ペイパルジャパン カントリーマネージャー アンドリュー・ピポロ氏

ペイパルジャパンは7月28日、成長戦略説明会を開催し、国内EC市場におけるビジネス展開について方針を示した。ペイパルジャパンのカントリーマネージャー アンドリュー・ピポロ氏は「世界第2位の規模であるにもかかわらず、日本のEC市場はまだ成長途上にある。欧米では最もメジャーなオンライン決済サービスであるPayPalを日本でも普及させるべく、売り手、買い手、そして開発者に対してメリットを訴求し、日本のEC市場を拡大させたい」と語る。

PayPalは1998年12月に設立された米PayPalが提供する世界最大のオンライン決済サービス。2002年にネットオークション最大手の米eBayのグループ傘下となっている。世界190の国と地域における約800万のECサイトで利用されており、24の通貨に対応している。総取扱額の約25%がクロスボーダー(国際間)取引にあたり、全世界のアクティブアカウント数は8,700万以上、総アカウント数は2億2,400万に上る。ここまで広く普及したのは商品購入時にクレジットカード番号などの個人情報を入力/開示する必要がないため、ユーザのプライバシーが保護されるという点が大きい。

日本法人であるペイパルジャパンは2008年に設立され、以来、市場調査を中心に行ってきたが、ピポロ氏がカントリーマネージャーに就任した今年4月より本格的な営業活動を開始、2010年上期においては、アカウント総数100万以上、アクティブアカウント数40万以上まで伸ばし、「総取扱高は45%増、クロスボーダー取引の割合は70%」(ピポロ氏)となっている。楽天やユニクロなどPayPalが利用できる有名ECサイトも増えてきた。

PayPal決済では、買い手は売り手に対してクレジットカード番号などを開示する必要がない

楽天、ユニクロ、ダイソーなど、国内でもPayPal決済を提供するECサイトが増えてきた

なぜこの時期に日本市場に本格参入したかについて、ピポロ氏は「日本のコンシューマ向けEC市場は現在急速な拡大基調にある。2009年の市場規模は6.7兆円だったが、2014年には12.2兆円まで拡大すると予測している。だが、それだけのポテンシャルを抱えており、世界第2位の市場規模であるにもかかわらず、国内の全商取引におけるEC化率はわずか2.1%、クロスボーダー率は17.8%に過ぎない」とし、だからこそ国内EC市場はさらに大きく成長する余地があると見ている。加えて「今年4月から施行された資金決済法により、(国内での)ビジネスがやりやすくなったことも大きい」(ピポロ氏)としている。

ペイパルの調査によれば、インターネットショッピングにおいて買い手となるユーザがオンライン決済サービスに求める条件には「安全」「経済性」「迅速」「簡単」などが挙げられるが、とくに日本のユーザは安全を重要視する傾向にある。だが、最も多くのユーザが利用しているクレジットカード決済を「安全だから」という理由で選択している人はわずか5.1%に過ぎず、70%が「便利だから」という理由で利用しているという。「PayPalが日本で必要とされる理由はここにある」とピポロ氏は語り、今後はPayPalの安心/安全性を積極的に訴求していく構えだ。その一環として「バイヤープロテクション(買い手保護プログラム)」を6月から開始、従来からのプライバシー保護に加え、ECサイトで購入した商品が届かない場合は、購入日から30日前後で購入金額の全額をユーザに返還するという"二重の保護"をサービスとして提供している。

ペイパルジャパン マーチャントサービス部長 大橋晴彦氏

買い手に対してだけでなく、ペイパルジャパンではECサイトの売り手となるペイメントゲートウェイ(決済代行事業者)やプラットフォーム事業者、大規模ECサイトなどに対してのアプローチを強めている。ペイパルジャパン マーチャントサービス部長 大橋晴彦氏は、「提携6社のペイメントゲートウェイ(イプシロン、ソフトバンク・ペイメント・サービス、GMOペイメントゲートウェイ、J-payment、SBIベリトランス)を通したサービス提供を行うことで幅広い規模のECサイトをカバーできるようになった。プラットフォーム事業者(楽天、ビッグローブ、Xcart、セカイモン)にはショッピングカートなどにPayPalを組み込んでもらい、PayPal決済の統合を図っている。また、ユニクロや丸井などのように大規模ECサイトへの直接営業も進めている」とし、今後もこの戦略を推し進めて普及を図りたいとする。「PayPalを導入することで安心・安全が高まり、ECサイトの顧客に満足してもらえることを知ってもらいたい。また、海外展開を考えているECサイトであれば、海外のユーザからPayPalで決済したいという声は必ず出てくる」とし、PayPalを導入することのメリットを強調する。「チャンネル拡大のための施策としては、カード会社との提携、中小ECサイトの販路拡大、Webマーケティングの充実などを検討している」(大橋氏)

また、今後はスマートフォンやタッチ端末など新しいタイプのモバイルデバイスからの利用が増えると見ており、必要なプロダクトの開発に向けて、開発者に対してのサポートも積極的に行っていきたいとしている。オープン技術の開発基盤として「PayPal X」を提供、APIやツール、ドキュメントのほか、開発者ネットワークや専用サイト(x.com)といった場も用意している。

「我々は日本での成功を信じている」とピポロ氏は断言する。世界最大のオークションサイトを展開する親会社のeBayが日本市場から撤退したのは2002年だったが、同じ轍を踏まないよう、PayPalはじっくりと時間をかけて日本のEC市場を研究し、単独で乗り込むのではなく、ペイメントゲートウェイやサービスプロバイダとの提携を中心に地道にビジネス基盤を拡げるという戦法を採った。そして、準備期間は終わり、これから本格的な勝負に打って出る。まずは、"PayPal=安全&便利な決済手段"としての認知度が今年度中にどこまで高まるかが、同社成功のひとつの目安となるのかもしれない。