さまざまな産業のデータ解析やモデリング業務を支える数値解析ソフトウェア「MATLAB/Simulink」のユーザーイベント「MATLAB EXPO 2016 JAPAN」が、10月19日にグランドニッコー東京 台場で開催される。

毎年開催されている同イベントだが、昨今のIoTやAIなどの取り組みが活発化することで、MATLAB/Simulinkの活用事例も目立って増えてきたことから、今年は"事例盛りだくさん"な内容となっている。本稿では、合計8つ設けられているトラックの概要とその講演内容から、同イベントの魅力を紹介していこう。

MATLAB 2016_総力特集
1回目:基調講演に革新知能統合研究センター長杉山氏 - 10月19日開催「MATLAB EXPO 2016」の見どころは」
2回目:開催目前!! 10月19日開催のMATLAB/Simulinkユーザーイベント「MATLAB EXPO 2016」 で、最新のユーザー事例を学ぶ(本記事)

最新のユーザー事例を学ぶ計8トラック

企業における数値計算やシミュレーションの分野で数多くの採用実績を誇るMATLAB/Simulink。IoTやAIなどのトレンドを受け、活用領域はさらに拡大している。MathWorksでは、「よりシンプルに」「より完全に」「より高速に」を開発注力テーマに、エンジニアからサイエンティストまで、ライトユーザからヘビーユーザまでと幅広いニーズに応えられるように製品開発に取り組んでいる。

MATLAB EXPO 2016 JAPANの午後からのセッションでは、そうした製品動向やユーザー事例が存分に紹介される予定だ。MathWorks Japan の宅島章夫氏は、今年の大きな特徴として、たくさんのユーザー事例を設けたことを挙げ、次のように説明する。

MathWorks Japan 宅島章夫氏

「MATLAB/Simulinkを活用して、実際に成果を出していらっしゃる企業様が増えています。そこでイベントでもそうしたお客様にご登壇いただき、活用のポイントを直接ご解説いただくことにしました。ユーザー様の事例講演は、昨年と比較して1.5倍です。テーマごとに8つのトラックを設けていますが、ほぼ全てのトラックで事例を紹介するセッションがあるのが今年の大きな特徴です。」(宅島 氏)

トラックは、「A: 入門」「B: 設計・検証ワークフロー」「C: 機械学習/ディープラーニング」「D: データアナリティクス/IoT」「E: ADAS/ロボット/メディカル」「F: EMS」「G: アプリケーション」「H: 教育事例(教職員限定)」の計8トラック。本稿では、入門からアプリケーションまでの7トラックについて、ユーザー事例講演を中心に、見どころを紹介しよう。

トラックA注目セッション~ヤマハ発動機「制御開発の人材を育てるとはどういうことか」

MATLAB/Simulinkの最新動向から、導入の勘所、使い方のヒントまで、MATLAB/Simulinkをこれから本格活用する人に向けて開設されているトラックが「A: 入門」だ。入門とは言うものの、製品の使い方にとどまることなく、製品を活用するうえでの考え方についても知ることができる。そのため、分野をまたがって学習したいという方やベテランユーザーにも人気を博している。

毎年高い人気を得ている「入門」トラック。初心者だけでなく、ベテランユーザーも満足するセッションが用意されている

たとえば、セッションA1「MATLAB入門~アプリから始めるデータ解析~」やA2「Simulink/Stateflow入門」では、製品を使いながら、データ解析やモデリング機能の基本を学ぶことができる。また、セッションA3「手軽にはじめる画像処理・コンピュータービジョン」、A4「モデルベースデザインのためのプラントモデルの作成と活用入門」は、画像解析や画像処理、モデルベースデザイン(MBD)の基礎と応用を実践することが可能だ。

見どころは、セッションA5「新入社員研修で、制御開発の人材を育てるとはどういうことか」だ。MathWorksと共同で新入社員向け制御システム開発講座を開発しているヤマハ発動機の迫田茂穂氏が登壇し、制御開発エンジニアの人材育成方法や教育内容、担当講師の確保などの課題にどう対応したかを紹介する予定だ。

「新入社員研修で制御開発の人材を育てるためにはどのような考え方が必要になるか。新入社員研修のカリキュラムを考えている人事部や人材開発部のみなさんには大いに参考になると思います」(宅島氏)

MBDを基軸とする「設計/ワークフロー/検証」が網羅されたトラックB

設計やワークフローをテーマにしたトラックが「B: 設計・検証ワークフロー」だ。「検証」というキーワードが入ったことも、今年のポイントだ。近年の自動車や家電、医療機器などのソフトウェアは、高度な機能を実現するために、複雑化・大規模化する傾向がある。そこでカギになってきたのが、早期段階でのソフトウェアの欠陥の検出や、早期検証による品質の向上・作りこみだ。

設計やワークフローをテーマにしたトラック。今年から「検証」というキーワードが入ったこともポイントだ

設計・検証ワークフローでは、MBDを基軸とした設計とワークフローを軸にしながら、検証の重要性を意識したセッションが展開される。具体的には、B1「次世代システムに求められるソフトウェア検証技術~静的解析の価値と有効性~」、B2「実機テストのための計測/制御試験ソリューション」、B3「効果的かつ効率的なモデルベース組込みソフト開発・検証」など。さらに、B4「制御系設計環境オーバービュー&便利機能のご紹介」、B5「アプリケーションを作るならオブジェクト指向プログラミング!」といったセッションも用意されている。

「B1~B5までのセッションで、MBDの上流から下流にいたる設計・検証のワークフローに関わるトピックスが網羅的にカバーされています。また今年の展示コーナーでは、MBD環境構築支援のブースを設し、経験豊富な弊社エンジニアがMBDに関する様々な疑問やお悩みにお答えします。講演とあわせて、立体的に設計・検証ワークフローが理解できると思います」(宅島氏)

なお、セッションB1で紹介されるコード静的解析ツール「(Polyspace Bug Finder/Polyspace Code Prover)」にも注目しておきたい。同ツールは、早期段階でのソフトウェアの欠陥の検出、さらに形式手法によるランタイムエラーがない証明を行うことが可能になるというもの。ソフトウェアに関する検証作業の効率化に関心のある方にお勧めだ。

トラックC「機械学習/ディープラーニング」の事例には三菱重工業が登壇

ユーザーの活用が進み、興味深い取り組みが多数登場している機械学習。この分野をテーマにしたのが「C: 機械学習/ディープラーニング」だ。見どころは、三菱重工業の藤島泰郎氏によるセッションC2「機械学習・信号処理技術を用いた機械の状態監視技術の紹介」だ。三菱重工業では、機械学習や信号処理技術を用いて、機械の状態監視に取り組んでいる。セッションではそのうち、2つの事例が紹介される予定だ。

昨今話題の分野である「機械学習/ディープラーニング」がテーマのトラック

1つは、航空機油圧系統の故障予兆検出だ。航空機油圧系統では、機械が正常に稼働しているときのデータは大量に得られるものの、故障時のデータを同じ数だけ得ることは難しいという。そこで、正常データのみで識別器の学習が可能な1クラスSVMを用いて予兆検出に取り組んだ。もう1つは、適応ビームフォーミングを用いた雑音抑圧方法だ。機械の稼働音から異常を検知する際に、雑音を信号処理によって除去する方法を紹介する。

このほか、C1「機械学習のための信号処理」、C3「データの本質を読み解くための機械学習」、C4「基礎から学ぶ深層学習(ディープラーニング)」といったトラックも用意されている。 「機械学習をオーバービューするとともに、ツールやツールボックスでどのようにディープラーニングを行っていくかを紹介します。ユーザー講演とあわせて、地に足の付いた取り組みが行われていることを実感できるはずです」(宅島氏)

トラックD「データアナリティクス/IoT」では日立が異常検知の事例を紹介

世間の関心を特に集めているデータアナリティクスやIoTについては、「D: データアナリティクス/IoT」として取り組みを一望できる。注目セッションは、日立製作所の今沢慶氏によるD1「MATLABによる作業異常検知システムの開発」だ。

「データアナリティクス/IoT」がテーマのトラック。こちらも世間の関心を集める魅力的なテーマだ

日立では、IoTを活用した作業のデータ化技術と、製造設備管理などで培ってきた異常検知技術を組み合わせて、作業異常検知システムの開発を推進。作業のデータ化など従来の専門領域外の技術の導入に時間がかかるという課題があったが、MATLABを使ってこの課題を解消することで短期での技術開発を実現した。

セッションでは、作業異常検知システムの概要と、MATLABを活用した開発の流れを紹介する。この検知システムについて、宅島氏は、「画像データから現場作業の異常を検知する取り組みで、とても興味深い事例となっています。作業の異常検知は、多くのシーンに応用できるため、大いに参考になるはずです」と話す。

このほか、D2「MATLABによる時系列データ解析と予測」、D3「ものづくりのための数理モデルの最適化」、D4「センサーデータアナリティクスの開発から運用まで」といった内容のセッションが予定されている。理論から実践までを深いレベルで学ぶことができるはずだ。

自動運転、ヒューマノイド、ロボット義足、FPGA…… 最新ユーザー事例が目白押しのトラックE

イベントのテーマの1つである「技術の融合」をより実感できるのが「E: ADAS/ロボット/メディカル」だろう。4つのユーザー事例が紹介され、イベントを通しても、大きなみどころの1つとなっている。

イベント全体のみどころのひとつであるトラック「ADAS/ロボット/メディカル」。イベントのテーマの1つである「技術の融合」を実感できる

E1では、豊田工業大学の三田 誠一氏が登壇し「自動レーン変更と自動駐車のためのシミュレーション環境の構築」と題し、最近高まっている自動運転における、高速道路での複雑なレーン変更や自動駐車(Valet Parking)技術について講演する。

また、E2では、東京大学の神永拓氏が登壇し「ヒューマノイドロボットHYDRAの開発におけるMATLABの活用」と題した講演を行う。神永氏は、ヒューマノイドロボットHYDRAの開発のなかで、多様で複雑な組み込みシステムをどうか開発していったのかを紹介する。

続く、E3「身体化する義足」には、競技用義足を開発するソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙氏が登壇。遠藤氏は、人間の疾走運動を解析して、下肢欠損の義足アスリートが速く走れるか、また速く走れるための義足はどのようなものかに取り組んでいる。講演では、ロボット義足と競技用義足の開発事例を紹介する。

そして、E4「MATLAB/Simulinkを用いた次世代イメージングシステムのFPGA実装」は、オリンパスによる、次世代イメージングシステムの画像処理アルゴリズムをMATLAB/Simulinkを用いてFPGA実装した開発事例となる。ツールボックスを使うことで、Cコードからの高位合成やHDLコードを知らなくてもFPGA実装できた取り組みだという。このほか、E5「介護・福祉・医療機器開発におけるモデルベースデザイン」ではメディカル領域でMBDの取り組みが紹介される。

トラックF「EMS」ではFREAと東北大学による「スマートグリッド」事例が紹介

「F: EMS」トラックでは2つのユーザー事例セッションが実施される。1つは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST) 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)の橋本潤氏によるF1「スマートグリッド技術開発の統合プラットフォーム構築に向けたMATLABの活用」だ。

「EMS」トラックでは、産業技術総合研究所と東北大学のMATLAB/Simulink活用事例を紹介

スマートグリッド実現に向けて、「発電予測技術」などのリソースマネージメントから、蓄電池や水素などの「エネルギー貯蔵・利用技術」、そして分散電源の「制御技術」の3つを統合した新しい分散電源エネルギーマネージメントシステム(DREMS)の開発が進められている。FREAでは、これらの次世代エネルギーネットワークを開発・評価する基盤として統合プラットフォームの構築に取り組んでおり、そこでMATLAB/Simulinkが活用されている。

もう1つのセッションは、東北大学の斎藤浩海氏によるF2「大規模電力システムの周波数変動解析用標準モデルの開発」だ。東北大学では、MATLAB/Simulinkを用いて、大規模電力システムの周波数解析の共通基盤となる標準モデルを開発。講演では、その概要と標準モデルを用いたシミュレーションの事例を紹介する。

宇都宮大学、ローム、光電製作所の事例が紹介されるトラックG「アプリケーション」

「G: アプリケーション」の見どころも豊富なユーザー事例となる。まず、G1「実例から学ぶ!モデルを活用したモータ制御系開発」では宇都宮大学の平田光男氏が講演。ハイブリッド車や電気自動車用エアコンをターゲットとした電動コンプレッサの振動抑制制御問題を題材として、モデルを活用したMATLAB/Simulinkによるモータ制御系開発の実例を紹介する。

「アプリケーション」トラックでは、様々なユーザー事例セッションを用意

また、G4「IC開発におけるMBD手法適用事例~モータ向けIC開発について~」では、ロームの丸本共治氏が、モータ向けIC開発のモデルベースデザインにおけるMathWorks製品の適用範囲と活用方法について紹介する。さらに、G6「SDRを用いたチャネルサウンダ用トランシーバの開発」では、光電製作所の荒田慎太郎氏が登壇。MATLABとSimulinkを用いたソフトウェア無線機開発環境で、トランシーバチップを動作させRF特性を評価した事例を紹介する。

「例えば最近では、ソフトウェア設計者が高速処理のためにFPGA実装を行うなど、FPGA初心者がHDLを扱うケースが増えてきています。さまざまなニーズや要素技術が融合した環境で、いかに全体を俯瞰した最適な設計ができるかが重要になっています。Gトラックでは、そうしたなかでマスワークスがどのようなアプローチで支援していくかを紹介します」(宅島氏)

G2「マルチエージェントシステムの制御入門」やG5「効率的なロボット開発 ~機械学習による物体認識から軌道制御まで~」などは、そうした技術が融合し、複雑化した環境でどう制御を行うかを示すよい例となっている。

MATLAB EXPO 2016は、10月19日開催

ここまでMATLAB EXPO 2016 JAPANの見どころを紹介してきた。こうして整理してみると、MATLAB/Simulinkの活用領域がとても幅広い分野にひろがっていることを強く実感することができる。宅島氏も次のようにアピールする。

「MATLAB/Simulinkは、入門者から玄人ユースまで幅広い層に利用されるようになりました。業界も多岐にわたっており、他業界の取り組みが自業界の取り組みに直接参考になるケースが増えています」(宅島氏)

本稿を読んで同イベントに興味を持った方は、ぜひ足を運んで自分の目で確認していただきたい。

10月19日に開催される「MATLAB EXPO 2016」【詳細・申込はこちら】

MATLAB 2016_総力特集
1回目:基調講演に革新知能統合研究センター長杉山氏 - 10月19日開催「MATLAB EXPO 2016」の見どころは」
2回目:開催目前!! 10月19日開催のMATLAB/Simulinkユーザーイベント「MATLAB EXPO 2016」 で、最新のユーザー事例を学ぶ(本記事)


(マイナビニュース広告企画:提供 MathWorks Japan)

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