地球温暖化の防止、二酸化炭素排出量削減に対し、ITはどうかかわっていくべきか、また何ができるのか、野村総合研究所(NRI)がこれらの問いに対し、環境に配慮したIT化、グリ-ンITについて一つの処方箋を提示した。

産業、運輸部門での温室効果ガス削減は進んでいる一方、かえって増加している業務、家庭部門での削減を推進すべきであり、特にIT機器利用時のエネルギー削減に努める必要がある。ただしITは、電力消費量を増大させ、温暖化を促進してしまう可能性があることを考慮すべきであり、ハードだけでなく、ソフト面での方策も重要であるとしている。

ITによる、社会全体の省エネ化が必要

国内のデータセンターの延べ床面積は、2007年度の時点で、1999年度の5倍に膨れ上がっている(同社調べ)。近年、大手ITベンダーは、さまざま切り口でデータセンターの省エネルギー対策に取り組み始めている。CPU、サーバ、ストレージの消費電力削減など、IT機器そのものへの施策、センター内の通気の効率化、空調機の効率向上化、直流による給電、冷却機の消費電力削減などセンターの構造的改善、さらには太陽光や水力による発電の利用、コジェネレーションといった、いわゆるクリーンエネルギーの利用まで、多様な手段がある。

社会全般のさまざま局面ごとでの、ITによる二酸化炭素排出削減につながる策は、たとえば生産/流通/輸送の現場では、まず足回りの面で最適ルート/時間帯に配送できるよう支援するITS(高度道路交通システム)やエコドライブシステムにより、エネルギーの利用効率を改善でき、SCMや再利用支援システムで物の生産、消費の量を制御できる。物流・配送管理システムは、人や物の移動が少なくてもすむようにできる。

いまだ省エネがそれほど進捗していない事務所/店舗では、いっそうのペーパーレス化、在宅勤務、テレビ会議などが有効に作用する。一般家庭では、電子出版、音楽/画像のネット経由での販売、オンラインショッピングがさらに普及すれば、やはり人、物の移動を少なくできることになる。

業界横断的な協力が不可欠、望まれる民生部門への対策

サプライチェーンの効率化の例としては、あるコンビニエンスストアでは、共同配送のしくみを考案、商品を温度管理の観点で分類、アイスクリームや冷凍食品、調理パンや惣菜、菓子/カップラーメン/ソフトドリンク/酒類、弁当、おにぎりなど米飯というように4つのグループに分け、それぞれを扱う4つの配送センターを設置し、配送業務の効率化に努めた。1店舗1日あたりの配送車両台数は2005年で8.9台だ。1990年には12台、1980年には34台だったという。同社理事の椎野孝雄氏は「1社だけで効率化を進めようとしても困難であり、製造業、卸などとの協力体制が必要になる」と話す。

運輸部門、産業部門、業務/家庭が属する民生部門のエネルギー消費(原油消費量で換算)動向を、時系列で比較(出所:経済産業省)すると、1990年から2005年までの15年で運輸部門は1.2倍、産業部門は1.0倍だったのに対し、民生部門は1.4倍と大きく増えている。「IT分野からみると、民生部門の省エネ対策をますます加速していかなければならない」(同社技術産業コンサルティング部上級コンサルタント中川宏之氏)状況だ。

法制面からの、エネルギー削減の基礎となる省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)は従来、一定規模(原油換算で、年間1,500キロリットル使用)以上の工場・事業所に対して、エネルギー管理を義務付けていた。しかし今後の改正により、企業単位でのエネルギー管理義務が導入され、フランチャイズチェーンでも、一事業者として、事業者単位と同様の規制がなされる見通しで、オフィス、コンビニなどの業務部門でも省エネ対策強化が求められる。

業務全体の革新で、新たなビジネスモデル創出へ

ITはいまや社会のあらゆる場面で不可欠であり、省エネ対策のための武器でもある。だが、ITは温暖化に対し「負」の影響をもたらす懸念がある。ディスプレイ、パソコン、ストレージ、サーバ、ネットワーク機器の5品目による消費電力は、日本では、2025年に2006年の5.2倍に、全世界では9.4倍に跳ね上がる、との予測(出所:経済産業省/グリーンIT推進協議会)がある。

これまでの省エネは、サーバ、ストレージの消費電力低減化、データセンターの効率化など、ハード面での対応が主流だったようだが、それだけでは限界がありそうだ。「アプリケーションのチューニング、プログラムの効率化により、ハードはそのままで2倍の処理ができるようになったり、業務、ビジネスのやり方を変革することで(省エネの)効果が上がる」(椎野氏)。要するに、ソフトの面からの対策を講じることが重要になってくる。

ここで同社が論点としている「ソフト」とは、パソコンの電源管理、サーバ統合化、仮想化といった、コンピュータプログラムの技術そのものに留まらず、IT組織改革、業務改革、ビジネスモデル改革なども含まれる。「仕事の仕方を変えることで効率化、生産性の向上が進み、利益にもつながる」。無論、これらの改革にはソフトの技術が欠かせない。椎野氏は「ハード資源はなるべく、再利用を推進し、ソフトを変革することで価値を変化させるべき」と指摘、ハードの時代から、ソフトの時代へと転換を図り、新たなビジネスモデルを開拓することを提唱する。