富士通は、アプリケーションの運用保守に新たな方法論を適用、強化する戦略を発表した。企業の運用・保守業務の負担を軽減することで、競争力向上に貢献するとともに、運用・保守領域のサービスを事業として育成、成長させることを目指す。

また、アプリケーション運用保守の品質向上、効率化のための先兵として、アプリケーション構造の複雑さを定量的に「見える化」することを可能にするツール「インパクトスケール」を提供する。

ここ数年、四半期ごとの決算発表の義務化、内部統制強化、セキュリティの洗練化、環境保護統制への対応など、企業経営を取り巻く環境は、きわめて高い速度で激しく変化しており、迅速な経営判断と行動がいっそう強く求められている。一方で、経営を支援すべき企業のITシステムはオープン化、マルチベンダー化とともに、利用する業務アプリケーションの数が増えることにより、システムの肥大化や複雑化が加速、IT投資全体の7割もの費用が、これらの運用保守に注ぎ込まれている。

富士通 植松一裕 常務理事 アシュアランス本部長

同社の植松一裕 常務理事 アシュアランス本部長は「情報システムは、変化に追従して、常に運用保守をし続けなければならないのだが、たとえば、ある企業が商品の新たな販売チャネルとして、ネット販売に着手する場合、機能を追加する必要が出てくるが、運用中の既存システムはなかなか止められないため、類似のシステムができてしまい、IT資産の量が増え、その分、遊休資産も増えていく」と指摘する。

アプリケーションの構造が複雑で、保守がし難い場合、保守工数が予想以上に増大、障害も多く発生する傾向がみられる。複雑で保守しにくいアプリケーションをいかに正確に把握し、運用保守を効果的に行うかが、企業の重要な課題になっている。

そこで同社では、こうした課題を解決するため、「アプリケーション運用保守の革新」を提唱、「IT投資」「現場」「アプリケーション資産」の3つを「見える化」をその中軸とする「アプリケーションポートフォリオマネージメントサービス(以下、APMサービス) 」を前面に据え、なかでも「資産分析サービス」を強化、経営戦略に適合したIT投資、人・プロセス・ITの改善、アプリケーション運用保守の品質向上を実現することで、現状では、IT投資全体の3割が戦略的IT投資、7割が既存システムの運用保守となっている「『3:7モデル』を、戦略的投資と既存システムの保守運用がほぼ半々の『5:5モデル』にしていく」(植松常務理事)ことを目指す。

「IT投資の見える化」では、投資案件を、経営戦略やビジネス動向など多角的な観点から、客観的に分析、評価し、あいまいな基準での判断を排し、経営戦略の理想像、売り上げへの貢献度などに即して、案件の優先度を決定することで、これらの採否判断にかかる時間を大きく短縮するとともに、効果的なIT投資の実現につなげる。

「現場の見える化」では、業務や運用保守の現場の状況を正しく把握するため、現場の要員の行動自体を観察する。たとえば、業務中の離席、立ち歩きが多かった場合は、動線に問題がないかどうかを確認、ここに原因があれば、動線を考慮した事務所レイアウト変更を実施するといった施策を行える。また、内部での問い合わせの傾向を分析、特定の人物からの問い合わせが多い、特定の日付にトラブル発生が多い、といった要因が浮上すれば、それらに応じた対策を講じることができる。

「アプリケーション資産の見える化」では、実際に稼動しているアプリケーションの現状を分析、重複しているものはないか、複雑さの度合いなどの点を精査する。

この工程での中核となるのが「インパクトスケール」だ。この新たなツールは、プログラムから呼び出される別のプログラムや、参照・更新されるデータを追跡し、それらの関係の強さで重み付けしながら計数することにより、そのアプリケーションの影響が波及する範囲を表現できる。

開発を担当した富士通研究所によれば、「インパクトスケール」の数値が大きいアプリケーションほど複雑で保守しにくく、障害を引き起こす可能性が高いことを実証できたという。

アプリケーションを構成するプログラムの関係性に着目し、複雑さを定量化する「インパクトスケール」

あるCOBOL言語アプリケーションのシステムを分析した事例では、「インパクトスケール」と従来の資産分析技術を組み合わせてアプリケーションの複雑さと障害との関係を評価したところ、運用中に発生した過去の障害のうち76%が、アプリケーション全体の内20%の複雑なアプリケーションで発生していた。

これにより、どれが、複雑で保守が容易でないアプリケーションであるかを正確に把握することが可能になり、アプリケーションを修正する際、影響調査や起こりうる障害を予防するためのテストを実行する際、課題の原因となるアプリケーションを見逃すことを回避できることから、運用保守の品質を高め、保守費用や期間などの見積り精度が向上するため、アプリケーション保守作業を計効率化できる。

これまでは、情報システム部門やベンダーの担当者がスキルや経験で属人的に保守していた。植松常務理事は「アプリケーションを長い期間使っていくうちに、恒常化していた属人的な保守業務を打破して、アプリケーションの複雑さを客観的な尺度で定量化できることが大きな成果」と話す。