1912 年に創業し、農業機械、建設機械やエネルギー システム、ディーゼル エンジンなどの製造と販売を手がけるヤンマー株式会社。国内だけでなくグローバルでも高い評価を得ている同社は、2015 年 1 月で行われた事業再編により、プレジャーボート向け機器を統括する部門をオランダに拠点を置くYanmar Marine Internationalに集約し、海外でのビジネス拡大をいっそう強化しています。

この事業再編によって、これまで現地法人ごとで取り行われていたプレジャーボート向け機器のビジネスは、オランダに構える本社からの統括体制へと変更されました。従来は地域ごとで異なるシステムや形式のもと蓄積してきたビジネス データですが、新体制での意思決定においては、その統合と可視化が必須事項となります。同社ではこの課題に対し、「さまざまな形式のデータ統合と集計の自動化」と「ダッシュボードのユーザビリティ」を評価し、Microsoft Power BI の採用を決定。わずか 2 か月という短期間で、グローバルでのデータ分析基盤の構築を実現し、意思決定の場における議論の精度とスピードの向上に効果を成しています。同社では今後、Power BI の活用を本格化することで、さらなる意思決定の発展と、同社競争力の強化をすすめていきます。

プロファイル

農業機械、建設機械やエネルギー システム、ディーゼル エンジンなどの製造と販売を手がけるヤンマー グループにおいて、プレジャーボート向け機器の販売を展開する Yanmar Marine International。本社機能をもつオランダから欧州、アメリカ、アジアにいたる世界中の市場をターゲットし、事業を展開する同社では、今後も、ヤンマー グループのグローバル ビジネス拡大とそこでのブランド価値の向上に取り組んでいきます。

導入の背景とねらい
システムや形式が異なるグローバルのビジネス データの統合と見える化が急務だった

ヤンマー グループにおいて、プレジャーボート向け機器の販売を世界中で展開する Yanmar Marine International (以下、YMI)。2015 年 1 月にヤンマー株式会社で行われた事業再編によって、グローバルで統括するための本社機能が移管された同社へは、ヤンマー グループのグローバル ビジネス拡大とそこでのブランド価値の向上が期待されています。

Yanmar Marine International

主要市場である欧州からマーケティングの最適化とオペレーションの効率化を行うべく、オランダに本社機能が設置された YMI。欧州、アメリカ、アジアとグローバルにプレジャーボート事業を統括することになった同社の本社においては、ビジネス データの活用面で、課題が存在していたといいます。Yanmar Marine International マーケティングマネージャー 前原 尚起 氏は、YMI によって生じた課題について、次のように説明します。

「事業戦略や予算を計画する場面では、地域ごとのビジネス データが必要不可欠です。ところが、現地法人で使われているシステムやデータ形式はそれぞれで異なっており、先の計画立てに際して多角的なデータの分析が困難な状況でした。また、これまではアメリカ、シンガポール、オランダの地域統括会社 (RHQ) が各地域のビジネスを統括していましたが、YMI の設立に伴い全地域のビジネスをオランダ本社から統括することとなり、情報共有のカバレッジも一気に拡大したのです」(前原 氏)。

Yanmar Marine International
マーケティングマネージャー
前原 尚起 氏

YMIに本社機能が移管された後のビジネス データは、地域拠点における業務フローを整備することで、多少の人力は要するもののその集計と分析が行えていました。しかし、同社が特に課題を持っていたのは、過去のビジネス データを有効に生かせていない点にありました。

「過去のビジネス データは、販売計画の予測、実績比較といった営業面だけでなく、そこにあわせた生産や在庫計画など、当社のビジネス全般に作用する非常に重要な情報となります。販売計画に大きなズレが生じた場合、供給不足による顧客満足の低下や、在庫過多による損益計上などが発生し、ビジネスへ大きな打撃を与えかねないのです。販売計画の精度を高めるに際しては、過去のビジネス データを多角的な視点から分析しなければなりませんが、既存のシステムと体制ではそこに限界がありました。グローバルにビジネス データを統合、分析する環境の構築は、急を要する課題だったのです」(前原 氏)。

システム概要と導入の経緯、構築
グローバル規模の分析基盤を、Microsoft Power BI とマクロ ツールをもってわずか 2 か月で構築

YMI では 2015 年 9 月より、グローバルのデータを統合した分析基盤の構築が検討されました。ビジネスの行方を左右するシステムゆえにその構築には短期性が求められ、既存環境を生かせる方法として BI (Business Intelligence) ツールの採用が方針として掲げられ、日本マイクロソフトが提供する Microsoft Power BI の採用を前提に、検討が進められたといいます。

前原氏は、Power BI を前提に検討を進めた理由について、次のように説明します。

「ヤンマー本社の経営戦略部に所属していた 2014 年 9 月、各国市場の有望性について社内に報告する機会がありました。経営層へのプレゼンテーションを伴うものであったため、そこではいかに納得性や論理性を持った分析結果を簡潔にわかりやすく提示するかが問われます。当時、ヤンマーグループ全体で Office 365 を導入したタイミングだったこともあり、初期コストが発生せず利用できる (当時 Excel のアドオンとして提供されていた) Power BI を利用して、分析とその結果の見える化を行ったのですが、利便性の高さと、多様な形式のデータから分析を行える点が強く印象に残っていました。YMI における各地域拠点のビジネス データは、形式こそバラバラですが、しっかりしたデータとして蓄積されています。Power BI であれば、それらを自動化した形で統合し、多角的な分析も容易に行えると期待したのです」(前原 氏)。

株式会社ギックス
取締役
アナリティクス事業リード
花谷 慎太郎 氏

現在はクラウド ベースのツールへと移行している Power BI ですが、YMI では他のツールとも比較検討を行った上で、多様のファイル形式から分析が行える点とダッシュボードの利便性、(Web ベースのシステムである背景で) グローバルでの共有が迅速に行える点を評価し、2015 年 10 月にて、Power BI の導入を決定しました。同月には戦略コンサルティングとアナリティクスを軸としたサービスを展開する株式会社ギックス (以下、ギックス) へ、Power BI のダッシュボードと、各地域の実績データを加工するマクロ ツールの開発を依頼し、翌月 11 月から開発が本格始動しました。その後、わずか 2 か月という期間を経て 2016 1 月、分析基盤の構築が完了しています。

短期間での開発が実現した背景について、株式会社ギックス 取締役 アナリティクス事業リード 花谷 慎太郎 氏は、次のように説明します。

「YMI 様から依頼をいただいた時点ですでに、Power BI を採用することが決まっており、ダッシュボード上でどのような表現をしたいかというイメージも固めて頂けていましたので、当社ではまず、過去の蓄積分を含めた既存データを統合するためのプログラムをつくりました。Power BI のダッシュボードの特徴は、目的に合わせて短期構築しやすいという点にあると思います。今回のプロジェクトではその Power BI の特性を十分に生かし、短期間での分析基盤の開発が実現できたと思います」(花谷 氏)。

また、前原氏は、今回のプロジェクトにおける開発スピードの重要性について、次のように続けます。

「構築した分析基盤では、システムから取り込んだ生データをマクロ ツールで加工し、ローカル環境の Power BI Desktop 上でデータへ多少の手作業を加えた後、クラウド ベースの Power BI Service をもってメンバーへ共有するという形式をとっています。完全な自動化というわけではありませんが、現在 YMI ではシステム全体の整備をすすめている段階にあり、それが固まるまで待っていては、いつまでたっても分析基盤は整備できません。今回のプロジェクトでは、はじめから完璧なものを求めるのではなく、まず先に動かせるものをつくり、そこからデータ面やダッシュボードをチューニングしていくという考えでスタートしましたが、Power BI はこのような方針において最適な選択だったと感じています」(前原 氏)。

「Power BI の特徴として、ギックスの標榜する『イテレーションを前提とした分析活動』に適していることがあげられます。複数のデータ ソースをつないで統合し、まず『最低限動くもの』を作ります。そのアウトプットを活用してビジネス上の成果を享受しながら、並行して、足りない部分を見極めたり、より高度な分析のニーズを掘り起こしていきます。このような、いわゆる『リーンな開発』は、ギックスが目指す価値の提供に非常にマッチしているのです。今回の YMI 様のように、『まず最低限、ここまでやりたい』ということが明確である一方で『本来目指すべき理想形は、まだ描きにくい』という課題をお抱えのお客様は多くいらっしゃいます。そうした場合には、事前の要件定義に時間を投下するよりも、まず『最低限動くもの』を作ってから、それを段階的に進化させる『イテレーション プロセス』を前提とした分析環境の構築を行うべきだと考えています」(花谷 氏)。

初期ダッシュボードと統合データを作成するマクロ ツールは、わずか 2 か月という短期間で開発が完了している

導入製品とサービス

  • Microsoft Power BI
  • Microsoft Office 365

導入メリット

  • Microsoft Power BI を採用し、2 か月でグローバル規模の分析基盤を構築
  • 過去や地域別のデータを収集・分析して、グローバルに共有することが可能に
  • これまで見えていなかった情報が視覚化され、セールスを数字でサポート
  • 会議の質向上や意思決定のスピードアップにデータを活用できる環境が整備

導入の効果
ビジネスのリアルタイムの状況が把握可能になり、意思決定の精度とスピードが飛躍的に向上

2016 年 1 月より Power BI の運用を開始した YMI。同社では現在、17 のアカウントのもとで Power BI Service が利用されています。マネージメント層に加え、関連部門のメンバーを主なユーザーとし、月次会議などで活用されている Power BI ですが、前原氏はすでに、その効果が現れているといいます。

「まず、これまで見えていなかった情報が見える化できたことが効果として挙げられます。たとえば地域ごとの実績差異について、従来でも並列した比較はできましたが、『差異の原因』までを瞬時に、かつ多角的に分析できるようになったことが大きな違いです。この『瞬時に』という点が、意思決定の場においては非常に重要なのです。もしも原因の解明が次の会議へ持ち越されてしまうと、その間でビジネス チャンスを逃してしまう可能性があります。さらにその分析結果についても、散布図や階段チャートなど、さまざまな表示が可能ですので、ひとめでメンバー全員が情報を理解できます。意思決定の精度とスピードは、大幅に高められたといえるでしょう」(前原 氏)。

現在はまだ、Power BI の使い方を浸透させている段階ですが、ツールとしての利便性の高さは、その浸透スピードをも早めていると、前原 氏は続けます。

「現在、Power BI に入っているのは、実績、受注残、予算、以上 3 種類のデータのみです。将来的には在庫や生産情報などのデータを扱うことも構想していますが、具体的な計画はこれからになります。というのも、最初から情報を増やしすぎると使う側がついていけず、結果として利用されないシステムになる懸念があるからです。まずは、メンバーにダッシュボードを使いこなしてもらうべく、先の 3 種に絞ってデータの収集と分析を行っていますが、使い勝手のよいダッシュボードのおかげで、たとえ 3 種であってもさまざまな視点からデータが分析できます。その有用性の理解と併せて浸透も広がっており、課題として存在していた販売計画の精度も向上できていると感じています」(前原 氏)。

ギックスにて構築された初期ダッシュボード (画像左)。Excel のピボットテーブルに似た利便性の高い操作性をもつ Power BI 上では、YMI により日々刷新がなされ、運用開始当初と比較しそのダッシュボードも劇的に変化している (画像右)。多角的な視点から見える化されたデータは、クラウド サービスの利点をもって即座にグローバルへ共有される

今後の展望
社内におけるユーザー拡大も視野に入れ、活用を進めていく

短期間で構築が完了した分析基盤が既に有効に機能している YMI ですが、前原氏は今後、会議の質と意思決定のスピードのさらなる向上を見据え、Power BI のダッシュボードを活用していくことを計画しています。

「意思決定の場とデータの分析作業が分断している場合、現在のビジネスの速度に追従することは難しく、そのような会議はもはや時代遅れだといえるでしょう。Power BI を導入したのは、会議中にその場でデータを動的に分析することで、会議の質と意思決定までのプロセス、スピードを向上させることにも狙いがありました。すでにその効果は現れていますが、さらに向上させるためには、メンバーが Power BI を使いこなすことが求められます。近いうちに専任のヘルプデスクをおくことで、メンバーの Power BI の利用スキルをもう一段階高めていく予定です」(前原 氏)。

さらに、同社では社内におけるユーザー拡大も視野に入れた活用も構想されています。

「Power BI は容易に操作でき、ユーザーを選ぶことはありません。社員の多くがあらゆる場面でデータを有効に、即座に活用できるようになれば、当社の競争力はさらに向上できますので、将来的には全社的に活用することも検討しています。現在、Power BI のダッシュボードは 1 種類しか使っていませんが、ユーザーの拡大に応じ、部門ごとで必要なデータを扱ったダッシュボードも構築することになるでしょう。いますぐではありませんが、優先度の高い部門から段階的にすすめていきたいと考えています」(前原 氏)。

Power BI を採用したグローバル規模の分析基盤を短期構築し、ビジネス データの有効活用を推し進める YMI。今後、Power BI の活用が本格化するにつれ、同社のビジネスはさらなる発展を遂げていきます。

ユーザー コメント
「現在、Power BI に入っているのは、実績、受注残、予算、以上 3 種類のデータのみです。将来的には在庫や生産情報などのデータを扱うことも構想していますが、具体的な計画はこれからになります。というのも、最初から情報を増やしすぎると使う側がついていけず、結果として利用されないシステムになる懸念があるからです。まずは、メンバーにダッシュボードを使いこなしてもらうべく、先の 3 種に絞ってデータの収集と分析を行っていますが、使い勝手のよいダッシュボードのおかげで、たとえ 3 種であってもさまざまな視点からデータが分析できます。その有用性の理解と併せて浸透も広がっており、課題として存在していた販売計画の精度も向上できていると感じています」

Yanmar Marine International
マーケティングマネージャー
前原 尚起 氏

パートナー企業

  • 株式会社ギックス

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