既存の産業と組み合わせることで新たなビジネスの可能性を生みだすITは、ユーザー企業が有効に活用してこそ大きな価値を生みます。この事実は、海外においては広く理解されています。たとえば米国のITエンジニアの分布を見ると、ITサービス業に従事しているのは全体の3割足らずであり、残りの7割以上はユーザー企業に勤めているのです。

しかし、日本はこの真逆であり、ユーザー企業に勤めるITエンジニアの数は全体の3割に留まっています。これはIT化に関する日本企業の消極性を表しているといえるでしょう。こうした状況の中、2015年より経済産業省が発表している「攻めのIT経営銘柄」に3年連続で選定されるなど、製造業におけるIT推進の旗手となっているのが、JFEスチール株式会社です。

世界有数の鉄鋼メーカーである同社は、設立された2003年より「攻めのIT」の姿勢を一貫してきました。2015年からは、ホストコンピューター上で稼働する多くの基幹系システムをオープン化するという巨大プロジェクトを開始。その初期事例であるJFE統合現品DBの取り組みでは、SQL Server 2016やWindows Serverといったマイクロソフトプラットフォームが採用されています。

JFEスチール株式会社

プロファイル

JFEスチール株式会社は、国内2位、世界8位の粗鋼生産量を誇る鉄鋼メーカーです。同社は、東京スカイツリーに用いられた従来比約2倍の強度を持つ円形鋼管や、電気自動車のモーターのための高機能電磁鋼板など、時代のニーズに応える「最先端の鉄」を開発、製造し続けています。

導入の背景とねらい
「攻めの IT」の継続には、ホストコンピューター環境のオープン化が不可欠だった

JFEスチール株式会社 理事 IT 改革推進部長 新田 哲氏

旧川崎製鉄株式会社と旧日本鋼管株式会社の経営統合によって2003年に設立された、JFEスチール株式会社(以下、JFEスチール)。日本を代表する鉄鋼メーカーである同社は、設立時から「攻めのIT」の姿勢を一貫することで、粗鋼生産量世界8位(2016年、世界鉄鋼協会調べ)という高いプレゼンスを市場に示し続けています。

同社のIT活用は、常に「業務改革」を意識して進められてきました。たとえば経営統合に際するITインフラ整備では、基幹系システムを単に統合するのではなく、その先の業務変革を見据えたプロジェクトとして新統合システム「J-Smile (ジェイスマイル)」を構築しています。また、2010年には、需要動向に即して最適な販売、生産計画を策定すべく、新システム「JFE-Flessa(ジェイエフイーフレッサ)」の運用を開始。こうした同社のITに対する前向きな姿勢は、経済産業省が毎年発表する「攻めのIT経営銘柄」に3年連続選定されていることからも推して知ることができます。

同社のIT方針について、JFEスチール株式会社 理事 IT 改革推進部長 新田 哲氏は次のように語ります。

「IT改革推進部では『ITを活用した業務改革の推進』をビジョンに掲げています。これは、業務スピードの向上やITのリスク管理を強化することによって『高品質な価値提供』を、また変化に強い柔軟なIT構造としていくことで『継続した価値提供』を、それぞれ目指していくというものです。このビジョンは、我々が所属するIT改革推進部だけで実現できるものではありません。したがって、これまでも業務部門や経営部門など、全社一体となる形でITの改革を進めてきました」(新田氏)。

グローバル化が加速する中、新田氏の触れた「変化に強い柔軟なIT構造」は、今日強く求められるようになっています。多くの企業がアジリティの確保を課題視していますが、JFEスチールの場合、これは容易に解決できない問題となっていました。その理由として挙げられるのが、同社の中で稼働するホストコンピューターの存在です。

JFEスチールは全世界でビジネスを提供しています。これはつまり同社のビジネスが、いつ何時もどこかの国で動いていることを意味します。わずかな時間のシステム停止がビジネスへの甚大な被害につながる以上、基幹系システムは24時間365日稼働することが前提となるのです。

ホストコンピューターは、稼働するアプリケーションに最適化した設計をとることから、きわめて高い信頼性を持ちます。また、ハードウェアからソフトウェアに至るすべてを単一ベンダーがサポートするため、万が一不具合が発生した場合でも迅速に対処することが可能です。ミッション クリティカル性が高いシステムを多数抱える JFEスチールにとって、ホスト コンピューターが稼働する現状は、求められる信頼性を考えれば必然ともいえるでしょう。

しかし、ホストコンピューターでのシステム稼働は、当然ながらデメリットもあります。この点について、新田氏は次のように説明します。

「ホストコンピューターのデメリットは、なんといっても拡張の難しさにあります。ホスト コンピューターの構築や運用、定期開発には、一般的なシステムと比較しても相当深い知識、そして技術レベルが求められます。そうすると当然、プロジェクト期間は長期化しますし、コストも膨れあがる。そのため、容易には拡張できないのです。『変化に乏しい』ITが社内に多く存在している状況は、たとえ信頼性を担保するためだとはいっても見過ごせないものでした。ホストコンピューターのオープン化は、当社にとって必ず通らねばならない道だったのです」 (新田氏)。

同社がオープン化で目指したのは、ハードウェアやOSを問わない「どのような環境でも稼働するアーキテクチャ」の構築です。しかし、さまざまな技術の組み合わせでもあるオープン系システムは、信頼性や性能、サポートの俊敏性といった側面が懸念視されました。そこで JFEスチールでは、一挙にオープン化するのではなく、部分的、段階的にこれを進めることを計画。リスクを最小化しながら「変化に強い柔軟なIT構造」を目指すべく、2015年末より、「ホストコンピューターからの脱却」に向けた取り組みを開始します。

システム概要と導入の経緯、構築
信頼性と性能、コストのバランスに優れていた SQL Server 2016を、オープン化に向けた初期事例として採用

JFEスチール株式会社 IT 改革推進部 主任部員(副課長) 小林 健一氏

JFEスチールがホストコンピューターのオープン化に向けてまず取り組んだのは、横展開を見据えた初期事例の創出です。同社では、膨大な現品情報(鉄鋼製品ごとの仕掛かり状況や生産履歴を示すデータ)を統合管理する「JFE統合現品DB」を対象に、オープン系システムへの移行を検討します。

同システムの概要とこれを初期事例の対象に選定した理由について、JFEスチール株式会社 IT 改革推進部 主任部(副課長) 小林 健一氏は次のように説明します。

「JFE 統合現品DBは、現品の現在のステータス、過去の履歴、および最新の次工程以降の予定情報を、リアルタイムに管理するシステムです。同システムはデータの処理量が非常に多く、一日に数百万件以上のデータを処理しています。まさに『止まることが許されないシステム』であることに加えて、性能についても高い水準のものが求められました。要件水準の高いJFE統合現品DBをオープン系システムへ移行することが、今後ホストコンピューターのオープン化を進めるための試金石になると考え、初期事例として選定したのです」(小林氏)。

JFE統合現品DBの概念図社

移行作業の進行に際し、JFEスチールではまずDBMS(データベース管理システム)製品の比較を実施。マイクロソフト製品を除く主要3ベンダーのもとで初期検討を進めた後、POC(概念実証)の段階からはSQL Server 2016を加えた主要4ベンダー4製品を対象にした比較検証を実施しました。

小林氏は、SQL Server 2016を比較検証の候補に加えた理由について、次のように語ります。

「検討の初期は、SQL Server が Windows Server以外のOSで稼働することの技術的裏付けが取れなかったため、オープン化の狙いと外れていると判断し、候補から除外していました。しかし、SQL Server は Gartner社のリサーチなどでも高い評価を得ています。大手企業における基幹系用途の採用実績も増加傾向にあり、POCの段階では考えを見直すべきかどうか悩んでいました。ちょうどそのころに、マイクロソフト本社の技術責任者からWindows Server以外のOSでも問題なく稼働することを提示いただけたため、それであればSQL Serverも検討候補に含むべきだと考え、主要4ベンダーでのPOCに至ったのです」(小林氏)。

JFEスチールではこのPOCを、グループ会社のJFEシステムズ株式会社(以下、JFEシステムズ)と共同で進めました。JFEシステムズ株式会社 東京事業所 販生流システム開発部 基盤グループ長 和泉 光雄氏は、信頼性と性能に注目してPOCを実施したと語ります。

JFEシステムズ株式会社 東京事業所 販生流システム開発部 基盤グループ長 和泉 光雄氏

JFEシステムズ株式会社 東京事業所 販生流システム開発部 グローバルSCMソリューショングループ 森田 康弘氏

「オープン化を果たせたとしても、サービスの安定提供が損なわれてしまっては本末転倒です。そのため、高い可用性を備えることはDBMSに求める絶対条件でした。また、JFE統合現品DBはレコードあたりの列数が非常に多く、1つの現品に対して膨大な情報が付与されています。このデータが問題なく移植できるか、という点もPOC時には注視しました。さらに、夜間のピークタイムでも十分な処理速度を維持できるかどうかは、利便性の観点でも重要事項といえます。可用性、移植性、性能のすべてについて要件を定義し、そこへの対応度合いについて検証を進めました」 (和泉氏)。

このPOCの結果、JFEスチールは、初期事例となるJFE統合現品DBのDBMSへSQL Server 2016を採用することを決定します。他のDBMS製品も必要な要件をクリアしていた中で SQL Server 2016 が採用された理由は、信頼性と性能を高い水準で担保できる点にあったといいます。JFEシステムズ株式会社 東京事業所 販生流システム開発部 グローバルSCMソリューショングループ 森田 康弘氏は、次のように説明します。

「可用性を高めるために冗長構成を取る場合、他のDBMSでは性能が低下したり、コストがかさんだりするケースがあるのですが、SQL Server 2016では、前バージョンから搭載する『Always On』機能を使うことによって、性能とコストの変動なしに冗長構成を取ることができたのです。性能についてはリアルタイム処理とバッチ処理の両パターンでPOCを実施しましたが、ここでもSQL Server 2016は十分な結果を出していました。移植性についてもテストの結果、問題は見受けられず、優れたコスト メリットのもとに信頼性と性能を担保するにはSQL Server 2016が最適だと判断したのです」(森田 氏)。

導入の効果
ホストコンピューター環境と同水準の信頼性のもと、劇的な性能向上、ランニングコストの半減を実現

2016年6月にSQL Server 2016の採用を決定した後、JFEスチールとJFEシステムズでは実移行に向けた設計作業を開始。その後、開発検証作業、ホストコンピューター環境との並行稼働期間を経た2017年3月より、SQL Server 2016上でJFE統合現品DBの稼働を開始しています。

ホストコンピューターからオープン系システムへの移行作業は、同社にとって初の試みとなります。しかしながら、マイクロソフトが提供する「Premierサポート」の支援のもとでこれを進めたことにより、スムーズにプロジェクトを進行できたと、小林氏は語ります。

「完全移行に至るまで不具合がなかったかというとそうではありません。ですが、その都度マイクロソフトから密に支援いただけたため、結果的には概ね構想どおりのスケジュールで進行できました。こうしたPremierサポートによる技術支援は、定常運用においても有用だと感じています。オープン系のシステムで問題が発生した場合、通常はその原因が DBMS にあるのかサーバーOSにあるのかなど、問題を切り分けてから対象となるベンダーへコンタクトせねばなりません。それを懸念して、今回、サーバーOSにWindows Serverを採用することで、Premierサポートへと窓口の統一化を図っています。これにより、ホスト コンピューターを運用していたときと同じような感覚でサポートを活用することができています。こうした運用管理の簡素化は、今後オープン化を進めていくうえでも非常に有効だと考えています」(小林氏)。

システム イメージ

SQL Server 2016という新たな環境のもとで稼働を開始したJFE統合現品DB。同システムは、従来と変わらない信頼性のもとで、JFEスチールの業務を支えています。新田氏は、高信頼性を担保しながら拡張性と性能の向上を実現できたとして、今回の取り組みを高く評価します。

「SQL Server 2016への移行は、オープン化の目的である『拡張性の確保』を実現したことに加えて、バッチ処理に要する時間を最大で1/4にまで削減するなど、性能の向上も果たしています。また、ランニングコストを従来の約半分にまで圧縮できた点も特筆すべきでしょう。JFE統合現品DB単独で見ても、わずか数年で初期投資分のコストを回収できると見通しています。2017年度内に移行を計画している区画を合わせると、およそ7割のランニングコストが削減できると考えています」(新田氏)。

オープン化では、小林氏が触れたように運用管理の簡素化も図ることが可能です。削減されたコスト、そして人的リソースを新たなIT企画に割り当てることによって、JFEスチールの「攻めのIT」は、今後ますます加速していくことでしょう。

今後の展望
オープン化によって得られる拡張性を武器に、基幹系システムへの先端ITの実装にも取り組む

新田氏が語ったように、JFEスチールではJFE統合現品DBと同区画にある他の基幹系システムについても、2017年度中にSQL Server 2016への移行を実施する予定です。また、今回の取り組みを初期事例とした横展開によって、ホストコンピューターのオープン化も進めていきます。

このオープン化を円滑に推し進めていくためには、ホストコンピューター環境下とは異なる運用管理体系を確立することが求められます。「オープン系システムは、自社で管理せねばならない領域がホスト コンピューターと比べると拡大します。安定したサービス提供を実現するには、運用体制やガイドラインの見直しが必要でしょう。見直しを進めるための『オープン系システムの勘所』を会得するタイミングは、まさに今だといえます」と小林氏が語るとおり、JFEスチールは現在、SQL Server 2016が備える各種機能を活用して、運用管理の最適化に向けた試行錯誤を日々進めています。

ITと管理体制の双方からオープン化を進めることで、同社のアジリティは高まっていくでしょう。ひいてはそれが、「継続した価値提供」へと結びついていくのです。新田 氏は、オープン化によって獲得した柔軟性を活用することで、「高品質な価値提供」というもう1つの軸へのアプローチも強化していきたいと、今後の展望を語ります。

「JFE統合現品DBの取り組みは、オープン化に向けた大きな一歩だといえます。引き続きこれを推進し、並行して基幹系システムへの先端ITの実装にも挑戦していきたいと考えています。たとえば、近年注目を集めているAIを基幹系システムに組み込めば、そこでの作業を自動化することが可能です。柔軟性をもったIT構造を最大限活用することで、今後もITを活用した業務改革を推進していきます」(新田氏)。

SQL Server 2016の採用を皮切りとしてさらなるオープン化を推進することで、同社の業務改革はいっそうスピードを増していきます。そこから生まれる価値の高い製品によって、同社は今後も高いプレゼンスを示し続けるに違いありません。

「SQL Server 2016への移行は、オープン化の目的である『拡張性の確保』を実現したことに加えて、バッチ処理に要する時間を最大で1/4にまで削減するなど、性能の向上も果たしています。また、ランニング コストを従来の約半分にまで圧縮できた点も特筆すべきでしょう。JFE統合現品DB単独で見ても、わずか数年で初期投資分のコストを回収できると見通しています。2017年度内に移行を計画している区画を合わせると、およそ7割のランニングコストが削減できると考えています」

JFEスチール株式会社
理事
IT改革推進部長
新田 哲氏

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