厚生労働省は11日、医薬品のネット販売規制などについて議論する検討会の第6回会合を開いた。事務局から規制を緩和するための省令の改正案が示されたが、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏は会合後、「官僚が一から十まで決め、驚きを隠せない」と話した。

5月11日に開かれた「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」第6回会合

「議論をまとめるのは不可能」と検討会の報告書づくり断念

2006年6月に公布され、2009年6月1日から施行が予定されている改正薬事法では、リスクに応じて医薬品を「第1類」「第2類」「第3類」の3種類に分類。これに関し、2009年2月6日に公布され、2009年6月1日に施行される予定の「薬事法施行規則等の一部を改正する(厚生労働省)省令」は、「第1類」「第2類」の医薬品のネット・通信販売を規制する内容となっている。第二類の医薬品には、解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬、水虫薬、妊娠検査薬、漢方薬などが含まれ、省令が施行されるとこれらの医薬品のネット販売・通信販売ができなくなる。

一方厚労省では省令が公布された2009年2月6日、舛添要一厚労相の指示により、医薬品の販売方法を再度議論するため「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を設置。2009年2月24日に初会合を開き、関係者からのヒアリングなども含め議論を行ってきた。

4月28日に開かれた検討会の第5回会合では、北里大学名誉教授で座長の井村伸正氏が、「今回の検討会は、報告書にまとめるというところまで落とせない。構成員のよって立つ基盤が違い、議論をまとめるのは不可能」と総括。これを受け事務局(厚労省)から、離島など店舗のない場所で通信販売を利用している人や、特定の医薬品を継続して飲んでいる人などを対象に、明確な期限を設けて通信販売を継続するための措置を省令改正案に盛り込む方針が説明されていた。

離島居住者と継続使用者に限り「2年間」の経過措置

5月11日に開かれた第6回会合では、事務局が省令の改正案を提示。改正案は、(1)離島居住者に対する経過措置、(2)継続使用者に対する経過措置、の二つが大きな内容。離島居住者に対する経過措置では、6月1日の改正省令施行後2年間は薬局・薬店のない離島(本州・北海道・四国・九州・沖縄本島以外の島)居住者に対し、伝統薬などの薬局製造販売医薬品と第2類医薬品のネット販売を含む通信販売ができるようにするとしている。また、その際の販売記録の作成・保存義務も定めている。

継続使用者に対する経過措置では、2009年5月31日までにオンラインショッピングなどで伝統薬や第2類医薬品を継続して購入・使用している人に限り、改正省令施行後2年間は購入することができるようにする。改正省令案の公布時期は2009年5月下旬、施行は6月1日が予定されている。

だが、検討会の議論を途中で中断しての、厚生労働省側からの突然とも言える省令改正案に対し、検討会の構成員からは異論が次々と出た。楽天の三木谷氏は、「消費者のマーケットは刻々と動いており、(改正薬事法を議論していた)4年前とは全く違う状況にある。厚生労働省は(今回の省令によって影響を受ける人の)影響範囲の検討が不十分だったのではないか。そうした観点からは、改正省令案で同一の医薬品しか買えないというのはどうなのか。また離島に限るとしているが、他の過疎地の人や障害者の方々はどうなるのか」と発言。

全国薬害被害者団体連絡協議会の増山ゆかり氏は「薬はやっぱり一般の商品と違う。現状インターネットで何ができるかについて具体的な中身が煮詰まらないままこういう改正案が出されたのは残念」と議論が十分に行われないままの改正省令案提示に異論を述べた。全国消費者団体連絡会事務局長の阿南久氏は「継続使用者の経過措置だが、今使っているという(人や医薬品の)特定はできるのか」と疑問を提示。日本置き薬協会常任理事長の足高慶宣氏も「離島居住者と言うが、これからどんどん拡大解釈されていくのではないか」と懸念を表明した。

一橋大学大学院法学研究科教授の松本恒雄氏は、2年間という経過措置の期間の意味について、「2年間の間に、離島などで薬品が入手できないという状態を解消するという意味なのか、それとも2年間に通信販売のルールをきちっと決めていくという意味なのか、2年間とした心は何か?」と事務局に質問。これに対し事務局では、「改正薬事法の経過措置が2~3年なので、少ないほうの2年間をとった」と説明。「その後は原則に戻る」とした。これに対しケンコーコム社長で日本オンラインドラッグ協会理事長の後藤玄利氏は「どのように販売すればインターネットで安全に医薬品を販売できるのか、別の場で検討すべきだ。早急にそういう場を設けていただきたい」と事務局に要望した。

三木谷氏は「日本だけ時代錯誤な方向に」

検討会の終了前、日本置き薬協会の足高氏が「この検討会と改正省令案とはどういう関係になるのか? (検討会は)参考程度か?」と事務局に質問すると構成員や傍聴席から大きな笑いが起きた。事務局は「意見が一致していればその方向で(省令改正を)進めたのだが…」などと回答。足高氏は、「改正省令案で対面販売の原則を崩すならはっきりと崩せばいいのではないか。インターネット販売の位置づけをはっきりせず改正省令案を施行すれば、Eコマースを日陰者にするだけではないのか」と、なし崩し的な経過措置を非難した。

会合後、楽天の三木谷氏は記者団に対し、「官僚が一から十まで決めて、驚きを隠せない」と述べた

結局、検討会では報告書などがまとめられなかったため、「検討会の意見を参考にした」として、改正省令案を厚生労働省の責任でパブリックコメントにかけることになった。パブリックコメント後、集められた意見について検討会をもう一度開催し、公布・施行されることになった。

会合後、楽天の三木谷氏は記者団に対し、改正省令案について「離島だけで障害者の方も考慮しないなんて意味が分からない。ゼロ回答に近い」と批判。「世界の潮流がセルフメディケーションに向かっている中、日本だけが時代錯誤な方向に進んでいる。(ネット販売が禁止されれば)どれくらいの人が困るか調べようと思えば調べられるはずなのに、日本の官僚はそれもやらない。形式的で、この手続きは一体何なのか? 官僚が一から十まで決めて、驚きを隠せない」と述べ、今回の検討会における厚生労働省の対応を非難していた。