エンタープライズ領域では従来、重要な情報資産を社内で管理するオンプレミスでのシステム構築が主流だった。しかし近年では、エンタープライズでもクラウドを活用する傾向が高まっており、実際に事例も増加している。その背景としては、クラウドに関する技術力やセキュリティ面での信頼性が増し、"安心して情報資産を預けられる"基盤が整ったことが挙げられるだろう。

特に情報セキュリティマネジメントという観点では、2011年4月に経済産業省が公表(2014年3月に改訂)した「クラウドコンピューティングサービス利用のための情報セキュリティマネジメントガイドライン」が、クラウドサービスの情報セキュリティマネジメントの指針として広く活用されている。このガイドラインをふまえて、JASA-クラウドセキュリティ推進協議会では2015年1月に「エンタープライズクラウド選定ガイド クラウド選びで困ったら」という資料を作成し公開している。本記事では、JASA-クラウドセキュリティ推進協議会の「エンタープライズクラウド選定ガイド クラウド選びで困ったら」を参考に、エンタープライズのクラウド選定について「運用」「サポート」「性能」「キャパシティ管理」「可用性」「セキュリティ」6カテゴリに分類し、それぞれ概要および各事業者の提供例を挙げていく。

また、「エンタープライズクラウド選定ガイド クラウド選びで困ったら」の執筆者の一人であり、国内クラウドサービス事業者として数多くのエンタープライズ向けクラウドを手がけている、ニフティ クラウド事業部 事業部長代理 兼 クラウドプラットフォーム部 部長の監物岳夫氏に、エンタープライズ領域のクラウドサービスの比較ポイントを解説いただくとともに、ニフティクラウドの特長・メリットについても伺ったので、あわせて紹介していこう。

■ アドバイザー

ニフティ クラウド事業部
事業部長代理 兼 クラウドプラットフォーム部 部長
監物岳夫氏


「運用」(運用時間/計画停止)

■概要
エンタープライズ領域でクラウドを利用する場合、わずかな運用停止時間が莫大な損失につながるため、原則的に24時間365日無停止の運用が求められる。特に計画停止は「短いこと」「回数が少ないこと」を評価指標とする。また、システムの都合でやむを得ずメンテナンスを実施する際も、クラウド事業者からの事前通知が必須であり、事前通知のタイミングもあらかじめ確認する必要がある。

運用時間を24時間365日としているクラウドサービスは多いが、事業者によっては「計画停止/緊急メンテナンス/年末年始を除く」と定義されているケースもあるので注意が必要だ。メンテナンス時間の考え方は、SLA/SLOの「稼働率」算出に大きな影響を与えるので、稼働率算出にメンテナンス時間が含まれるかも確認した方が良い。また、無停止運用を支えるための技術基盤や設備も事業者によって差異が大きい。計画停止の時間や事前通知時期も異なっており、特に海外事業者のサービスについては時差を考慮する必要がある。


■ 比較ポイント

監物氏 「クラウド事業者を選ぶ際は、無停止運用のために行っている設備基盤や使用テクノロジーや、運用体制などを可能な範囲で確認しておくと良いでしょう。ニフティの場合、障害発生時にVMwareをほかの物理サーバーへ切り替えるHA機能と物理サーバーの故障予兆検知により、原則的に24時間365日無停止を実現しています。また、現在はクラウドシステム内の膨大なログをビッグデータ分析し、障害予兆検知の精度をさらに高める取り組みも行っています」


「サポート」(ヘルプデスク/プレミアムサポート/サービスポータル)

■概要
クラウドサービスのサポートとしては、電話やメールで問い合わせを受け付ける「ヘルプデスク」、有償オプションなどでより手厚いサービスが受けられる「プレミアムサポート」、ユーザーがWebポータル上から各種リクエストを行う「サービスポータル」に大きく分類できる。

全体的な傾向として、ヘルプデスクとサービスポータルの充実度は反比例の関係にあることが多い。ユーザーの利便性向上を重視している場合はヘルプデスクが、対応スピードと低コストを重視している場合はサービスポータルが充実しているといった具合だ。クラウドサービスの特性上、割合としてはサービスポータルの充実を図っている事業者が比較的多いといえる。いずれを重視すべきか、利用者の利用形態や運用組織の状況に応じて判断した方がいいだろう。クラウドサービスでは、無償のトライアル期間や試用期間を設けている場合があり、事前に使用感を把握しておくことは利用開始後のギャップやトラブルを防止する上で有効。


■ 比較ポイント

監物氏 「有償・無償という観点では、多くの事業者が有償のプレミアムサポートに注力している反面、無償サポートの範囲が非常に狭いといったケースも目立ちます。万が一のトラブル発生時を含めて、サポートには正確かつ迅速な対応が求められますので、有償・無償の対応範囲をしっかりと確認し、必要に応じて有償サポートも検討するべきです。なお、ニフティではあらゆるお客さまに対して、サービスポータルやFAQ、技術仕様書などの情報を無償で提供しています。さらに障害の問い合わせは24時間365日の電話対応を無償で行っているのも特徴です。無償で利用できるキャンペーンもほぼ通年実施しているので、まずはお試しいただきたいと思います」


「性能」(計算能力/IOPS/ネットワーク帯域)

■概要
クラウドサービスの性能を表す要素は、処理能力に影響する「計算能力」、ストレージの性能を示す「IOPS(Input/Output Per Second)」、ネットワーク性能の指標となる「ネットワーク帯域」に大別できる。

仮想CPUのコア数やメモリ容量などは多くのサービスで記載されているが、より詳細なスペックの公開範囲は事業者によって異なる。また、事業者ごとに採用している指標やベンチマークツールにも違いがあるため、カタログ値を比較する際には注意が必要だ。「IOPS」「ネットワーク帯域」の性能が原因でボトルネックが生じる場合もあるため、システムリソースの単純な比較だけでなく、各クラウドサービスの特徴を理解した上で適切な設計を行い、ソリューションとしての比較を行うことが重要である。


■ 比較ポイント

監物氏 「ニフティでは、お客さまがサービスの比較検討を行う上で必要な各種性能に関して、できる限り明記しています。CPU/ディスク/ネットワークともに同一価格の他社サービスと比べて高い性能を実現していますが、検討時は単純なカタログ値の比較だけでなく、無料試用期間にベンチマークテストを実施するなど、より実使用環境に近い状態での比較をお勧めします。なお、ベンチマークはツールによっても実測値が違うので、複数の方法でチェックすると良いでしょう」


「キャパシティ管理」(スケールアップ・ダウン/スケールアウト・イン/リソース監視)

■概要
クラウド利用者は、クラウド環境のシステムが利用するコンピューターリソースを適正管理して、その消費状況が常に収容能力を越えないようにする、いわゆるキャパシティ管理が必要になる。クラウドサービスの主なキャパシティ管理項目としては、サーバー単体の性能を上下させる「スケールアップ・ダウン」、サーバーの台数を増減する「スケールアウト・イン」、各種リソースを監視し必要に応じてアラート通知を行う「リソース監視」が挙げられる。

現状では一部のクラウド事業者を除き「スケールアップ・ダウン」に関してはサーバーの再起動を伴うケースが大半を占めている。「スケールアウト・イン」に関しては、多くのクラウド事業者であらかじめ設定した閾値やイベントトリガーによって自動的なリソース増減を行えるオートスケール機能が提供されているが、「リソース監視」による静的なキャパシティ管理で済む場合が多い。クラウドのスケール方法としては、Webサーバーならスケールアウト・イン、集約DBサーバーならスケールアップ・ダウンなど、システムの特徴に合わせる必要がある。


■ 比較ポイント

監物氏 「サーバーを増強する際、クラウドではまずスケールアウトの選択肢が前提としてありますが、用途によってはスケールアップで対応する必要も出てきます。そこでニフティでは今年から、サーバーを再起動することなくスケールアップできるサービスを提供開始しました。これにより、ビジネスを止めることなく柔軟にサーバー増強が行えます。リソース監視については、各事業者で監視項目の差異はあまりないため、表示の見やすさや監視の単位時間、遡って確認できる期間などを確認しておきましょう」


「可用性」(稼働率/冗長化)

■概要
一般的にシステムの信頼性はRASとして表現される「信頼性(Reliability)」「可用性(Availability)」「保守性(Serviceability)」の3要素で評価される。事業を安定して継続する上で、システムの可用性は非常に重要なポイントとなる。この可用性を表す要素としては、全時間に対する稼働時間の割合を示す「稼働率」、障害発生時にシステム全体の機能を維持するための「冗長化」が挙げられる。

クラウドサービスのSLA(Service Level Agreement)は、大半のクラウド事業者においてサーバー/ストレージ/ネットワーク/管理ポータルなど項目ごとにSLAが設定されており、SLAが満たされなかった場合にサービス料金の一部または全額返金といった補償が行われる。それぞれの稼働率と補償内容は事業者によって異なるので事前に確認しておきたい。また障害設計やBCP/DRの観点では、SLAにおける稼働率だけで十分に要求仕様を満たせない場合があるため、ソリューション設計に配慮する必要がある。「冗長化」に関しては、システムの構成要素である「サーバー」「ストレージ」「ネットワーク」それぞれについてクラウド事業者によって異なる技術で対策を行っている場合があるため、自社システムの特性・要求仕様を満たすものかどうかを確認するといいだろう。


■ 比較ポイント

監物氏 「SLAの稼働率の数値だけを気にされる方が多いですが、むしろ気にすべきは事業者によって異なっているSLAの対象範囲です。条件付きであったり、そもそも対象外である項目があるので必ず確認しましょう。ニフティでは、障害発生時に物理サーバーを移行するHA機能と故障予兆検知に加え、RAID6相当の冗長化構成によって高い可用性を実現しています。SLAの公表値は99.99%ですが、長期間の実績値として99.999%以上の実力があるため、エンタープライズのお客さまも安心してご利用いただけます。また、日本国内で東西にデータセンターを有しており、BCP対策としても有効です。冗長化に関しては、切り替えのタイミングで手順ミスが発見される事例も見られます。手間や時間はかかりますが、案件によっては切り替えのリハーサルを実施することも重要です」


「セキュリティ」(ネットワークセキュリティ/データセキュリティ/統制・ガバナンス)

■概要
クラウドサービスのセキュリティは、ネットワーク分離/アクセス制御(ファイアウォール)/ネットワーク暗号化/侵入対策/DDoS対策を含む「ネットワークセキュリティ」、マルウェア対策/データ保護/データ消去から成る「データセキュリティ」、認証管理およびログ管理を行う「統制・ガバナンス」に分類できる。これらの対策は、クラウド環境においてクラウド事業者が責任を負うサービス基盤のレイヤーと、クラウド事業者が提供し、利用者の責任で管理するリソースのレイヤーに実装される。

クラウド事業者が提供するセキュリティ対策がシステム全体に対するセキュリティのどこからどこまでをカバーするかを把握、必要に応じて利用者が個別に対策を実装することが重要。ただし、ユーザー側でどれだけ個別対策を施せるかは、事業者が提供しているサービスによってかなり差が出るので、こうした選択肢の多さも重要なポイントといえる。


■ 比較ポイント

監物氏 「セキュリティは単純比較が難しい項目ですが、機能以外ではたとえば第三者認証を受けているかといった部分で判断する際に、注意すべき点があります。ひとくくりに第三者認証といっても、仕組みに対する認証か実装を含めた認証かによって安全性が異なります。無いよりはあった方がいいのですが保有していることが必ずしもシステムの安全性を保証しているわけではないことを理解した方がいいです。事業者が保有している第三者認証の範囲が利用者の求めるセキュリティ対策をカバーしているかセキュリティホワイトペーパーなどを読んで確認しましょう。それ以外に注意する点ですが、セキュリティも広義で品質の一分野といえるので、過去の実績から脆弱性が発見された際の対応速度や内容などを見るのも良いでしょう。なお、ニフティではVMwareのネットワーク仮想化プラットフォーム「NSX」を大規模に適用するなど、クラウド内のマイクロセグメンテーションを強化しており、仮にインシデントが発生しても被害を最小限に抑えられるため、安心してご利用いただけます」


6つのカテゴリでエンタープライズに最適なクラウドを見極める

ここまで、「運用」「サポート」「性能」「キャパシティ管理」「可用性」「セキュリティ」6カテゴリに分類し、エンタープライズのクラウド選定ポイントを紹介してきた。監物氏は次のように解説する。

「エンタープライズ領域では、わずか数分のサーバーダウンでも甚大な被害につながる可能性が出てきます。クラウドサービスは多彩な機能を有しているに越したことはありませんが、エンタープライズの場合すでにOS以上の各種ツールまで完成している傾向が高く、機能よりもベースとなる部分の安定性・堅牢性を気にする声が多い、というのが実情です」。

こうしたニーズに応えるべく、ニフティでは性能や稼働率、サポート、使い易さなどすべてを含めた"品質"の向上に注力しているそうだ。

「インフラ部分の運用は手作業だと失敗が起きるため、いかにクラウドのリソースを平準化させつつも間違いのない品質を保てるかという観点から、運用の自動化に長期間取り組んできました。このような“止まらないシステムを運用する"スタンスで体制構築を行ってきた結果、全体的な品質の向上と実績、お客さまからの評価につながってきたのだと考えています」(監物氏)

エンタープライズにおけるクラウド活用では、本稿で紹介した6つのポイントを押さえたサービス・事業者の選定が重要になる。クラウドサービスの導入を検討している担当者は、ぜひ参考にしていただきたい。

■ 参考
クラウドセキュリティ推進協議会 (JCISPA) | 公開資料
エンタープライズクラウド選定ガイド クラウド選びで困ったら
http://jcispa.jasa.jp/downloadf/documents/thechoiceofgoodcloud_v11.pdf
※PDFが開きます

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