ノキア・ジャパンは、日本市場での企業向けソリューション事業の展開を強化する方針を明らかにした。欧米とは異なる国内の状況にさまざまなかたちで対応していくことに重点を置き、仕様、商習慣などの面で「日本化」を推進すると同時に、システムインテグレーターなどのパートナーとの連携を強め、協業を積極化する意向だ。携帯電話の普及率が向上、市場が飽和状況になろうとしているなか、単なる端末事業とは別の収益源の柱として、ソリューション事業の成長を図る。

同社では、「エンタープライズ・ソリューション事業部」をすでに3年以上前に始動させており、ビジネスをモバイル化させるとともに、多様な機器、企業内情報システムとの安全な接続によるデータ活用を主題としており、企業向けソリューションビジネスの先兵として位置づけられている。

ノキア・ジャパン エンタープライズ・ソリューションズ事業部 荒井真成カントリージェネラルマネージャー

企業で利用されるモバイル機器としては、いわゆる「QWERTY」のフルキーボードが必須であり、無線LAN機能の備えも要求される。同社では、こうした需要をにらんで、ビジネスユーザー向け3Gスマートフォン「Nokia E61」を投入、これを武器に、VPN(Virtual Private Network)を基盤として、企業で使用されているさまざまなデータベースやプラットフォームと交信できるしくみを構築する。ここで重要なのは、これら異なるシステムが混在し、複雑化している状況で「モバイル向けのミドルウェアを載せ、データベースなどの違いを吸収する」(ノキア・ジャパン エンタープライズ・ソリューションズ事業部 荒井真成カントリージェネラルマネージャー)ことだ。

同社は国内市場での企業向けソリューション事業拡大にあたり「国内需要≧グローバル供給」をキーワードとして掲げている。荒井氏は「日本市場はかなりユニークだ。品質への期待値が極めて高く、品質向上のためのコストも高くなる。パ-トナー経由の事業構造がシステマティックにできている。日本独自の仕様、プロトコルなどもある」と指摘。さらに「日本独特の要因を取り入れ、日本市場に適合した製品、サービスを提供する」と語り、パートナーとの協力関係を強化しながら、新たな分野への浸透を目指す。

「国内需要≧グローバル供給」を実行するため、同社は国内の組織体制を整備。「ビジネスディベロップメント」を新設し、販社、製品の垣根を越え、国内のユーザー、パートナーの生の声を聴取し、海外にある開発の中枢へと直接伝えるという。これまで、国内で活動する外資系企業の場合、日本の状況を海外の本社に報告するのが遅れたり、日本市場を統括する「アジア・太平洋」部門経由での情報提供となり、十分に実相が伝達されないなどの弊害があったが、同社はこの手法により、そうした機会損失の発生を防ぐ。

ノキア・ジャパン エンタープライズ・ソリューションズ事業部 プロダクトマーケティング アンド ビジネスディベロップメントの新免泰幸ディレクター

同社 エンタープライズ・ソリューションズ事業部 プロダクトマーケティング アンド ビジネスディベロップメントの新免泰幸ディレクターは「グローバルスタンダードを日本にあったようにカスタマイズして、適用していく」と述べ、「グローバルな規格について、多くのエンドユーザーの声を聞き取り、製品をどうしたいか、どのような製品が欲しいのかといった点を、どの外資系ベンダーよりも多く聞いていきたい」としている。

サービス面では、VoIPのアプリケーション/ASPで、国内独自の協業を推進していく意向で、すでに一部着手を始めている。無線による電子メールを活用した、企業内メールシステムとの連携、IP-PBXとモバイル端末の連動システム、シンビアンOS上への業務アプリケーションのつくりこみ--といったメニューが考えられている。また、事業計画の策定、企画から、実装、運用、最適化などの一連の流れを管理し、システムの監視、データ保全性の維持などを含めた「アドバンスド"ライフサイクル"サポートサービス」の展開も視野にある。従来、モバイル機器は、通信事業者のネットワーク内で保護されていたが、無線LANで直接インターネットに接続できるようになり、外部からの脅威」(荒井氏)が出てくることから、セキュリティー強化サービスの需要拡大を見込んでいる。

また、製品では、IPのセキュリティーを管理するアプライアンス製品の品揃えをさらに充実化していく方針で、今後は「ハイエンドのUTM(Unified Threat Management:セキュリティ機能が統合された機器)市場向けの製品を投入する」(新免氏)予定だ。

同社は世界的な携帯電話メーカーであり、すでに幅広い領域で多角的に他の企業との協力関係を築いている。基盤システム、ビジネスへの適用、セキュリティなど、事業戦略の階層ごとに米アバイア、米シスコシステムズ、富士通、SAPなどと連携している。だが、今回の国内での施策では、「国内の需要によりフォーカスした製品、サービス」(新免氏)が目標であり、国内独自の取り組みも求められる。新免氏は「製品をどんな哲学で国内展開するか。ローカルのコンセプトを構築するため、パートナーと共同のプランニングのなかで定義する」と話しており、「日本化」にはかなり踏み込んだ姿勢を示している。