メールやIMに気を配りながら、パソコンで仕事を処理したり、Webブラウジングするというのは今やめずらしくない。自宅だったら、ついでにTVをバックラウンドでつけっぱなしにしていたりもするだろう。そんなマルチ・タスクに慣れている人は要注意だ。複数の情報の流れを処理し続けるメディア・マルチタスカーは注意力が散漫で、判断力や記憶力に劣ることがスタンフォード大学の研究者の調査で明らかになった。

人間が複数の情報ながれを同時に処理できないのは社会科学の定説となっている。しかしながら複数の情報に対応するパソコンユーザーが増加しており、そうしたマルチタスカーは注意を払うべき情報を見きわめる力や、考えをすばやく切り替える力を備えていると考えられていた。ところがClifford Nass氏のグループが約100人の学生を対象に行った3つのテストは、まったく逆の結果になった。

最初のテストは、2個の赤い長方形だけ、または2個/4個/6個の青い長方形に囲まれたセットを用意し、そのうち1つを2回見せる。2回目のときに赤い長方形の場所が1回目と異なっていたかを答えてもらう。普段マルチタスク作業をあまり行わない人たち(以下シングルタスカー)は問題なく見分けられたものの、マルチタスカーは青い長方形に気を取られて手こずった。スコアも芳しくなかった。

これはマルチタスカーがすべてのモノを無視せずに把握しようとすることを示す。ならば、マルチタスカーは多くの情報を記録し、効率的に整理する力に長けている可能性がある。記憶力が優れているかもしれないと研究グループは考えた。

だが2つめのテストが、その推測を打ち消した。連続するアルファベットを見せ、同じパターンのリピートを指摘するテストで、またしてもマルチタスカーはシングルタスカーに惨敗したのだ。しかもテストが進むほどにマルチタスカーのスコアは悪くなり、逆に多くの情報に対応しきれないのが明らかになった。

関係のない情報を除外できず、また記憶の整理も苦手。それでもマルチタスカーは、すばやい切り替えは得意なはずである。

ところが、またまた裏切られた。

3つめのテストは文字と数字を組み合わせたイメージが見せ、文字に注意を払うべきときは母音か子音かを答え、数字に注意すべきときは偶数か奇数かを答えてもらった。このテストでも、シングルタスカーがマルチタスカーを上回る成績を残した。

マルチタスカーは、自分が直接的に行っていないタスクのことも意識せずにはいられない。重要ではない情報をフィルターできないため、関係のない情報に邪魔されて判断力が鈍る。この調査結果は8月24日に刊行された「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されている。研究グループはさらに、先天的に集中力に欠ける人がマルチタスクを好むのか、それともマルチタスクを必要とするような状況によって物事を認識する力が次第に損なわれているのかを調査している。