OpenStackとCephを組み合わせた
ハイパーコンバージドインフラの構築が注目を集める

OpenStackのストレージとして実績豊富な分散ストレージ「Ceph」。Cinder(ブロックストレージ)やGlance(イメージサービス)のバックエンドストレージとして利用可能なソフトウェア・デファインド・ストレージ(SDS)であるCephは、OpenStackストレージを検討する際、欠かせない存在となりつつある。このCephに対する注目とともに期待を寄せられているのが、Ceph(ストレージノード)とNova(コンピュートノード)を同一ノードに構成するOpenStackのハイパーコンバージドインフラ(HCI)構成だ。

Cephとは
オブジェクト単位、ブロック単位、ファイル単位でアクセス可能なマルチプロトコル対応のSDS。OpenStackの各種機能との親和性が高く、OpenStackストレージとしてよく利用される。

ハイパーコンバージドインフラ(HCI)とは
コンピューティングリソースとストレージリソースを一つの筐体の中で統合した仮想化基盤。容易な拡張性と高いパフォーマンスを実現し、初期投資費用、運用費用を削減できるインフラとして、現在注目を集めている。

HCIの特徴は、何といってもサーバリソースとストレージリソースを集約、統合することで得られる、容易な拡張性と高いパフォーマンスだ。あわせてハードウェアの初期投資コストと運用コスト、専用ストレージ管理コストが削減できるため、HCIは現在、インフラ業界において一大トレンドとなっている。レッドハットは2016年12月にRed Hat OpenStack Platform(RH-OSP)10をリリースし、そこでTech Preview機能としてRed Hat Ceph Storage(RH-Ceph)を用いた HCI構成が可能となっている。これが、先の期待が寄せられるに至った理由である。
※Red Hat OpenStack Platform 11では正式サポート済み

OSCAの分科会メンバーが、OpenStackとCephによるHCI構成を検証

Dell EMC インフラストラクチャソリューションズ事業統括 ソリューション本部 シニアプリンシパルエンジニア 日比野 正慶氏

ただし、OpenStackとCephを利用してHCIを構築していくには、まだまだ課題がある。OSCA(Open Standard Cloud Association)技術検討会 OpenStack分科会のメンバーで、Dell EMCのインフラストラクチャソリューションズ事業統括 ソリューション本部 シニアプリンシパルエンジニアを務める日比野 正慶氏は、この課題について次のように説明する。

「OpenStackは自由度が高い反面、設計・構築・運用には高度な技術力が必要です。中でもCeph のHCI構成はリリースされて間もないため、実績や情報量の少なさから、導入の敷居が高いといえます。」(日比野氏)

OSCAは、先進技術の推進を目的として2012年2月に設立された団体だ。現在、ベンダーやSIerら30社がメンバーとなり、「ハイパースケール・データセンタソリューション」「クラウド運用管理の効率化」「クラウドの相互運用」の3つのカテゴリーを柱とし、複数の技術分科会を構成している。技術分科会の1つであるOpenStack分科会は、日立ソリューションズ、レッドハット、Dell EMCの3社が中心メンバーとなる。

レッドハット、Dell EMC、日立ソリューションズの3社がメンバーとなる、OACAのOpenStack分科会

レッドハットは商用OpenStackディストリビューションRH-OSPや商用CephディストリビューションRH-Cephを提供することで知られる。また、Dell EMCはこれまで完全検証済みのRH-OSPリファレンスアーキテクチャを提供してきたほか、2017年8月から、RH-OSPについてグローバルでOEM販売の開始を予定する。そして日立ソリューションズは、「JP1連携ソリューション for OpenStack」といったOpenStack向け運用管理ソリューションを提供するほか、企業に対するOpenStack導入の支援も行っている。

日立ソリューションズ 技術革新本部 研究開発部 技師 工藤 雄大氏

こうしたOpenStackのプロフェッショナルで構成されるOpenStack分科会が進めるのは、OpenStackに関する技術検証と、その情報化だ。これまでに、RH-OSPを使ったCephストレージ設計のポイントやCephの性能評価などを実施し、その都度、成果を「OpenStack Days Tokyo」カンファレンスやコミュニティイベントで披露してきた。

OpenStack分科会のメンバーである、日立ソリューションズ 技術革新本部 研究開発部 技師 工藤 雄大氏は、市場の期待の高まりを受けて、OpenStackとCephを利用したHCIに関する技術検証の必要性を感じたと語る。

「HCIは、SIerの目線からみても大きな盛り上がりを見せていると感じています。しかし、比較的新しい技術ということもあり、パフォーマンスとスケーラビリティに関する情報自体がまだ不足しています。特にOpenStatckにおけるそれは、市場における期待と、情報の少なさ、その間にあるギャップがいっそう広いといえるでしょう。このギャップを埋めるためには、実際の環境で動かして検証するほかありません。そこで、OpenStackとCephによるHCI構成を検証することにしたのです。」(工藤氏)

ノード追加でパフォーマンスはリニアに向上

少し前置きが長くなったが、工藤氏が語った技術検証レポート「OpenStackハイパーコンバージドインフラ(HCI)のポイントとベンチマーク結果考察」が、先ごろOSCAで公開された。ハイパーコンバージドインフラで、OpenStackはどこまで使えるのか。ここからは日比野氏と工藤氏の話から、その実力を探っていこう。

検証環境は、サーバ(Dell EMC PowerEdge Cシリーズ)12台、RH-OSP 10、RH-Ceph 2.0という構成だ。12台のサーバを、ノード用のCompute Server 8台、管理用のController Server 3台、デプロイ用のDirector Server 1台に振り分け、Compute Server上に合計80インスタンス(VM)を立ち上げる。この環境で、ノードの増加に伴ってどのように性能が向上するかを検証した。

検証環境

Cephは、データを保存するディスクごとにOSD(Object Storage Daemon)と呼ばれるデーモンが起動してデータの読み書きや冗長化を行う。このOSDを追加していくことで容易にスケールアウトできることが、Cephの特徴といえる。では、さまざまな条件下でOSDサーバ(OSDディスク)の台数を増減(ノード4台からノード8台まで)させたとき、パフォーマンスはどのように変化するだろうか。これを示したのが下図だ。

Job8の際のWrite値

これを見ると、OSDサーバ数に比例し、IOPS性能が向上することがわかる。これはjobが1、4においても、またRead値においても同様の結果が得られた。

この結果について工藤氏は、「ベンチマークテストでは、OSDサーバ数のほか、ブロックサイズ、Job数、ランダムリード/ランダムライト、キャッシュの有無といった、値や条件を変化させて実行しています。さまざまな条件下での結果を見ることで、実環境でどのような指針でHCIを構築していけばいいかの指針を得ることができました」と解説する。

全体的には、HCIであってもOSDサーバ数に比例して性能を高めることが可能なことが示された。しかし、工藤氏が語るとおり、値や条件によってそこでの上昇率にはばらつきがある。今回の技術検証では「HCI環境においてはOSD Diskに10,000rpmのSAS HDDを用いる場合、Disk1台あたり100IOPS、Throughput 8MB/s 程度で試算し、必要なOSD Disk数を見積もるべき」(レポートより引用)という知見を得ることができたという。

OpenStackとCephでHCIを構築する際のポイント

当然ながら、「HCI構成でも性能が出せる」ことを示したことだけが、ベンチマークテストの成果ではない。工藤氏は、性能を担保する上で気をつけるべきポイントが整理できたことを、同検証の意義に挙げる。

「たとえば、HCI構成の場合は、NUMAを考慮してCPU Pinningをすることがポイントであることがわかりました。HCIでは、OSDデーモンをNICとStorage Controllerが紐づいている側のCPUにPinningする必要があります。これはOSDが非常に多くのネットワークトラフィックを発生させることを理由とし、NUMAのまたがりによる性能劣化を防ぐためのものです」(工藤氏)。

また、ネットワーク設計についても、ストレージ系ネットワーク(Ceph Storage、Ceph Storage Management)を他のネットワークと物理的に分けることが推奨されるという。外部のネットワークでトラフィックが急増した場合、VMの処理が追いつかなくなり、スイッチのバッファを使い切ってしまう可能性がある。このスイッチにストレージ系ネットワークがつながっていると、Cephが深刻な障害を受ける危険性があるのだ。

「こうしたノウハウは、実際に技術検証を重ねないと体感として理解しにくいものです。裏を返せば、ユーザーやパートナーがOpenStackでHCIを構築しようとして"ハマる"盲点とも言えるでしょう。これを事前の検証で確認できること、そしてそれを情報化して世の中に公表することは、大きな意義があると考えます」と、日比野氏は語る。

市場ニーズと世の中の情報量との間にあるギャップを埋めることは、今後いっそうその価値を高めていくだろう。ただ、CephやHCIに関わらず、OpenStackはそもそも「設計・構築・運用に高度な技術力が必要で、一から始めるには敷居が高い」という課題を持っている。日比野氏は、先のような技術検証だけでなく、現状を踏まえたさまざまな解決策もDell EMCとして提供していると明かす。その1つとして注目されるのが、導入、構築を高速化する「JetPack」だ。

OpenStack環境の導入を高速化する「JetPack」

JetPackは、Dell EMCが提供するOpenStackソリューション「Dell EMC Ready Bundle for Red Hat OpenStack」で新しく提供されたOpenStackの導入自動化ツールキットだ。

JetPack-Powered OpenStackのイメージビジュアル

Ready Bundle for Red Hat OpenStackは、Dell EMCとレッドハットが共同開発するOpenStackソリューションである。Dell EMC PowerEdge サーバ、Dell EMC Networking スイッチとRH-OSP 10、RH-Ceph 2.0を組み合わせたリファレンスモデルであり、企業向けOpenStack環境を、迅速、確実に構築し、運用することができる。このReady Bundle for Red Hat OpenStackの特徴は、「完全なリファレンスモデル」「導入自動化ツールキット『JetPack』」「安心のサポート」以上3点にある。

Dell EMC Ready Bundle for Red Hat OpenStack

1. 完全検証済みリファレンスモデル
Ready Bundle for Red Hat OpenStackは完全検証済みリファレンスモデルのため、安心して導入できると同時に、構築にかかる時間を大幅に短縮することが可能だ。ユーザーはリファレンスアーキテクチャで定義された設計を踏襲し、サイジングツールで各種リソースのサイジングを実施。その後、JetPackツールキットに沿ってスクリプトを実行することで、確実、迅速に環境を構築することができる。またマルチクラウド管理ツール「CloudForms」やコンテナ技術を実装する「OpenShift」といったツールを使いたいユーザーに向けた技術ガイドも提供する。「多くのお客様はOpenStackプロジェクトにおいて、インフラの設計から導入まで非常に多くの時間をかけます。Dell EMC のソリューションを選択いただくことで、そのほとんどの時間を大幅に削減することが可能になります」と日比野氏は自信をみせる。

2. 導入自動化ツールキット『JetPack』
同ソリューションは、前述した導入自動化ツールキット「JetPack」を提供している。このツールは、Ready Bundle for Red Hat OpenStack を導入するために開発されたもので、複数のスクリプトから構成される。IronicやHeatといったOpenStackデプロイ機能を活用し、Red Hat OSP 管理のRed Hat Directorノードから、冗長化されたOpenStack コントローラノード、コンピュートノード、ストレージまでを、スクリプトを実行するだけで構築できる。これにより迅速、確実にOpenStackソリューションを導入することが可能となるのだ。

3. サポート
レッドハットとの強力なグローバル協力体制のもとで開発された同ソリューションは、サポートにおいても最適化を図っている。Dell EMCとレッドハットは、ハードウェア/ソフトウェア間の相互接続性の動作確認、BIOS/ドライバー対応含めたシステムサポートまで、製品開発の上流から障害対応まで、さまざまな局面で共同活動を行い、システムの信頼性・可用性を高め、現場の問題解決に要するスピードの短縮化を図っている。

成熟度があがり市場ニーズも高まっていることを受け、日本においてもOpenStackは本格的な導入フェーズを迎えている。JetPackのようなOpenStackの課題を解決する機能を備えたソリューションの登場により、この動きはさらに加速していくだろう。

HCIに向けたこれからの取り組みにも要注目

Dell EMCは、OpenStack Foundationにゴールドボードメンバーとして参加し、サーバ、ネットワーク、ストレージの各分野で多彩なOpenStackドライバを開発し提供してきた。日本国内でも、日本OpenStackユーザー会や各種イベントへの参加を通じて、最新技術の研究と情報交換を積極的に行っている。

こうした活動の成果は、Ready Bundle for Red Hat OpenStackにも生かされている。また、本稿で紹介した技術検証レポート「OpenStackハイパーコンバージドインフラ(HCI)のポイントとベンチマーク結果考察」の成果についても、今後のソリューション展開や企業への導入支援の際に生かされていくだろう。

オープン化を推進し、ユーザー目線に立った技術検証と充実したサポートで、ユーザーから高い信頼を得ているDell EMC。x86サーバ及びHCIで世界No.1台数シェア(※)を持つ同社は、この7月13日に新14世代サーバも発表するなど、新たな技術研究だけでなくその製品化にも非常に熱心だ。OpenStackやHCIへの同社の取り組みに、今後も注目したい。
(※)出展: IDC Worldwide Quarterly x86 Server Tracker 2017Q1(2017Q1出荷台数)&IDC Worldwide Quarterly Converged Systems Tracker 2017Q1

関連リンク


本稿で紹介した技術検証の内容については、7月20-21日に開催される「OpenStack Days Tokyo 2017」でもご紹介予定です。ぜひ同イベントにご来場頂きDell EMCブースをご訪問ください。

OpenStack Days Tokyo 2017
OSCA

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