企業、組織の内外に存在する膨大なデータ。近年、これが経営層の意思決定だけでなく、従業員の業務を高密度化、迅速化するうえでも有効となることが周知されつつあります。セルフサービスBIとも呼ばれる現場でのデータ活用は、いまや実利用のフェーズに至っているといえるでしょう。国内最大規模の通信事業者であるソフトバンク株式会社も、こうした"経営"と"現場"、双方の視点から積極的にデータ活用を進めている企業の1社です。

2015年に「ビッグデータ戦略本部」を設置して以降、同社ではデータを活用した取り組みを本格化。データを企業経営で活用するだけでなく、各事業部門が独自に活用策を模索することで、企業としての総合力を高めています。2017年には、携帯キャリアショップや量販店といった同社の販売チャネルにおけるサービス品質向上、そして営業担当が営業活動に専念できる環境づくりを目指し、Power BIを導入。一部門による独自の取り組みとして進められた現場でのデータ活用は、業績への好影響というインパクトの大きな成果を生み出しました。

ソフトバンク株式会社

プロファイル

日本国内における移動通信サービスをはじめ、固定通信サービス、インターネット接続サービスなどを展開するソフトバンク株式会社。一般社団法人電気通信事業者協会(TCA)がまとめた日本国内での携帯電話契約数は、2017年3月末時点で約3,931万契約(PHSを除く)に達し、国内携帯電話市場において大きなプレゼンスを有しています。

導入の背景とねらい
1日数時間を要していた訪問準備。営業現場におけるデータ活用の効率化が急務に

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 第1営業統括部 統括部長 川村 知広氏

移動体通信業者の1つとして約3,900万(PHSを除く)の携帯電話契約を抱えるほか、固定電話やブロードバンドサービスなどさまざまなサービスを展開するソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)。同社が保有するデータは、携帯キャリアショップの顧客情報、通信接続のリアルタイムデータなど、非常に多岐にわたります。そしてこれらのデータをアウトプットする場もまた、経営会議や営業現場など多様です。

ソフトバンクではかねてより、情報資産の有効活用に向けた取り組みを推進。2015年には新たに「ビッグデータ戦略本部」を組織化することで、これを本格化しています。データ活用を全社的に進める動きは、「データを現場でも有効に活用しよう」という従業員の意識をも大きく高めているといいます。代理店の携帯キャリアショップを統括する、ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 第1営業統括部 統括部長 川村 知広氏は、こうした「現場でのデータ活用」が、いまや業務において不可欠になっていると説明します。

「私の部門の使命は、『いかにして各店舗のお客様を拡大するか』となります。ニーズに適合したキャンペーンの立案、特性に合わせた接客、ピークタイムでのスタッフ数の確保など、店舗の売上を左右する要因はさまざまであり、営業担当は、店舗がある各エリアの地域性も考慮してこの要因を把握しなければなりません。競合他社の動向や過去実施したキャンペーンの成否なども正確に把握して、お客様拡大に向けた策を各店舗と協議する。そのためには信頼性の高いデータと、その正しい分析結果が欠かせないのです。MVNOの登場もあり、現在、市場には多くの競合他社が存在します。その中でお客様にご満足いただけるサービスを提供し続けるのに、現場でのデータ活用は不可欠だといえるでしょう」(川村氏)。

こうした現場でのデータ活用は、これまで下表にある流れで進められてきました。

同部門における、これまでのデータ活用の流れ
1.各営業担当が、営業活動を支援するセールスサポート部門に対して必要なデータをリクエスト
2.セールスサポート部門が全社システムで整備するDWH上に集約された各種情報へアクセスし、リクエストされたデータを取得
3.セールスサポート部門が営業担当へデータを引き渡し
4.営業担当がExcelやPowerPointなどを利用して独自で分析、加工したものを訪問時に所持

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第三本部 東海北陸統括部 統括部長 川越 浩美氏

しかし、川村氏が触れたように、店舗ごとで参照するデータやみるべき視点は異なります。1つひとつの訪問先に合わせてデータを取得してそれを資料化する。こうした事前準備に要する工数は、個人のキャパシティを大きく切迫する要因と化していたといいます。この点について、東海および北陸圏を統括する、ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第三本部 東海北陸統括部 統括部長 川越 浩美氏は次のように説明します。

「携帯キャリアサービスの契約は非常に複雑です。新規契約、機種変更、回線サービス契約、オプション契約など、契約と一口にいってもそこにはさまざまな情報が付帯しており、営業担当はこれを時間別、日別、月別とあらゆる時間軸で把握しなければなりません。訪問前にはこれらの情報をまとめる作業が必要であり、そこには数時間を要していました。この作業時間が、個人のキャパシティを大きく切迫する事態を引き起こしていたのです」(川越氏)。

また、キャパシティの切迫以外にも、人海戦術的なデータ活用には課題が存在していました。営業担当が加工して所持するデータは、商談を行う訪問先ではあくまで静的な情報となります。川越氏は、「商談の過程で別の情報を確認しなければならなくなった場合、事前にその情報を準備していなければ議論を発展させることができません。社に持ち帰って再度データを手配する。そして加工して再度訪問する。このリードタイムは、ビジネスを滞らせる大きなボトルネックといえました」と、この点を説明。競合他社もさまざまな策略を練る中、施策の検討から実行までのスピードを阻害する先の状況は、ビジネスチャンスを逃すリスクを内包していたのです。

システム概要と導入の経緯、構築
データソースを容易に作成でき、高いセキュリティ水準も備えるPower BIを採用

キャパシティの切迫を解消し、商談の速度と精度も向上する。この命題を達すべく、ソフトバンクコンシューマ営業本部は、日々の営業活動での利用に特化したBI製品の採用を検討。全従業員へ配付するiPadで閲覧できることを条件とし、製品の選定を開始します。

商談に必要なすべての情報をiPad上で閲覧できれば、事前準備の過程を省略し、なおかつ商談内の議論に合わせてさまざまな視点からデータをみることができるでしょう。しかし、2万人近くの従業員を抱えるソフトバンクにとって、1部門で独自アプリケーションを利用することは、運用管理の問題や情報ガバナンスの観点から高いハードルがありました。この点について川越氏は、過去、導入に至ることができなかった製品を例に説明します。

「BI上で扱う情報は、お客様の契約情報も含みます。クラウドサービスを利用する場合、外部サーバーにこの情報を格納することとなり、きわめて高い水準のセキュリティが提供ベンダーに求められます。これまでに何度かクラウド型BI製品を検討したのですが、このセキュリティの課題をクリアすることができませんでした。オンプレミスならばこの点が解消できるものの、一部門の取り組みとして進めるにはシステムの構築、管理に要するリソースを確保しなければならず、これも現実的ではありません。結果として、課題を抱えたまま時間だけが経過していました」(川越氏)。

当時検討したクラウド型BI製品は、利便性の面でも問題があったといいます。全社ITのDWH(データウェアハウス)環境とクラウド型BIサービスとを接続してデータ連携することは、ガバナンスの観点から不可能です。そのため、DWH環境からエクスポートしたデータをもとにローカル環境でデータソースを作成し、それをBIサービスへアップロードするという作業が必要となります。先の製品はデータ ソースの作成支援ツールがなく、BI上の情報を更新するたびに多くのリソースを費やす必要がありました。また、商談で必要となるあらゆる情報を網羅するには、ダッシュボードを数多く構築しなければなりません。同製品はこのダッシュボード構築の柔軟性も、乏しかったのです。

こうした背景から、ソフトバンクコンシューマ営業本部ではiPadで閲覧が可能なことに加え、高いセキュリティ水準と優れた利便性を備えることも条件とし、クラウド型BI製品についての調査を続けます。そこで同社が選定したのが、マイクロソフトが提供するPower BIです。

Power BIは、データの管理者がレポートを作成するPower BI Desktopと、それをユーザーが参照するPower BIサービスで構成されるBI製品です。川越氏は、このPower BIを選定した理由について、次のように説明します。

「Power BIではDWHからエクスポートしたデータをPowerPivotで取り込むだけでデータソースを作成でき、後はそれをPower BIへアップロードするだけで利用することができます。また、Power BIでは非常に容易に、高度なダッシュボードを作成できます。実際、特別なIT知識をそれほど持たない私でもこれらの作業を行うことができ、一部門が利用する製品としては最適だと感じました。既に営業部隊のキャパシティは限界に達しており、Power BIを利用しなければ事業のスピードが落ちることも考えられました。早急にこれを導入すべく、Power BIの利用を社内に申し出たのです」(川越氏)。

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 セールスサポート部 サポート3課 課長 風間 一樹氏

OLAPやデータマイニングに必要な多次元データベース(データソース)は、一般的にはSQL Server Analysis Services(SSAS)といったデータベースアプリケーション開発者が利用する専門ツールで作成することとなります。これがExcelのアドインであるPowerPivotでの作業で代替可能なことは、一部門での取り組みにおいて大きな利点だといえました。

また、ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 セールスサポート部 サポート3課 課長 風間 一樹氏は、セキュリティ水準についても、Power BIは高い信頼性を有していたと続けます。

「Power BIは世界水準のセキュリティを備えるマイクロソフトのサービスであり、同社はSaaS、PaaS、IaaSのすべてでCSゴールドマークを取得しています。また、Power BI Proでは、Active Directoryフェデレーションサービスと連携して、ユーザーグループごとでアクセス権限を設定することも可能です。プラットフォームとしての信頼性が高く、利用時のリスクを低減する機能も備えるPower BIは、全社ITの承認を得るのに必要な要件を備えていました」(風間氏)。

導入の効果
深い洞察が得られるダッシュボードを整備することで、「店舗の問題点の発見」「原因の究明」「解決策の議論」がワンストップで行える環境を実現

ソフトバンクコンシューマ営業本部は、全社ITから承認を経た2016年下旬、Power BIの導入を正式決定。サービスイン後の改良によって環境の最適化を図っていくイテレーションモデルを採用し、環境の構築を進めます。2017年4月からは関東圏のコンシューマ営業本部で利用を開始し、その後東海圏など、展開範囲を拡大。同年8月段階では、当初の3倍程度のユーザーがPower BIを利用しています。

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 セールスサポート部 サポート3課 山崎 健一氏

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 セールスサポート部 サポート3課 武田 勇治氏

構築作業を担当した、ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業第二本部 セールスサポート部 サポート3課 山崎 健一氏と武田 勇治氏は、ダッシュボードを容易に作成できるPower BIの特徴が、PDCAサイクルで構築を進めるうえで大きく貢献したと語ります。

「これほどに複雑かつ膨大な量のデータを扱う場合、通常は高度な計算式を記述してデータモデルを整形し、ダッシュボードを作成することとなります。当然、これには専門知識が必要ですし、1つのダッシュボードを作成するのにも多大な時間を要します。Power BIではData Analysis Expressions(DAX)と呼ばれる数式を利用することにより、これが容易に作成できます。はじめに覚えるべき構文や関数はあるものの、基本的にはExcelのマクロと同じ使い勝手で利用可能なため、迅速に利用を開始することができ、またPDCAサイクルをまわしながら改良を進めることができました」(山崎氏)。

「構築着手からまだ半年あまりですが、タイル化した複数の情報から構成されるシートの数は既に350に達しています。タイルをタップすればドリルダウンも可能です。ユーザーは、ダッシュボードで参照したいシートを選択し、そこでまず大局的な視点から問題点を発見する。そして各タイルの情報をドリルダウンしていくことで問題の要因を特定する、という形で利用することができます。こうした高い利便性をもったBI環境は、Power BIの特徴であるダッシュボード作成の容易性、そしてiPadなど各端末に最適化したアプリケーションを活用したからこそ構築できたと感じています」(武田氏)。

左下のタイルをドリルダウンする前(左)と後(右)の画面。山崎氏が触れたように、大局的な視点からドリルダウンしていくことで、ユーザーは問題の発見からその要因特定までをスピーディに行うことができる。350ものシートが用意されているが、ダッシュボードの構成をシンプルにすることで、 BIに必要なガバナンスや管理性を担保しつつ、ユーザーが利用しやすい環境を実現している

本格展開からまだそれほど間もないながら、Power BIの導入は既に、コンシューマ営業本部の業務に対して好影響をもたらしています。2017年度における同部門の業績は、激しく変化する業界にあっても順調に伸張しており、川越氏はPower BIの採用がこれに大きく貢献していると笑顔で語ります。

「これまで、たとえば契約件数の日ごとの差異を議論する場合、『差がある』という事実は提示できても、その場で原因の特定にまで到達することはほぼ不可能でした。それが今では、日ごと、時間帯ごとの来客数や対応スタッフ数をその場で店舗側と確認しながら『人が多く来店する時間帯にスタッフ数を増員しているか』といったことについて協議することができます。店舗の問題点を発見して、原因を究明する。そして解決策を議論する。この一連のプロセスが一度の商談の中で、しかもあらゆる営業現場で実現できるようになったことは、間違いなくわれわれの業績、そして当社のサービス品質に好影響をもたらしているでしょう」(川越氏)。

ソフトバンクの営業担当と店舗スタッフが協議するようす。Power BI を閲覧しながら、その場で説得性の高い情報のもとで議論を発展させることが可能

業績には多くの要因が介在するため、Power BIによる効果を明確化することは困難といえるでしょう。しかし、従業員の工数削減という側面においては、その効果は劇的です。データの集計や資料作成といった事前準備がまったく不要となり、iPadを所持するだけで商談できるようになりました。毎日多くの時間を費やしていた事前準備を排除したことは、大きな成果だといえるでしょう。

川村氏は、キャパシティの切迫を解消し、営業部門が本業である営業活動に専念できるようになったことの意義について、次のように説明します。

「商談前の準備は、本業ではない『効率化、自動化すべき業務』です。これは商談準備だけでなく、社内会議用の資料準備なども該当します。Power BIの大きな利点は、ユーザーが参照するデータを一元化できること、つまり全員が同じデータを利用して商談や社内会議に利用できるという点といえるでしょう。この特徴を活用すれば、社内会議においてもPower BI上のデータのみで業績を報告したり議題について議論したりすることが可能です。個人のキャパシティを切迫することは、組織のパフォーマンスを落とす因子となります。商談準備だけでも 『効率化、自動化すべき業務』の時間を削減してその分のキャパシティを確保したことは、われわれが今後も事業を発展させていくうえで、大きな意義をもつでしょう」(川村氏)。

今後の展望
さらなるサービス品質の向上につなげるべく、BI環境を発展させていく

顧客ニーズに即したキャンペーンの展開、来店した顧客を待たせることのない人員配備など、ソフトバンクが提供するサービス品質は今後、全国的に、いっそう高まっていくことでしょう。山崎氏と川村氏は、早期にこれを実現すべく、Power BIに取り込むデータのリアルタイム性の向上と、ナビゲーションの簡素化を進めていきたいと語ります。

「現時点では1日1回、手作業でデータソースを作成してPower BIへアップロードする形でデータを更新しています。この周期を短期化すれば、たとえば取り組んだキャンペーンの成果を当日中に検証するなど、より高いスピード感でサービス品質の向上に取り組むことができます。現在手作業で行っている業務を自動化することで、少しでもリアルタイム化に近づけたいと考えています」(山崎氏)。

「情報量としては既に十分だといえるでしょう。ただ、それゆえに、ユーザーによっては必要な情報に到達するまでに時間を要することがあります。今後ナビゲーションを簡素化することで、情報到達までのスピードも高めていきたいと考えています。今後もユーザーが短時間で深い洞察が得られるよう、改良を進めていきます」(川村氏)。

企業全体だけでなく、部門単位でもビッグデータの有効活用を進めるソフトバンク。こうした先進的かつ有効な取り組みの数々により、ソフトバンクは今後も、市場において高い評価を獲得し続けるに違いありません。

写真左より:ソフトバンク株式会社 鈴木 章太氏、西田 光希氏、鈴木 美紗氏、山崎 健一氏、武田 勇治氏、槙 玲美子氏、風間 一樹氏

「これまで、たとえば契約件数の日ごとの差異を議論する場合、『差がある』という事実は提示できても、その場で原因の特定にまで到達することはほぼ不可能でした。それが今では、日ごと、時間帯ごとの来客数や対応スタッフ数をその場で店舗側と確認しながら『人が多く来店する時間帯にスタッフ数を増員しているか』といったことについて協議することができます。店舗の問題点を発見して、原因を究明する。そして解決策を議論する。この一連のプロセスが一度の商談の中で、しかもあらゆる営業現場で実現できるようになったことは、間違いなくわれわれの業績、そして当社のサービス品質に好影響をもたらしているでしょう」

ソフトバンク株式会社
コンシューマ事業統括
コンシューマ営業統括
コンシューマ第三営業本部
東海北陸第一統括部
統括部長
川越 浩美氏

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