若き設計マン、高橋さんにお話をうかがった

高橋俊さん 入社5年目。東京出身だが、ホビーセンターでの勤務を希望し、6度にも及ぶ面接を経て、配属を勝ち取った。職人の技を身に付けるため、日々奮闘中!

ガンプラの設計から生産までの流れを簡単に見てきたが、中でも興味深いのは設計部門ではないだろうか。設計しだいで、外観や可動域が大きく変わってくるし、パーツが増えて設計の難易度も高まっているという。そこで、発売されたばかりのMG Ver.3.0の設計に携わった、若き設計マン、高橋さんにお話をうかがった。

――ガンプラの設計というのは、どのようなお仕事ですか?

まず最初に開発チームから、こんな商品を出しましょうという話があるんです。これくらいの価格で、これくらいのパーツ数で、色分けはこうでといった、基本的なところですね。それを元に細かな仕様を詰めて、図面を起こして、設計図を書く仕事です。今はすべてCADで行っています。

――CADが導入される前はどうやっていたんですか?

ぼくが入社したときには、すでにCADが使われてましたが、昔は1個1個のパーツを手書きしていたそうですよ。その図面を金型屋さんに渡して、彫ってもらってたんです。ものすごく手間がかかってたんですよ。設計マンというのは、頭の中では形はできているんです。でも、それを紙に落とすのに時間がかかる。だからバンダイでは、早い段階でCADを導入して、ペーパーレス化を実現したんです。

――設計をするときにまず最初に考えることはなんですか?

CADで細かくパーツを描いていく。行きつ戻りつ、試行錯誤の繰り返しによって、よりよいガンプラが生み出されるのだ!(c)創通・サンライズ

商品の大まかなところが決まったら、次は、お客様にどんな風に組み立ててもらうかというのを考えます。ガンダムのプラモデルはリアリティの追究を大切にしています。パーツを細かくすれば、それだけリアリティも増すんですけど、細かくしすぎると作りにくくなる。疲れちゃうし、あきちゃう人もいると思うんですよ。ガンダムの世界に入り込んで、楽しく作ってもらいたいんで、バランスが大切なんです。楽しく組み立ててもらいながらも、「わあ、細かくてすごいな」と思ってもらえるバランスを考えます。

かつては2つに分かれていたパーツを、組み立て易さを考えてひとつのパーツに

例えば、頭部のバルカン砲ですが、発射口が左右にありますね。昔は色分けもなかった。色分けが技術的に可能になったときより、組み易さを考えて1パーツにしています。U字型にすることで、1回で組めるようにしました。外見的にはまったく変わらないんですが、見えない部分でこういう工夫をしています。

――そういったパーツの変更は簡単にできるものなんでしょうか? 設計的にどういう影響があるんでしょうか?

今のガンダムは、内部がギッシリしてますから、表側――意匠面というんでしょうか、ちょっとした変更でも、いろいろ見直しが必要なんです。例えば、マスクのパーツをちょっと大きくしたとします。すると、その分、頬の内側を削らないと組み立てできなくなります。かといって、削りすぎるとパーツの強度が保てない。一部を変更するたびに、すべてのパーツを見ながらチェックしないといけないんです。これは本当に大変なんです。

Ver.3.0ではお台場のガンダムをかなりトレースしています

――MG Ver.3.0では、どのような流れで設計を進めましたか?

Ver. 3.0の設計は2カ月で行いまいた。まず外観を、パーツに別れていない状態で作ります。それからパーツに分けて関節の動きをチェックすると、成立しない部分が見えてくるんです。パーツの見直しだけでなく、外観を修正することもありますから、まさに行ったり来たりの試行錯誤です。

CADを使ってぐりぐり動かすシミュレーションもできるが、画面には数式らしきものが…、どうやら簡単に扱えるシステムではなさそうだ

――MG Ver.3.0にはどんな進化がこめられていますか?

Ver.2.0では、アニメの中での動きのリアリティを追求しました。じゃあ、3.0ではどうするかって議論になったとき、もしガンダムが実在してたらどんな動き方をするか、それを形にしようってことになったんです。ガンダムは実在しないものですけど、もしも本当に存在したらどうなってるんだろうって、リアリティの追求が大きなテーマなんです。

例えば、実際にガンダムが存在したら、パネルラインが分かれてるだろうし、関節の動きに合わせて動くじゃないかって。だから、膝を曲げると足のパネルがいっしょになってスライドするんです。細かい部分かもしれませんがこだわってますし、すごいと思ってもらえるポイントじゃないかと思います。

毎回、サプライズを提供したいんですよね。Ver.2.0では、可動域の広さや動き方の完成度が高いと、評価をいただきました。だから、3.0ではどんなサプライズが用意できるだろうって、時間を掛けて議論したんです。

もちろん、Ver.2.0でも、そのときできる最高のものを目指してました。でも、それから何年か経過して、技術的な進歩や、蓄積したノウハウがあって、Ver.3.0が実現できたんです。

――「もしガンダムが実在したら」ということは、お台場の実物大ガンダム立像も参考になっているのではないですか?

そうなんですよ。お台場に1分の1の実物大ガンダム立像があるわけです。実は、Ver.3.0ではお台場のガンダムをかなりトレースしています。あれが動いたらどうなるんだろうってイメージをこめてるんです。

――そうだったんですか。他に、Ver.3.0の裏話のようなものはありますか?

写真では伝わらないかも知れないが…、バーニアに秘められた思い、ぜひ実物で確かめてほしい(c)創通・サンライズ

実は、わかる人にだけわかってもらえればいいという、裏テーマは他にもあります。いっちゃっていいのかな…、いっちゃいましょうか? えーっと、背中のバーニアを見てください。内部にクリアパーツを埋め込んでいます。バーニアにクリアパーツってのは、今まで使ったことなかったんですね。なぜ今回、クリアパーツを使ったかといいますと、お台場の1分の1ガンダムって、バーニアからミストが出るんですよ。それを表現しているんです。ミストの残像というか、お台場で見た人が気付いて、「あ、こんなところに仕込んでるんだな」って、喜んでもらえるといいなと。他にもいくつかあるんですが、それは秘密です。……続きを読む