剤耐性に関係なく、アシネトバクター菌以外にも効果を発揮できるものと考えられるとしている。

電解水関連技術の各種効果検証

三洋電機 研究開発本部 基盤技術研究所所長の米崎孝広氏

ちなみに、ミストの場合、「ミストとガーゼまでの距離が重要で、距離が長くなれば効果が薄くなる。次亜鉛素酸は長時間もつので、ミストが届く距離であれば除菌できるものと考えている」(三洋電機 研究開発本部 基盤技術研究所所長の米崎孝広氏)としている。

なお、小澤氏は公衆衛生学の観点から、「業務用ウィルスウォッシャーのエレメント方式は加湿という意味でも効果がある」とし、「大空間を効率的に除菌できる技術と考えており、感染症の抑制に理論的に効果があることは間違いない。今、呼吸器ウィルスは個々人がマスクやうがいなどで予防するしかないが、大空間で抑制できれば、そこに例え保菌者がいても、感染するリスクを減らすことが高くなる。そういった意味ではウィルス、細菌、花粉と相手を選ばないことは公衆衛生学上では重要」と、その効果を強調した。ただし、「人間を使っての実際の実験はできないので、実際の効果をこう、ということは難しい。多くの場所に導入され、導入前と比較してどうなったか、などを比較することで検証していくしかない」ともしている。

動画
エレメント方式による除菌のデモ。菌をそのまま使用することはできないので、代わりに食紅をフィルタに吹き付けてのデモ。赤い色が消えていく様子が分かる(wmv形式 5.54MB 20秒)