三井不動産グループでは、ロゴマークの「&」に象徴される「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、グループビジョンに「&EARTH」を掲げています。街づくりを通して、人と地球がともに豊かになる社会に向けた取り組みをお届けしています。
昨年3月には、食の事業開発を支援するプラットフォーム&mogを始動。地元飲食店や商社など30以上のパートナーと連携し、食産業が抱える社会課題の解決に取り組んできました。
本記事では、食産業が抱えるフードロスや担い手不足などの社会課題解決を目指す「食のイノベーション」の取り組みをご紹介します。
&mogでは、食品メーカーや飲食店のシェフ、日本橋の老舗企業、スタートアップなど多様なプレイヤーとの共創を通じて、社会課題の解決と付加価値の創出に挑戦しています。推進中のさまざまなプロジェクトからいくつかご紹介します。
01社会課題解決につながる「食のイノベーション」で街を活性化
「おから」などの食料残渣とこんにゃくを組み合わせたアップサイクルフード「Deats」。食品ロス低減にもつながり、体にもやさしいヘルシーな食材です。
&mogでは日本橋の飲食店や百貨店の食品バイヤーが参加する試食会を開催し、こうした次世代食材の認知獲得機会を提供。これまでは大規模展示会などでの展開が一般的でしたが、生活者への訴求が重要になる食産業に対して、&mogでは販売現場や生活者に近い人々との接点を生み出しています。
日本橋のレストラン「食の會 日本橋」でも、植物由来の素材を使用した明太子風ペーストを使った「明太パスタ」の提供を実施。街の飲食店での提供を通じて、認知獲得と販路開拓の機会を創出しています。
02フードロス削減と脱炭素化を目指したお弁当を販売
味の素株式会社が展開する「捨てたもんじゃない!™」は、食材を無駄なく使い切るレシピを提案し、実践時のCO2削減効果をEarth hacks株式会社が提案する「デカボスコア」として可視化することで、家庭内のフードロス削減を目指した取り組みです。このレシピを活用したランチボックスを、食品ロス削減月間の目玉商品として東京ミッドタウン八重洲内の「チカバキッチン」や日本橋の「コレド室町 カドチ」、日本橋に出店するキッチンカーなどで販売しました。
さまざまな媒体を通じてこの取り組みを広げたことでオフィスワーカーを中心に好評を得て、家庭でのフードロス問題や、「捨てたもんじゃない!™」レシピの認知拡大といった波及効果も生まれました。
03国内最大のフードテックカンファレンスを日本橋で開催
シアトル発の世界規模のフードテックカンファレンス「Smart Kitchen Summit (SKS)」の日本版「SKS JAPAN 2024 -Global Foodtech Summit-」を、東京・日本橋の「コレド室町テラス」で開催しました。
株式会社UnlocXと三井不動産の共催による本イベントは、「食×テクノロジー&サイエンス」をテーマに掲げ、国内外から約100名の登壇者を招き44のセッションを実施しました。会期中は街へ染み出し、会場周辺にキッチンカーや屋台を設置した生活者向けの展示なども展開。国や産業の垣根を超えた共創を行える環境づくりを目指し、街づくりを通したコミュニティの形成と社会実装に向けたアクションを創出しています。
04気鋭の新飲料開発スタートアップの商品開発をサポート
複数の植物素材を独自の冷温減圧技術で抽出したプレミアムノンアルコール飲料を開発するCOLDRAWは、「CES 2024」でのアワード受賞や、日経クロストレンドの「未来の市場をつくる100社」選出など、革新的技術が高く評価されるスタートアップです。欧米や若者を中心に広がる「あえてアルコールを飲まない」という価値観を受けて開発されたプロダクトは、新しい飲料体験として人気を集めています。
商品開発だけでなく、日本橋のシーズンイベントやホテルと連携することで、街へ実装されるまでの一連のフェーズを共創します。
2025年2月下旬に、日本橋を中心に取り組む食のイノベーション創出プロジェクト「&mog by Mitsui Fudosan」の一環として、食の研究開発拠点「&mog Food Lab」が開業しました。
今回開業した「&mog Food Lab」は、食関連企業の「自前の研究開発施設を整備する投資余力が無い」「新規事業開発用の活動拠点が無い」「試食会に適したスペースが無い」等の事業課題に応える施設です。厨房設備の他、施設内に試食会スペース、撮影スタジオを完備し、事業開発プロセスの一環である「試作品開発」をサポートします。 また、本ラボで開発された商品を三井不動産の商業施設や日本橋の飲食店で販売し、新規事業の開発から都市実装までをワンストップで支援します。
01ワンストップで「食の研究開発」を支援
「&mog Food Lab」は厨房設備や試食会スペース、撮影スタジオを備え、ワンストップで「食の研究開発」を支援。スタートアップ企業や大手食品メーカー新規事業部門などの食プレイヤーへ活動場所を提供し、イノベーション創出を推進します。さらに本ラボに入居する企業に対しては、研究開発拠点の提供に留まらず、三井不動産が運営する商業施設等を活用したマーケティング支援や、日本橋飲食店とのメニュー連携、30社以上の&mogパートナーとのマッチング機会の提供などを実施し、ハード・ソフトの両面から食の事業開発を支援することを目指します。
02入居企業について
この新たな施設の誕生により、日本橋から食のイノベーションがさらに加速し、地域と食産業の未来に大きな影響を与えることが期待されています。
日本橋街づくり推進部 柿野陽
日本橋街づくり推進部 吉田信貴
文化と商業の中心地としての長い歴史を持つ、東京・日本橋。三井不動産では「食」をテーマにした新たな街づくりを推進しています。今回は、日本橋街づくり推進部で&mogプロジェクトに携わる柿野陽と吉田信貴の二人に、日々の活動やこれからの展望について聞きました。
日本橋から始まる「食」のイノベーション
― お二人の仕事の内容と、これまでの経歴を教えてください
柿野:日本橋街づくり推進部は、ライフサイエンス、宇宙、食、モビリティなどの領域で産業創造に取り組んでいる事業グループです。私と吉田は食とモビリティを担当しています。2024年3月に始動した&mogは、食品メーカーやスタートアップと日本橋の老舗企業や料理家などとのコラボレーションを推進することで、「食」に関する事業開発をワンストップで支援するプラットフォームです。 私自身は2021年の中途入社で、いま3年目です。以前は在京キー局のひとつであるテレビ局で9年間働いていたんですが、街づくりに興味を持って転職しました。
吉田:私は新卒で入社して2年目ですが、働き始める前にイメージしていた不動産業とはずいぶん違った仕事で、毎日が新鮮な発見の連続です。建物の開発やイベントの企画からホームページの作成まで、幅広い業務に携わっています。
― なぜ、&mogは「食」をテーマにするのでしょうか?
柿野:「食」による街づくりは各地で行われていますよね。仙台の牛タンや博多のとんこつラーメンのように、その街で有名な食事はその街のイメージにつながっています。日本橋エリアにも寿司や鰻などの有名店が古くからありますし、商業施設の開発においても飲食店の誘致は重要なコンテンツです。
これまでは完成された「食」を街に持ってきて提供するという観点が中心だったんですが、新しい「食」をつくりあげていく段階から携わり、街づくりに還元していくこともできるはずです。日本橋エリアの街づくりを続けてきた三井不動産だからこそ、「食」の産業創造にも力を発揮できるのではないかと考えています。
スタートアップと伝統が日本橋で出会う
― 具体的にはこれまでにどんな取り組みをしてきましたか?
吉田:一例として、定期的に「食」のミートアップイベントを開催しています。新しいプロダクトを開発しているスタートアップと、日本橋の老舗の飲食店や百貨店のバイヤーの方々との出会いの場をつくり、試食会などを行います。こうした意見交換の機会は、スタートアップにとって貴重です。
昨年10月には、「Smart Kitchen Summit (SKS)」というカンファレンスの日本版「SKS JAPAN 2024 -Global Foodtech Summit-」をコレド室町で開催しました。世界各国からフードテック企業が集まるイベントで、今回から三井不動産が共催として関わっています。前回まではどちらかというとBtoB向けだったのですが、今回はコレド室町の中通りにキッチンカーや展示ブースを展開するなど、街に染み出していくイベントを目指しました。実際に多くのファミリー層やビジネスパーソンに足を運んでいただき、まさに「場」というアセットを持つ三井不動産が食産業に取り組むことの意義を感じました。
柿野:毎年夏に開催している「大屋根夏祭り」では、大学発スタートアップのフェルメクテスという企業のサンプリング調査を実施しました。このスタートアップは納豆菌を量産できる技術を持っているんですが、製品化して世の中に届けていくところに課題を抱えていました。そこで、私たちは協力して料理家の方とともにレシピを開発し、納豆菌の粉を使ったフィナンシェをつくりました。できたフィナンシェのサンプルを大屋根夏祭りに来場した30〜40代の主婦層を中心に配り、400件以上の声を集めることができました。このときのデータは、後日フェルメクテスがピッチコンテストで優勝した際のプレゼン資料にも活用されたそうです。
吉田:また、「食の會 日本橋」というお店に協力していただいて、プラントベースの明太子の実証実験も行っています。プリン体ゼロの健康志向な明太パスタとして提供を始めたんですが、最初はあまり注文が入らなかったんです。私自身もそうですけど、ランチでしっかり食べたいときに健康志向のパスタはちょっと頼みにくいですよね。そこで、普通の定食に追加できるハーフサイズを用意したり、夜のコースメニューの小鉢に使ってみたりと、いろいろ工夫していただきました。見せ方をちょっと変えるだけで、消費者の反応が変わるんだと実感した事例ですね。
新産業を育て、都市に実装していくために
― 「食」の領域ならではの面白さはどんなところに感じますか?
柿野:ライフサイエンスや宇宙のような領域よりも、ずっと「入り込みやすい」ところですね。食品メーカーの方と一緒に商品設計を考えるのも楽しいですし、商業施設といった「ハード」や地元の方々とのリレーションといった「ソフト」の両方のアセットを活かしやすい領域ではないでしょうか。
吉田:生産者側と消費者側のどちらの視点にも立てるところでしょうか。事業開発の支援をするなかで生産者の立場でビジネスに取り組める一方で、試作品を実際に食べてみて消費者目線でのフィードバックもできます。専門的に味の評価はできなくても、味の好みやコンセプトの面白さといった意見は出しやすいですから。両方の視点から考えられるところは「食」事業の魅力だと思います。
― さまざまなパートナーとの協業で心がけていることはありますか?
柿野:私たちが地元企業の方々と自然にコミュニケーションできているのは、先輩たちが「日本橋再生計画」を通して築いてきた関係性があるからだと思っています。その点は本当にありがたいですね。
私たちは「食」を通じた街づくりを意識していますが、スタートアップの方にとっては必ずしもそうではありません。たとえば、食品工場で稼働する工業ロボットと日本橋の街とはマッチングしにくいですよね。新技術がどのように街のなかで生かされるだろうかとイメージすることは大切にしています。日本橋を訪れる人や飲食店を営まれている人たちの利便性を考えていくことで、自然に社会課題解決にもつながっていくものだと感じます。
吉田:いろいろな場所に足を運び、自分の目で見たり実際に食べたりすることを大切にしています。開設準備中の「&mog Food Lab」というラボの設備を選んでいるんですが、さまざまな種類の専門機材があってわからないことばかりです。いろいろな方のお話を聞いたり実際に体験したりしながら、私たちも「食」のプレイヤーの一員として受け入れていただけるように心がけています。
柿野:三井不動産の事業は「食」とは競合しないので、本音で話していただきやすいという側面はあるでしょうね。中立的な立場だからこそ聞けることがあるし、できることがあるのかなと思います。
― 今後の展望を聞かせてください。
柿野:首都高の地下化工事が進んでいて、2040年頃には日本橋の上に架かる高速道路が撤去される計画があります。少なくともその頃までは「日本橋再生計画」は続いていきますし、日本橋エリアの進化も続くでしょう。&mogのプロジェクトもどんどん大きくしていきたいですね。
「食」は消費者の求めるハードルが高い産業領域です。社会的意義のあるプロダクトができても、もっと安い商品が隣に並んでいたら簡単には選んでもらえません。そうしたハードルがあるなかで、どうやって新しい産業を育てて都市に実装していくのか。とてもやりがいのあるチャレンジだと思っています。
吉田:個人的には、&mogを通して得られた経験を活かし、再開発事業などにも携わってみたいです。開発中の&mog Food Labでは、既存の建物を活用しながら施設をつくっていくことの大変さと面白さを実感しています。いずれは「食」だけでなくさまざまな領域を横断して、より幅広い街づくりに取り組んでいけたらと思います。