米国の移民と就業事情に変化が起きている。米Wall Street Journalの10月29日(現地時間)の記事によれば、米国で高技能の外国人労働者を雇用するためのビザ「H-1B」が、今年は募集開始から半年が経過しても定員に満たない状況が続いているという。

米国では国内で就労する外国人について、就業ビザの取得を要求している。就労ビザには複数の種類があるが、中でも技術者などの高い技能を持つ人々が就労するのに必要なビザは「H-1B」と呼ばれ、年間の発行件数が6万5000までと制限されている。インド人プログラマや中国人エンジニアなど、シリコンバレー界隈でよく見かける外国人IT技術者らの多くは、このH-1Bビザを取得してIT企業で働いていることになる。

H-1Bビザは非常に人気があり、通常の年であれば申請開始直後に枠が埋まり、取得が非常に困難なことでも知られている。こうした背景もあり、2000年前後のITバブル期には枠が一時的に5割増しの10万人以上に広がったり、再び経済が上向き始めた2004年以降は2万程度の追加枠が議会で承認されるなどの特別処置がとられている。それでもビザが取得できずに、米国での就業を諦めた外国人がシリコンバレーを去っていったという話も多く聞かれた。

だが今年は状況が一変した。去年は受付開始1日で埋まった6万5000の枠が、今年は6ヶ月を経た9月25日の時点での申請件数がわずか4万6700だったという。通常であれば1-2ヶ月以内に枠が埋まるということで、こうした異常事態は2003年以来だという。H-1Bを利用するのは前述のシリコンバレー企業のほか、ウォールストリートのような米金融街の企業が多いため、今回の金融危機がこれら企業の業績を直撃し、コスト削減に追われるなかで採用を手控えている様子がうかがえる。H-1Bを必要とするような外国人労働者は優秀な米国人労働者と給与水準もほとんど変わらず、むしろ諸経費でコスト高となる傾向もあり、企業側も採用を避けているという事情もありそうだ。

H-1Bの枠拡大のためにこれら企業がロビー活動を頻繁に行っている様子がよく報じられている。米Microsoft会長のBill Gates氏も公の場で米国の科学技術振興のために移民政策を緩和するよう何度も訴えている。